表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物たちの言葉がわかる獣医と動物たちの楽園  作者: 1010
第2章 「おはようございます」が言える当たり前な日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/139

「誰かの名前を覚えたいヒヒ」 第3話(夜)「ちゃんと覚えていてくれた」

夕方になって——


楽園が——


静かになってきた。


太陽が——傾いて——


空が——オレンジ色に——なっていた。


うさぎは——隅の——柔らかい草の上に——座っていた。


今日も——足の——包帯を——見ながら——思い返していた。


今日——ヒヒさんが——来た。


手帳を——持って——みんなの名前を——書いていた。


一生懸命——覚えようとしていた。


でも——疲れそうだった。


うさぎは——思った。


ヒヒさんは——私の名前を——覚えてくれたかな。


少し——気になった。


その時——ヒヒが——近づいてきた。


「うさぎさん」


「はい」


「今日——足は——どうでしたか」


うさぎが——少し——驚いた。


「あ——だいぶ——よくなりました」


「よかったです」


「ヒヒさん——覚えていてくれたんですね」


「覚えていましたよ」


「左足でしたよね」


うさぎが——また——驚いた。


「……左足——ですよ」


「よかった——ちゃんと——覚えていました」


ヒヒが——ほっとした——顔をした。


うさぎは——少し——嬉しかった。


でも——ヒヒが——去った後——うさぎは——気づいた。


ヒヒさんが——今日——一番——話していたのは——亀さんだった。


手帳に——一番——丁寧に——書いていたのも——亀さんのことだった。


「今日が——いい天気ですね」という——亀さんの言葉を——ヒヒさんが——繰り返していた。


つまり——ヒヒさんが——今日——一番——ちゃんと——覚えたのは——亀さんのことだった。


私の名前じゃなかった。


でも——うさぎは——思った。


悲しくなかった。


むしろ——なんだか——嬉しかった。


なぜだろうと——思った。


しばらく——考えた。


「うさぎさん」


亀が——ゆっくりと——近づいてきた。


「亀さん——ヒヒさんと——話してましたよね」


「そうですよ」


「何を——話してたんですか」


亀が——静かに——言った。


「全部——覚えなくても——いいんじゃないかと——話しました」


「そうですか」


「誰かの名前を——ちゃんと——覚えるだけで——十分だと」


うさぎが——頷いた。


「ヒヒさん——私の名前も——覚えていてくれましたよ」


「そうですか」


「左足だって——言ってくれました」


「覚えていたんですね」


「でも——亀さんのことを——一番——ちゃんと——覚えていた気がして」


亀が——少し——間を置いた。


「そうかもしれませんね」


「それで——」


うさぎが——少し——考えながら——言った。


「なんか——嬉しかったんですよ」


「嬉しかった——ですか」


「自分の名前を——一番——覚えてもらえなかったのに」


「なぜですか」


うさぎが——空を——見ながら——言った。


「ヒヒさんが——誰かを——ちゃんと——覚えていてくれたから——かな」


亀が——静かに——聞いた。


「どういうことですか」


「全部——覚えようとして——全部が——おぼろげになるより」


「誰かを——ちゃんと——覚えている方が——なんか——温かい気がして」


亀が——ゆっくりと——頷いた。


「そうですね」


「ヒヒさんが——誰かを——ちゃんと——覚えていてくれる人だって——分かったから」


「嬉しかったんですかね」


「そうかもしれません」


うさぎが——また——足の——包帯を——見た。


「亀さん」


「はい」


「今日——ヒヒさんに——ちゃんと——覚えてもらえて——よかったですね」


亀が——小さく——笑った。


「嬉しかったですよ」


「日向ぼっこが——好きだって——覚えていてくれて」


「今日が——いい天気ですねって——言ったことも——覚えていてくれて」


「そんなことまで——覚えていてくれたんですね」


「そうですよ」


うさぎが——また——空を——見た。


オレンジ色が——少しずつ——紫に——変わっていた。


「亀さん」


「はい」


「全部じゃなくても——誰かが——ちゃんと——覚えていてくれるだけで——十分ですね」


亀が——静かに——頷いた。


「十分ですよ」


「世界が——少し——温かく——なりますね」


「なりますよ」


うさぎが——小さく——笑った。


その時——扉が——開いた。


サクラギ先生だった。


「今日も——お疲れ様でした」


先生が——楽園を——見渡しながら——言った。


亀が——ゆっくりと——言った。


「今日も——いい日でしたよ」


「そうですか」


「ヒヒさんが——来てくれて」


「ヒヒさんが——来たんですね」


「一生懸命——名前を——覚えようとしていて」


先生が——静かに——笑った。


「そうですか」


「全部——覚えられなくても——誰かを——ちゃんと——覚えていて」


「それで——十分だって——気づいたみたいで」


「よかったですね」


うさぎが——先生に——言った。


「先生——ヒヒさん——また——来ますかね」


「来ると——思いますよ」


「また——手帳を——持って——来ますかね」


「来るかもしれませんね」


「でも——今度は——全部——書こうとしないかもしれません」


先生が——穏やかに——笑った。


「それが——いいですよ」


楽園が——静かになった。


亀が——最後の——日光を——浴びていた。


うさぎが——足を——伸ばしていた。


犬が——空の——匂いを——嗅いでいた。


鳥が——翼を——そっと——動かしていた。


タヌキが——木の根元から——少しだけ——顔を——出していた。


全員が——全員の名前を——覚えているわけじゃなかった。


でも——誰かが——誰かを——ちゃんと——覚えていた。


それだけで——楽園は——十分——温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