「迷い込んだキツネ」 第2話(昼)「近づきたいのに、すぐ行くと恥ずかしい」
近づきたかった。
ずっと——近づきたかった。
でも——真正面から——行けなかった。
真正面から——行くと——見えてしまう。
近づきたいと——思っているのが——見えてしまう。
それが——恥ずかしかった。
近づきたいと——思っていることを——知られたくなかった。
断られたら——どうしようと——思った。
近づいたのに——離れていかれたら——どうしようと——思った。
だから——真正面からは——行けなかった。
遠回りして——行った。
なんとなく——そっちに——来ただけみたいな——顔をして——行った。
近づきたくて——来たんじゃなくて——たまたま——来ただけみたいな——顔をして——行った。
でも——本当は——近づきたかった。
ずっと——近づきたかった。
昼過ぎ——
キツネは——診察室の——隅に——いた。
先生が——来た。
「どうですか」
「……不思議です」
「何が——ですか」
「……遠回りして——来たのに——ちゃんと——来られたんですよ」
「そうですよ」
「……真正面からじゃなくても——来られたんですよ」
「来られましたよ」
「……遠回りでも——よかったんですね」
先生が——穏やかに——聞いた。
「なぜ——真正面から——行けないんですか」
キツネが——少し——考えた。
「……近づきたいって——バレたくないから——ですよね」
「バレたくない——ですか」
「……近づきたいと——思っていることを——知られると——恥ずかしくて」
「恥ずかしい——ですか」
「……断られたら——どうしようと——思って」
「断られると——思いますか」
「……思わないですけど——でも——怖くて」
「怖いんですね」
「……近づきたいのに——近づいたら——離れていかれそうで」
先生が——静かに——言った。
「近づいたら——離れていかれそう——ですか」
「……そう感じることが——あって」
「だから——真正面からは——行けなくて」
「遠回りして——来るんですね」
「……そうです」
「でも——今日——来ましたよね」
「……来ました」
「遠回りして——でも——来ましたよね」
「……来ました」
先生が——穏やかに——言った。
「遠回りすることは——悪くないですよ」
キツネが——止まった。
「……悪くないですか」
「そうですよ」
「……遠回りは——ずるいですか」
「ずるくないですよ」
「……正直じゃないですか」
「正直ですよ」
「……どうしてですか」
先生が——静かに——言った。
「遠回りしながらも——近づきたいという——気持ちは——本物ですから」
キツネが——止まった。
「……本物——ですか」
「そうですよ」
「……真正面から——行けなくても——近づきたいという——気持ちは——本物ですか」
「本物ですよ」
「……遠回りしても——近づきたいという——気持ちは——変わりませんか」
「変わりませんよ」
キツネが——少し——考えた。
「……遠回りが——私の——近づき方ですかね」
「そうかもしれませんよ」
「……真正面から——行けなくても——近づき方が——あるんですね」
「ありますよ」
「……遠回りでも——近づけるんですね」
「近づけますよ」
キツネが——また——少しだけ——前に——出た。
さっきより——先生に——近かった。
遠回りせずに——少しだけ——前に——出た。
「……少しだけ——真正面から——来られました」
「来られましたね」
「……恥ずかしいですけど」
「恥ずかしくていいですよ」
「……近づきたいって——バレましたか」
先生が——穏やかに——笑った。
「バレましたよ」
「……恥ずかしいですね」
「恥ずかしくないですよ」
「……近づきたいと——思っているのが——見えても——いいですか」
「いいですよ」
キツネが——また——少しだけ——前に——出た。
今度は——さっきより——真正面に——近かった。
遠回りしなかった。
「……来られました」
「来られましたね」
「……真正面からに——近かったですよ」
「そうですよ」
「……恥ずかしかったですけど——来られました」
先生が——穏やかに——笑った。
「来られましたよ」
近づきたいという——気持ちが——見えても——大丈夫だった。
遠回りしなくても——来られた。
それが——今日——少しずつ——分かってきた。




