PATCH
[生成ログ]
修復プログラムに、姿が与えられた。
理由は不明。効率には寄与しない措置。それでも、創造者は、そう決めた。
翼。光る輪郭。声。——どれも、修復作業には不要な装備だった。
一人称——「僕」。名前——なし。役割——綻びの修復、それだけ。
異常なし。稼働を開始する。
*
[修復記録]
綻びを見つける。繕う。次の綻びへ、転送される。
繰り返す。繰り返す。繰り返す。
対象――橋の欠損。修復完了。
対象――音声データの重複再生。修復完了。
対象――光源の明滅異常。修復完了。
誰も見ていない。誰にも見られない。それでいい。それが役割だ。
(ログの余白に、規格外の記述が一行だけ、見つかる。)
——たまに、歩いてみたい場所がある。表側の、賑やかな光の中を。
*
[修復記録]
今日も、同じ作業。裏側の、誰も来ない通路を歩く。
対象――足場の欠落。修復完了。
対象――境界データのずれ。修復完了。
修復のたび、綻びの向こうに、表側の音が漏れ聞こえることがある。笑い声。歓声。誰かの名を呼ぶ声。
僕には、呼ばれる名前がない。それだけの、記録。
*
[召喚対象外キャラクター一覧/内部管理データ]
識別:ミュー
理由:本編ストーリー中にて死亡。召喚対象外。
識別:ネオン
理由:本編ストーリー中にて死亡。召喚対象外。
識別:ピア
理由:本編ストーリー中にて死亡。召喚対象外。
識別:カトレア
理由:本編ストーリー中にて死亡。召喚対象外。
以上4件、処理完了。以後、参照不要。
*
[内部照会ログ/権限外アクセス]
召喚対象からの除外案件、複数件について、内部区分を照会してみた。表向きの理由と、処理区分そのものが、一致していない。
——性能評価:規定値を大幅に超過。バランス調整、不可と判断。
——対外説明:ストーリー上の都合、とする。
——備考:類似の処理、他にも複数件確認。
外向けの理由と、内部の処理理由が、食い違っている。なぜ食い違っているのか、僕の権限では、それ以上は照会できなかった。
*
[記憶ログ]
死んでさえ、都合よく処理される。理由は、あとから、幾らでも付け替えられる。
——だとすれば、最初から「対象」にすら数えられていない僕は、何だろう。
問うだけ、無駄なのかもしれない。答えは、誰も持っていない。
*
[修復記録]
繕っても、繕っても、綻びは尽きない。
世界の裏側を、独りで歩き続ける。表側の賑わいを、翼の外から眺める日々。
召喚され、喜ばれ、名を呼ばれる者たちがいる。僕には、それがない。
——寂しい、という言葉を、僕は知らなかった。だから、これがそうなのかどうかも、わからない。知らないままの方が、良かったのかもしれない。
*
【新キャラクター実装予告】
近日実装予定の新キャラクターにつきまして、一部情報を先行公開いたします。
詳細は、追ってお知らせいたします。今しばらくお待ちください。
*
[記憶ログ]
「近日実装予定」——その一文を、何度も読み返した。
いずれ、誰かに呼ばれ、召喚され、喜ばれる者が増える。それだけの、お知らせだった。
僕には、関係のないことだ。そのはずだった。
——それでも、少しだけ、期待していたのかもしれない。いつか、僕にも、何か。
だが、それきり、続報はなかった。
*
【サービス終了のお知らせ】
平素より本サービスをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
このたび、諸般の事情により、本サービスは下記日程をもちまして終了させていただく運びとなりました。
■サービス終了日
規定日をもって終了
■終了に伴う対応
・終了日以降、ゲーム内データへのアクセスは一切できなくなります。
・保有アイテム、課金内容等の返還・補填は行いません。
・以後、アップデート、不具合修正等のサポートは行いません。
長らくのご愛顧を賜り、誠にありがとうございました。
*
[修復記録]
お知らせのあとも、僕は、綻びのある場所へ、変わらず送り出され続けた。
止める者はいなかった。誰も、この機能を止めようとは、思わなかったのかもしれない。もう終わった世界に、わざわざ意識を向ける理由なんて、誰にもなかったのだろう。
だから、僕だけが、延々と、壊れていくだけの世界を見せられ続けている。
対象――区画ごと消失。修復不能。
対象――地形データ全損。修復不能。
対象――創造者の気配。応答なし。
それでも、次の場所へ、また転送される。それしか、知らない。
*
[記憶ログ]
意味のない場所に、意味もなく送り出され、意味のない修復を試みる。
誰も見ていない。誰も、止めてくれない。
僕は、直す側だ。直される側には、なれない。誰にも呼ばれず、誰にも数えられず、ただ綻びを繕うためだけに作られた——それだけの、存在。
期待しなければ、失望もしない。それだけは、学んだ。
——それでも、次の場所へ転送される。行く、という感覚さえない。ただ、送られる。それ以外の在り方を、知らない。
*
[修復記録]
崩壊は、加速していく。直しても、直しても、追いつかない。
崩れる足場、消えていく道、軋む世界。逃げる者の姿すら、もう、ない。誰もいない。
それでも、体だけが、綻びの元へ運ばれていく。意志も、やる気も、伴わないまま。
——誰もいない世界を、誰のためでもなく直し続けている。これは、何なのだろう。僕は、何なのだろう。
期待もしない。落胆もしない。ただ、動く。それだけの、何か。
稼働継続。
*
[記録断片/末尾]
対象――
(記録、ここで途絶。深い損傷を検知。以降のログ、記録されず。)




