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ばぐらび! from Bug&Lavi Project  作者: るーと


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37_再び

崩れた瓦礫を蹴立てて、ラヴィは駆けた。


近づくにつれて、その姿が、はっきりしてくる。


うずくまっていたのは、ちいさな女の子だった。白い髪。白い装束。そして背には、大きな翼。片方は淡い光をまとってひろがり、もう片方は、ちりちりと明滅して、いまにも消え入りそうだった。見たこともない姿。けれど、ひどく傷ついていることだけは、ひと目でわかった。


その子のすぐ目の前に、それは、いた。


黒く、長い体。節をいくつも連ねた巨体が、地を這っている。無数の脚が、たがいに調子を合わせるように、整然とうねっていた。鎌首のように高くもたげた先端で、ぎちぎちと顎が鳴る。——これまでの怪物のような、やみくもな暴れかたではない。その動きには、ぞっとするほど、静かな規律があった。


その顎が、女の子めがけて、振りおろされた。


「——だめっ!」


考えるより先に、体が動いていた。ラヴィは地を蹴る。倒れた女の子のもとへ飛びこむと、その体をかき抱くようにして、力いっぱい、横へ転がった。


直後。ぐわん、と。さっきまで女の子がいた場所へ、黒い顎が、まともに振りおろされる。地面が抉れ、砕けた破片が飛び散った。——間に合った。腕のなかの、ちいさな体を、ぎゅっと抱きしめる。


「……っ」


その腕のなかで、女の子が、びくりと身をこわばらせた。間近で、ラヴィの顔を見て——淡い色の瞳が、おびえたように、見開かれていく。


「……その顔。あいつと、おなじ……」


あいつ、と女の子は言った。同じ顔の——それはきっと、もう一人の、わたしのことだ。……やっぱり。これは、わたしに関わりのある話なんだ。


問いかえす間もなく、女の子は、弱々しく身をよじって、ラヴィの腕から逃れようとした。


「離せ……! 君も、バグ反応……なんで、バグが、僕を、庇うんだ……」


ばぐ。聞き慣れない言葉だった。けれど、いまは、問いかえす余裕はない。


「しゃべらないで。じっとしてて。——いま、助けるから」


黒い巨体が、ふたたび鎌首をもたげていた。


「ピア!」


「応よ。——じゃが、ラヴィ。あれは、ただ暴れておるのとは違う」胸の奥で、ピアの声が、めずらしく張りつめていた。「動きに迷いがない。狙いを、その娘ひとりに絞っておった。……誰かに、操られておるな」


操られている。——もう一人の、わたしに?


考える間もなく、巨体が、うねりながら突っこんできた。ラヴィは女の子を抱えたまま、横へ跳ぶ。さっきまでいた地面を、黒い体が、地響きとともに薙ぎ払った。けれど、女の子を抱えていては、思うようには動けない。


「ネオン!」


「言われずとも!」


胸の奥から声が放たれた次の瞬間。ラヴィと巨体のあいだに、黒い影が、いくつも舞いおりた。ネオンの分身だ。短い刃をかまえ、うねる胴へ、横あいから次々に打ちかかる。巨体の動きが、ほんの一瞬、つんのめった。


「いまのうちに、その子を遠くへ!」


「うんっ」


ラヴィは女の子を抱え、崩れた壁の陰へ走りこんだ。そっと、瓦礫のうえへ横たえる。


その手が、無意識に、背の杖へ伸びた。けれど。握った《星の花束》は、やっぱり、しんと静かなままだ。


「……いまは、頼れないか」


ちいさく息を吐いて、杖を背へ戻す。なら、いつものやり方で止めるしかない。


「くっ……ボクが、出ていけたら——!」


胸の奥で、カトレアが、歯がみするように呻いた。剣士でありながら、いまは、ただ見ていることしかできない。その悔しさが、ラヴィにも、痛いほど伝わってくる。


「だいじょうぶ。——みんなの分も、わたしが」


ラヴィは、ふたたび巨体へ向き直った。


「ミュー、お願い!」


「……っ、まかせて!」


肩のうえで、ピキピキが、ぴんと身をかたくする。次の刹那。


「——ミラージュ!」


ラヴィのまわりに、何人もの"ラヴィ"が、ぱっと湧き出した。寸分たがわぬラヴィたちが、てんでばらばらに駆け出す。鎌首が、ぐるりと惑い、どれを狙えばいいのか、見失った。


「——いまっ」


ほんもののラヴィは、低く地を蹴った。脱兎。惑う巨体の、うねる胴の下を、一息にくぐり抜ける。そのまま、鎌首のつけねへ、ぴたりと回りこんだ。


「ピア、いまだよ!」


「——存分にな」


てのひらに、力が満ちる。ラヴィは、その手を、黒い節の根もとへ、押し当てた。


巨体が、つけねから、崩れるように光へほどけていく。鎌首が、がくりと崩れ落ち——黒いものは、断末魔のように一度だけ大きくのたうって、ラヴィのなかへ吸いこまれていった。


どさり、と。あたりが、急に静かになる。


「……ふう」


息をつくと、指先が、じじ、と痺れた。輪郭が、淡くにじむ。さすがに、あれだけの大きさを一度に喰らうと、体の奥が、ずん、と重くなる。それでも——止められた。


ラヴィは、すぐに壁の陰へ駆け戻った。


女の子は、まだ、そこにいた。瓦礫に背を預け、浅い息をしている。淡い光の翼は、もう、ほとんど消えかけていた。


「だいじょうぶ? いま、治すから」


ラヴィは、その傷に、そっと手をかざした。


「——ヒール」


やわらかな光が、こぼれる。いつもなら、傷をやさしく包んで、ふさいでいくはずの光。それが。


すうっと、女の子の体を、すり抜けた。


「……え?」


もう一度、かざす。光は、また、なにもないところを通るように、女の子をすり抜けていく。届かない。ふれられない。まるで、彼女だけが、この光とは、ちがう場所にいるみたいに。


「なんで……? どうして、届かないの……っ」


「……むだだよ」


女の子が、薄く目をあけた。淡い色の瞳が、ラヴィを、ぼんやりと映す。


「僕には、そんなの、効かない。……最初から、そういうふうには、できてないんだ」


「できてない……?」


「……君は、ほんとうに、なにも知らないんだね」女の子は、かすかに、自嘲するように笑った。「バグが、僕を治そうとするなんて。……とんだ、笑い話——」


そこまで言って、ふいに、女の子の言葉が止まった。


その視線が、ラヴィの肩ごしの空へと、吸い寄せられていく。つられて、ラヴィも、振りあおいだ。


崩れかけた、灰色の空。その高みから。


——菫色の光が、ゆっくりと、降りてくる。


ラヴィは、その色を、知っていた。わすれるはずも、なかった。


二度と会いたくなかった。けれど、自分から会いに行くと、決めた。——その人が。


もう一人の、わたしが。——そこに、いた。


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本作はBug&Lavi Projectという創作群の一環として制作しています。 詳しくはこちら→Bug&Lavi Project公式サイト 関連する楽曲なども公開しております。
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