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移動遊園地

「ん? なにこのチラシ?」

 買い物から帰ってきた私は、郵便受けに入っていたきらびやかな紙を見つけた。

 とりあえず、ビリーが吠えてるし、エコバッグの中の冷食も仕舞わなきゃと、よく見もせず他の郵便物と一緒くたに抱えて、家に持ち込んだ。

 買ったものを所定の位置に収納し、ビリーに水を与え、私はインスタントコーヒーを淹れて、やっと一息ついたところで、私はその華やかな紙をよく見た。


「移動遊園地?」


 カラフルできらびやか、でもどこか不気味な印象も併せ持つそのチラシは、どうやらイベントのお知らせらしい。

 でも、この辺の催し物はほぼ和風なものばかりで、お祭りだの神事だの町内会行事だのは、昔ながらの回覧板で、物理的な束になって、お隣さんが持ってくる。読み終えたら、ハンコを捺して、次の人へ。私は新参者なので、最終受け取り人のため、町内会長さんのところまで持っていく。お隣さんとは言えない距離だが、ビリーの散歩や出勤時に持っていけば良いので、まあそれほどの苦労でもない。ちなみに、電子版が普通にあるので、スマホやパソコンから役所の公式サイトに行けばいつでも確認できる。

 とはいえ、この緑豊かな町では、この物体として回覧される方がなんだか似合うし、お年寄りの生存確認とか、あと新入り的にはお話するきっかけになるので、良いかなと思う。

 この辺の人たちは、この地に縁もゆかりも無い新参者にも閉鎖的ではないし、みんなオープンでフレンドリー、ときたま余った料理や野菜をくれたりするけど、勝手に家に入ってきたり根掘り葉掘りプライベートに踏み込んでくるほど厚かましくもなくて、私はここに仕事を得られたことを、とても幸運だと思っている。

 そして、よくわからないことは、その辺の人にすぐ聞くのが一番早くて有益なことも学習済みだ。

 というわけで、ビリーの散歩も兼ねて、ちょっとお出かけしよう。


 ビリーは、カレリアン・ベア・ドッグというフィンランド原産の猟犬だ。でも、日本犬っぽい顔つき、三角の立ち耳、ちょっと上がった口角が笑顔っぽくて愛らしく、毛色も白と黒のツートンカラー。性質的には、ガードドッグとしても運用されるらしいが、ビリーと私は、アメリカで訓練を受けて、日本へやってきた。正確には私は日本生まれだが、幼児の頃に渡米しており、日本の記憶はゼロだ。

 私とビリーがアメリカで習得したのは、クマを傷つけずに追い払う技術だ。

 アメリカでは、アメリカクロクマが相手だったが、ここ日本の本州ではツキノワグマが対象になる。

 本州では軽井沢で「ベアドッグ」と通称され、簡単に言えば、ニンゲンの生活圏内に入ってきたクマをイヌを使って追い払う、というものだ。北海道でも、ヒグマ対策として導入予定があるとかないとか。

 ツキノワグマは種としては絶滅危惧種(レッドリスト)には入っていないが、九州では絶滅、四国でも個体数が減っている。また近年の世論的なもの、基本的な猟期の点もあって、クマの命を奪わない手段が求められている。

 ちなみにだが、私がここに雇われ、ベアドッグのハンドラーとして働く前は、有害鳥獣としてはもちろん、猟期には積極的に狩られていたらしい。それもこれも、人の手が入っていない原初の森である霧呼山脈を有するが故だ。普通、狩られると分かったら、動物は逃げる。現役のクマ猟師が老いも若きもいるこの里山で、それでも田畑へ降りてくるクマがいるということは、山のなかには凄まじい数のクマが住んでいるということだ。

 まあ、今後も猟期には頭数制限に従いつつも狩るし、田畑を荒らされたらお代替わりに肉を食うと、入職初日にクマ猟師でもある役所の所長さんに輝く笑顔で断言された。

 週一で、クマかイノシシかサルかシカに田畑を襲われる人たち的には当然の感性なのだろう。農家でなくとも、一般人が遭遇して負傷するということも、年に何度かあるらしい。主にイノシシとサルがやばいらしい。

