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動物たちの言葉がわかる獣医と動物たちの楽園  作者: 1010
第2章 「おはようございます」が言える日々

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「迷い込んだキツネ」 第1話(朝)「入口で、何度も止まる」

「おはようございます!」


ミナの声が——診察室に——響いた。


「おはよう」


サクラギ先生は——コーヒーを——置きながら——穏やかに——返した。


今日の——朝は——少し——違った。


扉が——開く前から——気配がした。


でも——誰も——入ってこなかった。


ミナが——窓から——外を——覗いた。


扉の前に——何かが——いた。


キツネだった。


小さな——キツネだった。


扉の前に——立っていた。


でも——入ってこなかった。


少し——前に——出た。


でも——また——止まった。


また——前に——出た。


また——止まった。


「先生——キツネが——扉の前に——いますよ」


「そうですね」


「入ってこないんですよ」


「そうですね」


「どうしたんですかね」


先生が——扉を——少しだけ——開けた。


「こんにちは」


キツネが——飛び退いた。


でも——逃げなかった。


少し——離れた場所に——いた。


先生を——見ていた。


「入りますか」


キツネが——少し——前に——出た。


でも——また——止まった。


「……入りたいんですけど」


小さな——声だった。


「入っていいですよ」


「……でも——すぐ——入れなくて」


「ゆっくりで——いいですよ」


キツネが——また——少し——前に——出た。


扉の——前まで——来た。


でも——また——止まった。


「……もう少しだけ——待ってもらえますか」


「待っていますよ」


先生が——扉を——開けたまま——中に——戻った。


ミナが——小声で——聞いた。


「何て——言ってるんですか」


「入りたいけど——すぐ入れないと——言っています」


「入りたいのに——入れないんですね」


「そうです」


ミナが——また——窓から——覗いた。


キツネが——扉の前に——いた。


入ろうとして——止まっていた。


また——入ろうとして——止まっていた。


「先生——怖いんですかね」


「怖いのかもしれませんし——別の理由かもしれません」


「別の理由——ですか」


「もう少し——見てみましょう」


しばらくして——キツネが——扉から——入ってきた。


でも——真っすぐには——来なかった。


壁沿いに——ゆっくりと——歩いた。


遠回りして——診察台の——前に——来た。


「……来ました」


「来ましたね」


「……遠回りしてしまいました」


「いいですよ」


「……真っすぐ——来られなくて」


「いいですよ」


キツネが——先生を——見た。


「……近づきたかったんですけど」


「近づきたかったんですね」


「……真正面から——行くのが——恥ずかしくて」


先生が——静かに——聞いた。


「恥ずかしい——ですか」


「……真正面から——行くと——見えすぎる気がして」


「見えすぎる——ですか」


「……近づきたいって——バレてしまうから」


「バレてしまう——ですか」


「……近づきたいと——思っているのが——見えると——恥ずかしくて」


ミナが——先生に——小声で——聞いた。


「何て——言ってるんですか」


「近づきたいけど——真正面から——行くのが——恥ずかしいと——言っています」


ミナが——キツネを——見た。


壁沿いに——遠回りして——来た——キツネ。


近づきたかったのに——真正面から——来られなかった——キツネ。


「先生——遠回りして——来たんですね」


「そうですよ」


「でも——ちゃんと——来ましたよね」


「来ましたよ」


「遠回りでも——来たんですよね」


「そうですよ」


ミナが——キツネに——向けて——小さく——言った。


「来てくれて——よかったですよ」


言葉は——届かないかもしれなかった。


でも——なんとなく——そう言いたかった。


キツネが——ミナを——見た。


少しだけ——耳が——動いた。


それが——返事のように——見えた。

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