「隙間で、まだ動けないデグー」 第2話(昼)「動ける体なのに、動けない自分が恥ずかしい」
隙間の中は——
暗かった。
でも——慣れていた。
こういう日が——あった。
体は——大丈夫だった。
足も——動いた。
目も——見えた。
耳も——聞こえた。
全部——大丈夫だった。
なのに——動けなかった。
動こうとすると——体が——止まった。
一歩——踏み出そうとすると——何かが——止めた。
怖いわけじゃなかった。
痛いわけじゃなかった。
ただ——動けなかった。
それが——恥ずかしかった。
動ける体を——持っているのに——動けない。
他の動物は——ちゃんと——動いているのに——私だけ——隙間に——いる。
情けなかった。
恥ずかしかった。
だから——隙間に——入った。
隙間に——いれば——見えない。
見えなければ——恥ずかしくない。
見えなければ——情けなくない。
でも——今日——先生が——言った。
「動けなくて——いいですよ」
「そこに——いていいですよ」
その言葉が——ずっと——頭の中に——あった。
動けなくて——いい。
そういうことが——あるんだと——思った。
昼過ぎ——
デグーは——隙間の中に——いた。
先生が——隙間の前に——来た。
「どうですか」
「……います」
「いますね」
「……動けないです——まだ」
「そうですか」
「……恥ずかしいです」
先生が——静かに——聞いた。
「恥ずかしい——ですか」
「……動ける体なのに——動けないから」
「動ける体なのに——動けないことが——恥ずかしいんですか」
「……はい」
「他の動物は——ちゃんと——動いているのに」
「……私だけ——こんな——隙間に——いて」
「……情けないです」
先生が——穏やかに——言った。
「情けなくないですよ」
「……情けなくないですか」
「情けなくないですよ」
「……でも——動ける体なのに——動けないんですよ」
「動ける体と——動けない気持ちは——別ですよ」
デグーが——止まった。
「……別——ですか」
「そうですよ」
「……体は——動けるのに——気持ちが——動けないことが——あるんですか」
「ありますよ」
「……それは——恥ずかしいことじゃないですか」
「恥ずかしくないですよ」
「……なぜですか」
先生が——静かに——言った。
「気持ちが——動けない時は——体を——休ませている時でも——あるんですよ」
デグーが——また——止まった。
「……体を——休ませている——ですか」
「そうですよ」
「……動けないことが——休むことですか」
「そうかもしれませんよ」
「……動けないことに——意味が——あるんですか」
「あると——思いますよ」
デグーが——少し——考えた。
「……動けない日が——あると——動ける日が——分かりますよね」
「そうですよ」
「……動けない日が——あるから——動ける日が——ありがたいですよね」
「そうかもしれませんよ」
「……動けない日も——必要なんですかね」
先生が——穏やかに——笑った。
「必要かもしれませんよ」
デグーが——また——丸まった。
「……もう少し——ここに——いていいですか」
「いていいですよ」
「……動けるように——なったら——出てきますか」
「出てきたくなったら——出てきてください」
「……出てきたく——なったら——ですか」
「そうですよ」
「……動けるように——なったら——じゃなくて——出てきたくなったら——ですか」
「そうですよ」
デグーが——少し——考えた。
「……違うんですね」
「違いますよ」
「……動けるように——なることと——出てきたくなることは——違うんですね」
「そうですよ」
「……出てきたく——なるまで——ここに——いていいんですね」
「いていいですよ」
デグーが——また——小さく——丸まった。
隙間の中で——静かに——いた。
動かなかった。
でも——さっきより——少しだけ——楽そうだった。
動けない自分が——恥ずかしくなかった。
動けない日も——必要なのかもしれない。
その感覚が——少しずつ——デグーの中に——広がっていった。