 そんなわけで、サル、シカ対策として、同僚に鷹匠もいる。

 動物と人間の、苛烈な生存競争が、この土地では当たり前なのだ。

 一度、小学校にクマが入り込み、給食室を襲ったため射殺されるという事件が起きた際、「クマが可哀想」電話が殺到したらしいが、「では生きたクマと、クマの食べかけの野菜を送ります。送料は持ちますので、住所をどうぞ」という超強火対応をしたことでも、軽く耳目を集めたらしい。その時はアメリカで療養中だったので、よく知らないが……なんていうか強すぎる。うん。


 それはともかく、この土地は一見バイオレンスだし、猟師率の高さが明らかに全国平均を上回っているのだが、スーパーマーケットで弾丸を買えるアメリカに比べれば平和なものだ。

 包丁よりもちょっと入手難度が高い程度の米国に比べ、日本は銃やライフルを常に持ち歩く者などいないし、その辺で手に入るものでもない。

 そんな安全な国を、より安全で平穏にする仕事ができるんだから、ここは私にとって天国だ。


 それよりも、この妙なチラシの方が、異様な感じがする。

 ここは大自然を切り拓きつつも、野生の中に人間が住まわせてもらっているような土地だから、移動遊園地がやってくるのはそんなにおかしくはないのかもしれないが、日本ではマイナーなエンタメだった気がする。アメリカではサーカスなんかと一緒によくやってきていたが…日本には広々した空間があまりないイメージがある。

 日本に戻って日が浅いので、詳しいところはよくわからないのだが。

 悩む私の横を、きびきびと歩くビリーは、今は仕事中ではないとわかっているのでオフモード。笑顔で目をキラキラさせ、尻尾をフリフリ、私の顔を見上げてくる。

 私も笑顔を向けて、良いお天気だねえ、なんて話しかけつつ、町内会長さんちへ。


「こんにちは〜」

「ワン!」

 私の声かけと一緒にビリーも吠える。するとひょっこりと、今日は庭にいたらしい町内会長さんのお孫さんが現れた。

「こんにちは。ビリーくんもこんにちは〜」

 私よりも少し年下の女性で、この町を含む役所に努めている。ビリーと私の、実質的な雇い主であり上司で、「クマを送る」対応をしたのも彼女だ。つまり強い。そして、クマと人間をできるだけ平和に共存させたいとも考えていて、私たちを見つけて呼んでくれたのだ。今ではたまにお茶をしたりもする、気軽な友人でもある。

 なにより、犬好きで、犬との距離の取り方を心得ている彼女は、気難しいビリーともすぐに打ち解けた。ビリーは笑顔を振りまき、しっぽもフリフリである。

「ねえ、こんなチラシがポストに入ってたんだけど」

「んん? うわー、あらま、久しぶりに見たな」

 早速きらびやかなチラシを差し出すと、彼女は驚きと、わずかに警戒心あるいは戸惑いのような声を上げた。

「たまーに来るの、この移動遊園地。わたしは行ったことがないんだけど」

「そうなんだ」

「うん。ほら、これよく読んで。いつ、どこに来るかの記載がないの」

「えっ?!……あ、ホントだ」

 たしかに、開催期間も開催場所もどこにも書かれていない。普通、あるよねえ…?

「行って遊んできた人はいるんだけど、チラシが貰えないと絶対に行けないし、チラシが貰えても行けないこともあるの」

「ど、どういうこと…?」

「さあ? まあ、旧市街名物の『フシギなやつ』のひとつだよ」

 彼女は、なんでもない日常のことのように笑った。

 そう。この町、通称・旧市街と呼ばれている一帯は、野性味溢れるだけでなく、怪談からフェアリーテイルのような話も豊かなのだ。

 初めてその手の話を聞いたときは、銃社会よりもヤバイところへ来てしまったかと戦慄したが、落ち着いてよく聞けば、たしかに『ふしぎ』『謎すぎる』『なんで??』って内容ではあるんだけど、対処法を知っていれば、さほど危険でもない。クマ対策と同じだ。それに、これだけ野生の満ちた土地なら、「実は科学的には解明されてる事象」と思しき話も多い。

 その地域特有の、共存する危険。知らなかったり、わざわざ危ない行動をしなければ避けられる。実際、この町には多くの人がいて、子どもも老人もいる。

 スーパーナチュラルな点は、未だに呑み込めないものの、過去に似た経験がある。アメリカにいたとき、車でビリーと仕事場へ向かう途中の道路の真ん中にUMAビッグフットにしか見えない化け物が突っ立ってると思ったら、絶滅危惧種のバイソンだったことがある。霧が出ていたから見間違えたのだ。

