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ばぐらび! from Bug&Lavi Project  作者: るーと


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26/91

20_メゾン

ひとしきりの騒ぎが落ち着いたころ。


ミューが改めてあたりを見回して、むうっと頬をふくらませた。


「……ねえ、ラヴィ。ここ、なんにもなくない?」


言われて、ラヴィもぐるりと内側を見渡した。確かに。果てのない薄明かりの空間に、ぽつんとネオンの部屋がひとつ浮かんでいるきり。あとは、ただ薄暗い光がどこまでも続いているだけだ。


「黒いのには部屋があるのに。あたしの寝るとこは? ねえ、あたしのは、ないの?」


「あ……」


そういえば、とラヴィは思った。いつだったか。ネオンのためにつよく想い描いて——気づけば、床と窓と寝台のある、ひとつの部屋を作ることができた。


なら。


「……作れる、かも」


ぽつりと、ラヴィは言った。


「みんなの部屋。ここ、わたしの内側だから。たぶん……ちゃんと想えば、ミューの部屋も、ピアの部屋も作れる」


「ほんと!?」ミューの目が、ぱあっと輝いた。「やった、やった! ねえ、作って! あたしの部屋、いますぐ!」


「ほう」


ふっと、薄明かりのなかにピアの姿が浮かんだ。腕を組み、いかにも面白そうに目を細めている。


「内側に家を建てる、か。——せいぜい、見物させてもらおうではないか」


ピアは、すっかり楽しむ気でいるらしかった。


「……えっと。じゃあ、やってみるね」


ラヴィはミューのとなりに立って、目を閉じた。ミューの部屋。ミューが喜ぶ部屋。——つよく想い描く。胸の奥から、あのときのあたたかい力が、すうっと満ちていく感覚。


そして、目を開けると。


「……うわ」


ミューが、ぽかんと口をあけた。


目の前にどんと現れていたのは——天井の見えないほど馬鹿でかい、宮殿のような大広間だった。きらきらした柱が何本も並び、ありえないほど豪奢なシャンデリアまでぶら下がっている。


「お、おっきすぎ……っ!」ミューがたじろいだ。「こんなの、落ち着かないよ……っ!」


「ご、ごめん。加減がよく分からなくて……っ」


ラヴィは慌てて、それを消そうとした。けれど今度は、なかなか消えてくれない。焦れば焦るほど、シャンデリアだけが、ぽん、ぽん、と数を増やしていく。


「ちょ……っ、増えてる、増えてる!」


「あ、あれ……っ!?」


「ぷっ……くくく」


ピアが、こらえきれずに噴き出した。


「いや、すまん。——なに、慣れよ、慣れ。最初からうまくやれる者などおらん。ほれ、力を抜いて、もう一度」


その面白がる声に、けれど、どこか励ますような響きもまじっていて。ラヴィはひとつ息を吐いて、肩の力を抜いた。


何度かやり直して。


ようやく、ミューの部屋がそれらしい形になってきた。けれど今度は、ミューの注文が次々とふくらんでいく。


「あ、ね、もっと高いとこがいい! 見晴らしのいい、てっぺん!」


「うん」


「それと、ふっかふかの、おっきい寝床! 飛びこんでも痛くないやつ!」


「うん、うん」


「あ、あと、あと——」


ミューは思いつくままに、あれもこれもと、はしゃいでいたけれど。


ふと、何かに気づいたように言葉を止めた。


それから、ちらりとラヴィを見て。もじもじと指先を合わせる。


「……あのさ。やっぱり、部屋、そんなに立派じゃなくていい」


「え?」


「あのね。——あたしの部屋、ラヴィの部屋のすぐ隣がいい。なんなら……ラヴィとおんなじ部屋でも、いい。だって……ひとりの部屋なんて広くたって、ラヴィがいないならさみしいもん」


上目づかいにそう言って、ミューはぱっと、ラヴィの腕にしがみついた。


「……ミュー」


ラヴィの胸が、じんとあたたかくなる。この子は。ほんとうにいつも、まっすぐにラヴィのそばを求めてくれる。


——でも。ふと、ラヴィの胸を、ちいさな不安がよぎった。わたしは、ずっとこの内側にいられるわけじゃない。外を歩いているあいだは、この子はここで、ひとりきりになってしまう。こんな調子で、寂しくはないだろうか。——だいじょうぶ、かな。


けれど、いまは。その心配をぐっと呑みこんで、ラヴィは優しく笑った。


「うん。——いいよ。じゃあ、ミューの部屋、わたしの隣に作ろうね」


「やった!」


「……おい。腕にひっつくな。歩きにくいだろう」


ネオンが、半眼で口を挟んだ。


「いいでしょ、べつに! あんたには関係ない! ……ていうか、黒いの。なんで、ずっとついてくるの?」


「お前が騒がしいから、見張っているんだ。——この、ちんちくりんが」


「ちんちくりんって言うなぁーっ!」


またしても火花を散らすふたり。ラヴィはあいだで、あはは、と笑うばかりだ。


「さて。次は、儂の番か?」


ピアが、悠々と進み出た。


「言うておくが。儂はどんな部屋でも構わんぞ。隅っこに寝床がひとつあればよい。——派手なものは、いらん」


口ではそう言って、素っ気なく肩をすくめる。


けれど、ラヴィは。ピアのために、ちゃんとした部屋を作りたかった。ミューを助けてくれた、この人のために。——ピアが心地よく過ごせる場所。ピアに似合う場所。それを胸に想い描く。


やがて、現れたのは。


落ち着いた淡い暗がりに沈んだ、静かな部屋だった。やわらかな灯りがひとつ。古い書物がぎっしりと並んだ棚。深く沈みこめそうな、ゆったりとしたひとり掛けの椅子。窓の外には、星屑のような光がちらちらと流れている。——どこか、浮き世から離れた場所のような。


