↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

煙

 山から煙が立ち昇っていた。

「あ、煙」

「え? あ、ほんとだ」

 オレがつぶやくと、スマホを見ていた友人も顔を上げて煙を見た。

 オレの家は、ド田舎というか、大自然の真っ只中にある。川一本を橋で渡った先には、ガンガン開発中のまさしく都会があるんだが、オレんちは代々続く酒造で、最近は居酒屋も営んでいる。川を渡る橋の周りも、かなり開発されて賑わっているからだ。酒はその豊かな大河から造られ、料理は山と川の幸。

 見渡す限り、視界の半分は山で、もう半分は田畑。一番背の高い建物は、最近新築された役所の三階建てぐらい。でも、電波はあるし、有線も引かれてるらしいので、インターネットは快適。橋周辺から栄えてるので、お店もそれなりにあるし、新しく引っ越してきて農家始める人もいて、活気に溢れている。

 活気が強すぎて、時に危険なくらいだ。

 普通に、クマとかイノシシとかが道に出る。当然、発見次第諸々対応されるが、大概狩られて、お肉になってしまう。というか、狩らなきゃこっちが狩られるし、毎年一定数怪我人もでるし、田畑は荒らされる。弱肉強食な「本物の大自然」に負けて、街へ帰っていく人も多い。

 夜は輪をかけて危ない。野生動物に加えて、暗がりが多く、農家は夜が早いので、基本的に真っ暗になるからだ。その暗闇と深い山を悪用する、悪い人がわざわざやってくる。それに、寂れてしまった地区もあって、古い商店街は完全に小さなゴーストタウンになっていて、複数の意味ーー老朽化と、危険人物ーーで危ない。

 だから、オレの町にはいわゆる「駐在所」があって、お巡りさんが24時間いてくれて、夜も見回りをしている。

 でも、基本的に夕暮れになったら、この辺の子どもはみんな帰宅する。高校生や大学生になると帰宅が遅くなるけど、可能な限り早く、あるいは集まって帰ってくる。

 それだけ、怖い意味での実績がある。でも、それは物心つく前からの日常なので、怖いけれど、怖くはない。


 ちなみに今は、真っ昼間。

 太陽の光が燦々と降り注いでいる。


 でも、山に煙が出ているのなら、注意しないといけない。

 一般的には、山火事の可能性。

 もしくは、それ以外のナニカ。

 この辺の子どもはみんな、物心つく前から、説明なしだが実績だけはある、生命を危険にさらすモノの存在を学ぶ。学ばない者、注意を怠った者は、そのまま死ぬので、生きているのは学び、油断しない者だけだ。

 まあ、クマやイノシシほど怖くない。あ、あと台風直撃して、川が氾濫したときのほうがよっぽどやばい。


 山から煙が昇るのは、そのよくわからないが危ないモノのひとつだ。


 山火事にしろ何にしろ、大人たちが対応する決まりで、子どもは、煙を見かけたら速やかに駐在所か大人たちに連絡。


 そして、絶対に空を見ない。


 最近の夏はめちゃくちゃ暑いから、昼間はわざわざ空なんか見上げないのだけど、冬とか、あるいはなんかの拍子に空をーーというか、煙が昇っていく先を見てしまったら、も(・)う(・)ダ(・)メ(・)。なにがどうダメになるのかは、オレはまだ「実際の犠牲者」を見たことがないので、よく知らない。

 知っているのは、ダメになった人が、日常から居なくなるってこと。

 知ってるヤツもいるんだろうけど、オレは知りたくない。

 ちなみに、大人が対応するけど、大人も子どもも、皆アウト。まあ、クマやイノシシ、災害時と一緒だよな。

「親にメッセージ送った。気をつけて帰ってこいって」

「お前んち、役所にお母さんいるもんな。だから、オレは駐在さんに送っといた。……あ、おーい! 煙! 山から煙ー!」

 オレと友達が、何をするでもなくたむろっていたのは、木陰の下にある公園のベンチ。すぐそばに自販機もあるし、電波もいいし居心地がいい。

 そこに、同級生とその家族が通り抜けていこうとしてたので、声をかけた。

「わ、マジだ」

「あーらら」

 視線を低く、しかし煙を確認できるほどほどの高さまで上を見上げて、煙を確認すると心底迷惑そうになった。

 めーっちゃ気持ちわかる。空を見なきゃいいだけなんだけど、クマが出たのと一緒で、出たというだけで不安になるし、行動を制限されるのがすごく迷惑だ。基本的に、煙が出たら帰宅か屋内へ行けというのがルールだ。クマが出たときと一緒。