 だから、たぶんきっと、油断さえしなければ、大丈夫。説明のつく何かであると、そう信じたい。とにかく、気を抜かずに、冷静に対処するのが最適解。

「なる、ほど…え、これ、持ってて平気?」

「うん。わたしもチラシを貰ったことはあるんだよね。でも出会ったことはないだけで、同級生は行ったことあるって聞いたな。やっぱり子どものいるところに届くし、行くのも子どもが多いかな? でも、こうして大人のところにも普通に来るんだよね……あ、あと、みんな帰ってきてるはずだよ」

 不定期のキッチンカーとか石焼き芋屋さんみたいなものだよーと、彼女はニコニコ笑っているが、最後のひと言がホントに怖いのですが。あと、移動遊園地ともなると、規模が違うというか。

「とりあえず危ないモノではないから。見かけても、近付かないで帰ったって人もいるし」

「あ、そうなの?」

 ホラー映画だと、謎の魅力で誘われたり、いつの間にか入り込んだりで、強制入場かと思っていたんだけど。

「遊園地だもん。入るかどうかは、お客さまが決めるのがフツーでしょ」

「そ、そうだね…」

 色々と呑み込めないものの、この移動遊園地とやらは「そういうモノ」なのだろう。

 ツキノワグマ含め、野生動物が人里に降りてくる理由だって絶対に解釈が存在するわけじゃない。複雑な要因で、現れる。

 強制入場じゃないのなら、パンチ一発で、人の顔を半壊させるクマのほうが怖い。




「移動遊園地だ」

 私は愕然として、そのきらびやかな世界を見上げた。訓練と待機任務を終えて、家路についた私とビリーは「移動遊園地」に遭(・)遇(・)した。

 だって、訓練場の空き地へ行くとき、こんなのなかった。というか、他に空き地なんかないはず。


 夜の闇を、さんざめく色とりどりの光が彩り、不思議とワクワクする心地よく雑多な音楽。

 たぶん中央だろう、光と音楽の真ん中に、観覧車がある。めっちゃカラフルでエレクトリカルで、アメリカで見たことのあるやつよりガッツリめの観覧車。あんなもの、どうやって解体して運ぶの? あれ? え? 下にあるのメリーゴーランド?!

 他にも、バルーンだの食べ物だの、とにかくカラフルでキラキラしたものがあちこちにある。

 ビリーが鼻を高く上げて、空気の匂いを探っている。それから三角形の耳をぴくっと動かし、表情を輝かせた。

「ワン! ワンワン! ワオーーーン!!!」

 喜びに満ち溢れた吠え声を上げ、珍しく私を引っ張るようにして飛び跳ねる。

「ど、どうしたの?」

 美味しそうな匂いでもするのだろうか? ビリーは、使役犬だ。だから基本的にしつけは厳しく、食べるものも管理されている。とはいえ、ここへ来てからは、軽井沢以外では初のベアドッグということもあって、まあその、わりと緩めな生活を送っている。だが、盲導犬や警察犬などと同じく、無闇にはしゃがない。こんなにキャッキャッしてるのは子犬の頃以来。

 思わず、数歩、遊園地の方へ近寄るとジャンジャカと華やかな音楽の中に、鳴き声を聞いた。

「ブラック……ビアンカ……?」

 ブラックは犬の名前。ビリーの母犬。

 ビアンカは猫の名前。ブラック、ビリー、そして私の家族で“姉”のような存在。


 だった。


 あの日の、アメリカで。

 平凡な、自然豊かな穏やかな街で。

 私を狙って家に押しかけてきた、狂った男に撃ち殺された、私の家族のうちのふたり。

 絶対に聞き間違いじゃない。

 私とビリーは並んで、遊園地の敷地というか、なんとなく別(・)の(・)空(・)間(・)と感じるあたりへ進み、入り口のような気がする空間に佇む細長い小屋ーーというかチケット売り場?に近づいた。


