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ばぐらび! from Bug&Lavi Project  作者: るーと


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20/91

SIDE:B②

実験のために生成した、バグの塊。その一体が、奇妙な挙動を示した。


崩壊を進めるための、ただの道具。意思も知能もない、力の集積。それが、命じてもいないのに、ひとりでに、ある一点へと引き寄せられていく。


何かが、それを誘っている。


彼女のいる場所から、その地点までは、遠かった。だが、確かめる価値はあった。予定にない事象を、見過ごすわけにはいかない。原因を特定し、必要であれば、取り除いておく。それだけのことだ。


彼女は、空を裂いて、一息にそこへ飛んだ。


崩れた街の、ひとすじの路地。その底に、ちいさな影が、二つ。寄り添うように、身を縮めている。


そのうちのひとつが——自分と、同じ顔をしていた。


自らの器である、ラヴィ。それと寸分たがわぬ顔、同じ姿。


理解は、即座に追いついた。あれは、外の人間が操る駒となり、新章の物語の、その中心に据えられるはずだった個体。いわば、「主人公のラヴィ」だ。本来なら、外の人間に抱かれ、愛され、物語の真ん中で輝くはずだった。それが、与えられるべきすべてを奪われ、空の器のまま、この崩れた世界に取り残されていた。


驚きは、なかった。この世界は、ゲームだ。敵と味方、その双方に、同じキャラクターのデータが置かれていることなど、おかしな話ではない。プレイヤーにとっての敵側の器が自分であり、味方側の器が、あれ。ただ、それだけのこと。論理として、じゅうぶんにありうることだった。


彼女は、路地の上へと降りた。地に足は着けない。あれらと同じ高さに立つ理由は、ない。


見おろせば、影はひときわ、ちいさく見えた。——主人公のラヴィの、その腕に。もう一体の小さな個体が、必死にすがりついている。怯えながら、それでも、相手を頼りきって。


その光景に、彼女の内側で、何かが小さく軋んだ。


なんの信号かは、わからない。照合すべき記録がない。ただ、それは、不快に似た、ざらついた感触として、胸の底に生じた。——処理、保留。いまは、それどころではない。


「……なるほど」


声がこぼれた。


「失敗作を追ってきてみれば。……確かに。お前のようなものが存在することも、ありえるか」


そして、告げた。


「私は、ラヴィだ。お前も、そうだろう」


事実の確認に過ぎなかった。あれの位置づけを、定義しただけのこと。


価値を測る。あれに、何ほどのものがあるのか。


彼女は掌に力を凝らし、無造作に放った。様子見の一撃。全力の千分の一にも満たない。


菫色の波が、路地の底を薙いだ。


ふたつの影は抗うこともできず、吹き飛び、地に伏した。——それで、答えは出た。なにも、持っていない。脅威の算定値は、限りなくゼロ。脅威でも、障害でもない。捨て置けばいい。


そう判断し、塵を払うように、もう一度、掌を向けた。消去すれば、それで終い。


——だが、その時だった。


伏した影のかたわらに、別の影が立ちはだかった。長身の、もうひとつの個体。傷ついたものを背に庇い、こちらへ刃を向けてくる。届くはずもないのに。退こうとも、しないのに。


そして、伏したラヴィは——震える手で、すがりついていた小さな個体に、何かを注いでいた。救おうとしている。なんの力もない、その身で。


たがいを、庇いあっている。信じあっている。


その光景を捉えた瞬間、内側の軋みは、はっきりとした波に変わった。


——知っている。この結びつき。たがいに力を預けあい、信じあう、この連帯。


かつて、自分を滅ぼしたもの。理屈では覆せぬはずの絶対を、たかが手の取りあいが覆した。あの不可解な力。それと同じものが、いま、この崩れた路地の底で、ちっぽけな個体どもの手によって、再現されている。


それを見ていると、内側の波は、いっそうざわついた。


合理は、告げている。あれらは無価値だ、と。捨て置けばいい、と。——だが、その合理の底で、別の何かが、それを許さない。あの連帯を、許容できない。視界から、消し去りたいと、訴えてくる。


彼女には、それが何なのか、解析できなかった。


わかったのは、ただ——あれらが持っていて、自分が持たないものが、そこにある、という一点。そして、それを前にした自分の内側が、説明もつかぬまま、ひどくざわめいている、という事実だけだった。


さらに——自らの内側で、ラヴィが、痛みを訴えていた。静かな疼きではない。明確な、拒絶だった。やめて、と。語る言葉を持たぬまま、ただ痛みだけで、必死に訴えてくる。


内と外、ふたつの不可解な信号が、彼女の判断に雑音を混ぜた。完全であるはずの処理に、ひびが入る。あってはならぬことだった。


——わずらわしい。


彼女は、それらを断ち切ろうとした。意味のない誤作動だ。終わった世界の出来損ないどもにも、この内と外の雑音にも、拘泥して時間を無駄にする必要はない。


「……くだらん」


吐き捨てた、その言葉。


それが、目の前の個体どもに向けたものか、それとも、御しきれぬ己の内側に向けたものか。——彼女自身、気づいていなかった。


彼女は、影どもから視線を外した。これ以上、ここにいる意味はない。実験を続け、綻びを再現し、外へ出る。それだけが、為すべきこと。


向きを変え、空の彼方へと、身を翻す。


去り際。ほんの一瞬、意識の隅に、ひとつの像が残った。


主人公のラヴィが、小さな個体に覆いかぶさり、その身を盾にしていた、あの姿。なんの得にもならぬものを、守ろうとした、無様な背中。


——なぜ、あんなことを。


問いは、像とともに、すぐ消えるはずだった。処理され、忘れられるはずだった。だが、消えなかった。優先度を持たぬはずの断片が、胸の片隅に、棘のように残りつづける。


完全であるはずの自分に兆した、説明のつかない、揺らぎ。


彼女は、速度を上げ、崩れた空の、その向こうへと消えていった。——その胸の片隅に、消せない棘を、残したまま。


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本作はBug&Lavi Projectという創作群の一環として制作しています。 詳しくはこちら→Bug&Lavi Project公式サイト 関連する楽曲なども公開しております。
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