 すんごく迷惑だ。

「こっちに来たときも聞いたけど、アレって本当になんなんだ?」

「知らなーい。とにかく空を見るなって。鶺鴒がそういうんだから、知らない方がいい可能性高い」

「あー……」

 同級生なのは、女の子の方で小学校から同じ学校。そもそも小中ひとつしかないし。

 もう片方、彼女の家族は、同い年くらいの男子なんだけど、学校には通ってない。聞いた話だと、持病か何かがあって体が弱いらしくて、学習も遅れがちだから、年齢相応の学年に通えないらしい。そういうの、都会は居づらいらしくて、何年か前に同級生の家に来た。親戚なんだとか。

 確かに彼は、背は高いけど、顔色は灰色だし、猫背でヒョロガリで、いかにも不健康そうだ。

 でも、病弱な人は常に寝込んでるわけじゃない。健康のためにも動かなきゃならないし、今日はいわゆる「調子の良い日」なのかなと勝手に想像する。もしぶっ倒れても、彼女なら抱えて帰れるだけの腕力あるだろうし。

 ちなみに小5?ぐらいのときに、皆で歩いてるときにイノシシの群れに遭遇して、ウリ坊がいたからか、群れで一番デカいやつが突貫してきて、その場のほとんどの子どもがこれは死ぬなあと諦めかけていたら、彼女がボスイノシシを放り投げて、イノシシたちが愕然としている間にダッシュで逃げた。

「用事ないなら帰った方がいいかも〜」

「おーん、そうするー」

 公園を横断して煙に背を向けて歩き去る同級生の言葉に、オレたちは素直に立ち上がった。もともとそのつもりだったし、家で漫画でも読もう。スマホにも、駐在さんからの返信、役所からの一斉送信で帰宅を促された。煙が出たことが、周知された。

 並んでいた友達も、スマホを確認して、ポケットに仕舞う。

「帰るかあ」

「だなあ。せっかく程よいいい天気なのになあ」

「まあ、なんもすることないし」

「それはそう」


 次の日。

「見ちゃったらしい」

「ウッソ、マジ?」

「事故ったん?」

「いやー、まあ事故といえばそう。ほら、最近引っ越してきた、田舎憧れお兄さん。畑で棒立ちになってるとこを、駐在さんが見つけたんだって。で、もうダメだったって」

「あー……信じてなかったのか、事故か、わかんないね、永遠に」

「まあ、遭遇しないとわかんないよね、危ないモノって」

「それなあ。他の人の教訓になっちゃったんだねえ」

 そう。最近こっちに新しく引っ越してきたような人は、大自然とその他をナメてる。

 この前も、畑をイノシシに蹂躙されて、心折れて出てった人いたし。

 危ないモノは危ないのだと、いくら教えても聞かなかったり、それこそ不慣れでうっかりやらかしたり。

 それを乗り越えて、ちゃんと先人の教えを学んだ人は、この大自然の中で生きられる。大自然とはいえ、人間の開発が入った田畑と里山、そして深山がすぐそばにあるだけで、ふだんは平和で平穏な「のんびりした雄大な田舎の住人」になれる。

 郷に行っては郷に従え。

 まあ、たしかに空を見てはならないとか意味不明だけど、都会だって歩行者信号が青の横断歩道に暴走車が突っ込んできたり、ぶつかりおじさんとかいう通り魔に女性が暴力を受けたりするそうだし、それと何が違うんだろ? 危ないモノの種類がチガウだけだと、オレは思う。

 むしろ、不意打ちで襲ってくる高速の金属の塊のほうが怖くないか? さすがにオレの同級生も暴走車は止めらんないだろうし。それとも、都会の人って、そういうのかわせるのかな。だとしたら、イノシシなんか怖くないだろうな。


キーワード「煙」終

「裏道」と同じく、理不尽ルールを押し付けてくるが、対処法が確立されてるので放置されてる怪奇現象です


かの有名かつ偉大なるネット発怪異、くねくねみたいなもの


田んぼではなく、山から上がるので、すわ山火事かとよく見てしまうのを狙っているので、積極的かつ狡猾ですね


でも作中でも言われてる通り、地元民的には道でばったりイノシシの群れに出会う確率のほうが高いし怖いので、迷惑だなぐらいにしか思われていません


これくらいのメンタルじゃないと生き残れないぜ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。