「こんばんはー! ようこそいらっしゃいました! どうぞ中へ!」

「ん? えっ? チケット代? 入場料は? あ、あと犬…」

「チラシが届いたんでしょう? ならば遠慮なくお入りくださいませ! 犬でも人でも、猫も小鳥も蝉もヤモリも大蛇も子鬼も誰でも! どうぞ満喫してきてください!」

 小屋のアクリルガラス?と思しき仕切の中は真っ暗闇で、でも中から活気に溢れた陽気な声が「どうぞどうぞ」と繰り返す。

 意味が全くわからない。

「うっわ、初めてキターー!! これが!!!」

「やったー! 出会えた! ラッキー!! 幸広くんほんと引きがいい!」

「感謝永遠に!」

「感謝永遠に!」

「いや、それほどでも……うわあ嘘だ、観覧車か、あれ」

 背後の闇から、子どもが三人現れた。高校生くらいの男女と小学生くらいの男子。

「こんばんはー! わーお☆ すっごいゲストキターー!!」

 チケット売り場?さんは、元気いっぱい子どもたちを迎える歓声を上げ、子ども三人は迷うことなく遊園地の中へ走り込んでいった。よく見れば、派手派手しいネオンに紛れてよく見えないが、この町で出会ったことのある大人や子どもがたくさんいる。

「ええと……じゃあ、お邪魔します」

「ヤダヤダ〜、肩の力を抜いて? ここは遊園地ですよ!」

「あ、はい」



「こんばんは〜! 風船は好きですか? 嫌いじゃないならおひとつ如何?」

 ふらふらと歩いていたら、かなり高いところから声が降ってきた。見上げると、2メートルくらいの長い脚、カラフルな衣装とカラフルな仮面、鈴のついた三角形を二つくっつけたカラフルな帽子を身に着け、大量のバルーンを持ったヒトが立っていて、私にピンクと白のハート型の風船を差し出している。

「ワン!」

「はい、星型ですね! 首輪につけさせていただきますねー」

 私が固まっているうちにも(・)う(・)一(・)対(・)現(・)れ(・)た(・)腕(・)が、ビリーの首輪に白黒ツートンカラーでラメ入りの星形の風船をくくりつけた。

「風船、お嫌い? 大丈夫、この子たちは急に割れて大きな音を立てて、貴方を怖がらせたりしませんよ」

 カラフルだけど、どこか和風な仮面は笑顔だ。明るいが、少しだけ労るように柔らかなその声に、私は「そっちのショッキングピンクとブルーのシマシマのやつください」と答えた。

「どうぞどうぞ! フードコーナーも行ってくださいね。犬でも人でも、猫も小鳥も蝉もヤモリも大蛇も子鬼も誰でも、楽しめるメニューを、たあっくさん取り揃えておりますよ!」

 脚長風船配りさんは、バイバーイと手を振って歩き去り、次の誰かに風船を配っていく。

 傍らを見れば、ビリーが、頭のちょっと上ぐらいの高さに星を浮かべて、へっへっと舌を見せて笑っていた。



 そのあと。

 凄まじい原色の七色のアイスを食べた。もちろん犬用もあった。美味しかった。

 ポップコーンとチュロスも食べた。とうぜん、犬用もあった。美味しかった。

 観覧車とメリーゴーランドに乗った。観覧車はかなり大きくて、旧市街を見渡し、川向うの新市街もよく見えた。直下はカラフルな色の洪水で、あと、いつもの仕事場の山の方にはチラホラと光というか炎っぽい明かりが見えた。もちろんビリーも問題なく乗れて、というよりかビリーにリードを引っ張られ、カラフルな仮面と衣装の陽気なスタッフさんに「安全なアトラクションですよ! フラグじゃなくて!」と親指立ててめっちゃアピールしてくるので乗っちゃった。メリーゴーランドなんて、いつ以来だろう。幼い頃、私が乗っているのを、両親が、写真に撮ってくれたはずだ。