ピアは、しばらくその部屋を眺めていた。


「……ふん。大げさな」


そう言いながらも、その足は自然と、あの椅子のほうへ向かっていた。腰をおろし、ふう、と息をつく。指先で本の背をそっとなぞる。——その横顔は、なんだか、ひどく満ち足りて見えた。


口で何と言おうと、やっぱりこの人の本心は、こういうところにこぼれてしまう。ラヴィは、ちいさく笑った。


「ピアにも、ちゃんとここに居てほしいから。——だから、作ったの」


ぽつりとそう言うと。


ピアの指が、ふと止まった。


ほんの一瞬。いつも飄々としたこの人が、珍しく言葉をなくしたように見えた。それから、ふいと顔を本のほうへそむける。


「……物好きな娘じゃ」


低い呟き。けれど、その声には、いつものからかうような棘がなかった。


それから、ラヴィはネオンのほうを振り向いた。


「ネオンの部屋も。せっかくだから、すこし手を入れよう? なにか、欲しいものある?」


「私は……今のままで構わない」ネオンは、ぶっきらぼうに言った。「べつに、不自由はしていない」


「でも」


ラヴィはネオンの部屋を見つめた。床と窓と寝台だけの、簡素な部屋。——きっとこの人は、自分から何かを欲しがったりはしないのだ。


だから、ラヴィのほうで想いをめぐらせる。ネオンが静かに過ごせるように。——刀を置ける場所を。ひとりで心を静められる、窓辺の席を。簡素なままに、けれど少しだけ居心地よく。


部屋が、静かに形を変えていく。


ネオンは、それを黙って見ていた。やがて、ぼそりと、


「……まあ。悪くはない」


それだけ言った。けれど、その耳の先が、また、ほんのり赤かった。


そうして。


最後に残ったのは——みんなで集まる場所。


「いちばん、大事なところだね」


ラヴィは呟いた。——いつだったか。旅の途中で見つけた、空き家の灯りの下。ミューとふたりで囲んだ、あたたかい夕餉。あの温もりみたいな場所を。——みんながいつでも集まれる場所を。


胸の奥から、これまででいちばんつよく、あたたかい力が満ちていく。


その手応えは、これまでとすこし違っていた。ただ、ぼんやりと形を結ぶのではなく。——もっと確かに。もっとしっかりと。薄明かりだけだった内側が、いま、確かな手ざわりをもって、ひとつの"場所"になっていく。


現れたのは、あたたかな灯りに満ちた、広すぎず狭すぎない居間だった。大きな丸いテーブル。ふかふかの、いくつもの椅子。隅には、小さな暖炉まである。


「わ……っ、あったかい……!」ミューが目を輝かせて駆けこんだ。「ねえ、ねえ、ここ、あたし、ここに座る! ラヴィのとなり!」


「猫娘。お前は、いちいちうるさい」


「あんたは隅っこでいいの! ね、ラヴィ、黒いのはいちばん遠くね!」


「勝手に決めるな」


わいわいと、椅子の取り合いがはじまる。ピアは悠然と、いちばん奥の椅子に腰かけて、そのありさまを肴に、ケラケラと笑っていた。


ラヴィは、その光景をしばらく、ただ見つめていた。


——できた。


みんなの部屋。みんなの居間。ラヴィの内側に、ちいさな、けれど、確かなすみかが。


かつて、ここには何もなかった。誰の声もしなかった。それがいまは、それぞれの部屋に灯りがともり、まんなかの居間には、笑い声が絶えない。——わたしの中に、帰る場所ができた。


胸が、いっぱいになる。


「——ふむ。なかなか立派になったではないか」


ピアが満足げに内側を見渡して、それから、にやりと笑った。


「よし。この住まいに、名をつけてやろう。——そうじゃな。『メゾン・ド・ラヴィ』、とでもしておくか」


「めぞん……?」ミューが首をかしげる。「なに、それ」


「『ラヴィの館』、とでもいう意味じゃよ。——どうじゃ。洒落ておろう」


「えーっ、なんか、気取ってる!」


「ふはは。よいではないか。家主の名を冠してやったのじゃ。ありがたく思え」


ピアは、すっかりごきげんだった。さっきから、ラヴィがあれこれと部屋を生み出すのを、この人はずっと、誰より面白がっている。


「メゾン・ド・ラヴィ、か」


ラヴィは、そのちょっと大げさな名前を、口のなかで転がしてみた。——なんだか、くすぐったい。でも。悪くない。


「……ふふ。うん。気に入った」


ふと。


ラヴィの視線が、居間の灯りから、すうっと外れた。


その先には、まだ何も作られていない、薄明かりの遠い暗がりが広がっている。しんと静かな空白。——なぜだろう。そこを見ていると、胸の奥が、ほんの少しざわついた。まるで、いつかそこにも、誰かが来るのを待っているような。


——けれど。


「ラヴィー! なにしてるの、早くこっち!」


ミューの明るい声に呼ばれて。ラヴィは、その淡いざわめきを、そっと胸の奥にしまった。


いまは。このあたたかな灯りの、まんなかへ。


「……うん。いま、行く」


ラヴィは笑って、みんなのいるテーブルのほうへ歩み寄った。


メゾン・ド・ラヴィ。ラヴィのちいさなおうちに、あたたかな笑い声が、いつまでもともり続けていた。


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本作はBug&Lavi Projectという創作群の一環として制作しています。 詳しくはこちら→Bug&Lavi Project公式サイト 関連する楽曲なども公開しております。
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