 家は、燃やされて、何もかも無くなったけど。

 すると聞こえてくる、家族の楽しそうな声。

 私はスカイブルーの馬に乗り、ビリーも器用に馬の臀部のうえにお座りしている。

 私とビリーが顔をメリーゴーランドの外に向けると、聞こえてくる。

 アップテンポの音楽と、人々の喧騒の中に、ブラックとビアンカと両親の、楽しそうな声が聞こえる。

 まるで、メリーゴーランドに乗る私とビリーの写真を撮りまくってるような、はしゃいだ声が。



 最後に、やっぱり犬用もあるクレープを食べて、私は帰ることにした。なんだか、そんな時刻になった気がしたからだ。



「お楽しみいただけましたか?」

 頭上から声が降ってくる。脚長風船配りさんだ。

「………はい、とっても」

「それは良かった!」

「ワン!!」

「ありがとうございます! モチベが上がりますー!」

 頭上で90度にお辞儀した脚長風船配りさんは、チケットを売らないチケット売り場さんのところまで一緒に来てくれた。

 ちなみにすべてのものが無料で、なぜかスタッフさんから「お代はいただいております」と言われてしまうのだ。勝手に魂とか奪われてるのか…とホラー映画的な疑いがよぎるものの、誰が払ってくれたのか、あるいは何をもって支払ったことになったのか、何故か分かる気がするのだ。分からないけど、分かる。

「お帰りですか? お楽しみいただけてなによりです! お気をつけて、おかえりくださいね!」

 チケットを売らないチケット売り場さんの、明るく元気な声。

 私は、遊園地を後にするときの、言いようのない寂しさを覚えながらも笑って手を振った。手首には、なんかバキバキ折ると一晩だけ発光するブレスレット(もちろん、カラフルなスタッフさんから貰ったもの)。ビリーの首にも三本くらい同じものが巻かれていて、背中には謎の完璧なバランスで、私が無料の輪投げで獲得したクマ?っぽいナニカのぬいぐるみが騎乗している。

「あ、お客様!」

 背を向けかけたところで、脚長風船配りさんが声をかけてきた。

「ここから一歩出たら、絶対に振り返ってはいけませんよ」

「えっ」

「いくら名残惜しくても、寂しくても、音楽が遠のくのを聴きながら、真っ直ぐ家に帰るのです。良いですね?」

 ホラーな奴で、よく聞くルールだ!!!

「もしも振り向くと、立派なスタッフになっちゃますよー!」

 一般通過していく、ペットボトル飲料のカートを押すカラフルなスタッフさんが、楽しげに言う。

 総毛立った。笑顔が引きつっているのが、自分でも分かる。

 ビリーも、ちょっと毛を逆立てている。

 でも、親切にも教えてくれるから、これは「邪悪」ではない。野生動物相手ならタブーとされることを言語での説明なんてあるわけないし、狂ったストーカーは身勝手なルールを押し付けて通らないと暴力を振るう。

「はい、わかりました。すっごく楽しかったです、ありがとう」

「ワン!」

「どういたしまして!」

 脚長風船配りさん、チケット売り場さん、そしてエレクトリカルな輝く世界のあちこちから、いくつも声が上がる。

 その中に、失った家族の声が混じっていた気がする。

 私は、寂しい、と強く感じながら、きっぱりと背を向け、ビリーはぴたりと横について、まっすぐに家に帰った。




 次の日の朝。

 風船は、まだふよふよと浮いていたが、光るブレスレットはもう輝きを失っている。

 ビリーはクマ?のぬいぐるみで遊んでいる。

 さて、朝ごはんはなに食べようかな。




キーワード「移動遊園地」終

「彼女」のアメリカパートを大幅に削って、こうなりました

アメリカパートというか、ストーカーされて両親と犬と猫と家を失い、本人もショットガンで撃たれて入院してたってエピソードですね


あんまり怖くなくなったので、ラストの「お約束」をいれてみました


他に削ったパート、というか大改稿することになる部分を見つけてしまい、まあ結果的にちょっと減らせて良かったなあ、と反省していません


今回の企画、やたらクマやイノシシが脅威として出てきますが、「防人さんちの異常な日常」のメインの舞台が旧市街になった場合、やはり同じ頻度でクマとイノシシが出てくると思います


怪異より怖い野生動物


そしてそれらを狩って得たゲームミートには、ハンターの顔や猟犬の顔、被害にあった農家さんの顔などが付記されています


ちなみに旧市街においては、人里に降りてくる獣は、霧呼山脈の中では最弱の個体や群れで、山奥の豊かな恵みは、より強い個体や群れが縄張りにしています

流石の薔薇も、山で一番強い雄の成体のイノシシとは戦いたくないらしいです

たぶん乙事主様みたいなのがいるんじゃないですかね

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― 新着の感想 ―
ホラー強めになるかな?と思って提案したお題でしたが、優しくて明るくてほんの少し寂しくも最後に怖さもある素敵なバランスのお話でした。拝読できて良かったです。
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