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動物たちの言葉がわかる獣医と動物たちの楽園  作者: 1010
第2章 「おはようございます」が言える日々

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「山に帰れない熊」 第1話(朝)「お金がないんだ」

「おはようございます!」


ミナの声が——診察室に——響いた。


「おはよう」


サクラギ先生は——コーヒーを——置きながら——穏やかに——返した。


今日の——朝は——少し——違った。


扉が——開く前から——音がしていた。


ズ——ズ——ズ——


何かが——引きずるような——音だった。


扉が——ゆっくりと——開いた。


大きな影が——入ってきた。


熊だった。


大きな——体だった。


でも——右の前足を——引きずっていた。


毛が——所々——汚れていた。


目が——疲れていた。


「あ——」


ミナが——思わず——後ずさった。


でも——すぐに——止まった。


熊が——ミナを——見た。


怖くなかった。


ただ——疲れた目だった。


「こんにちは」


先生が——穏やかに——言った。


熊が——先生を——見た。


「……こんにちは」


低くて——大きな——声だった。


でも——小さかった。


声が——小さかった。


「足が——痛いですか」


「……痛い」


「いつからですか」


「……山で——岩に——挟まって」


「山から——下りてきたんですか」


熊が——少し——間を——置いた。


「……下りてきた」


「なぜですか」


「……足が——痛くて——動けなくて」


「山では——誰も——助けてくれなくて」


「だから——下りてきた」


先生が——静かに——聞いた。


「ここが——分かりましたか」


「……匂いで——分かった」


「匂い——ですか」


「……ここは——動物を——助けてくれる匂いがした」


先生が——穏やかに——頷いた。


「診せてもらいますよ」


熊が——少し——固まった。


「……お金が——ない」


先生が——止まった。


「お金——ですか」


「……動物は——お金が——ない」


「人間は——お金を——払えるけど」


「……俺は——払えない」


「だから——来ては——いけなかったかもしれないけど」


「足が——痛くて——来てしまった」


ミナが——先生を——見た。


先生が——穏やかに——言った。


「払えなくて——いいですよ」


熊が——顔を——上げた。


「……いいですか」


「いいですよ」


「……本当に——いいですか」


「本当ですよ」


熊が——また——少し——固まった。


「……なぜですか」


「足が——痛いんでしょう」


「……痛い」


「だったら——診ますよ」


熊が——低く——うなった。


泣いているのかもしれなかった。


ミナが——先生に——小声で——聞いた。


「お金の話は——本当に——いいんですか」


先生が——穏やかに——言った。


「いいですよ」


「でも——」


「動物は——お金を——持っていないですから」


ミナが——少し——黙った。


「……そうですよね」


「当たり前のことに——気づかなかったです」


「そうですね」


「人間は——お金を——払えるけど——動物は——払えない」


「そうですよ」


「でも——動物も——来ていいんですよね」


「来ていいですよ」


ミナが——また——熊を——見た。


大きな体が——診察台の前に——あった。


足を——引きずっていた。


山から——下りてきた——熊。


お金が——ないから——来ては——いけないと——思っていた——熊。


でも——来た。


「先生——この子——山に——帰れますか」


先生が——足を——診ながら——言った。


「今すぐは——難しいですよ」


「しばらく——かかりますか」


「そうですよ」


「その間——どこに——いるんですか」


先生が——穏やかに——言った。


「いい場所が——ありますよ」


「いい場所——ですか」


「案内します」


ミナが——熊を——見た。


「先生——私も——一緒に——行っていいですか」


「いいですよ」


先生が——熊に——言った。


「一緒に——来てもらえますか」


熊が——また——少し——固まった。


「……どこへですか」


「安心できる——場所ですよ」


「……動物が——いる場所ですか」


「そうですよ」


「……俺みたいな——でかい動物も——いていいですか」


「いていいですよ」


熊が——ゆっくりと——立ち上がった。


足を——引きずりながら——でも——立ち上がった。


「……行きます」


「よかったですよ」


三人が——歩き出した。


先生が——前に。


熊が——真ん中に。


ミナが——後ろに。


ビルの——階段を——上がった。


屋上への——通路を——歩いた。


扉が——見えてきた。


「この先ですよ」


先生が——扉を——開けた。


光が——差し込んだ。


広い——空間が——広がった。


空が——近かった。


太陽が——当たっていた。


風が——柔らかかった。


亀が——日向ぼっこを——していた。


うさぎが——草の上に——いた。


タヌキが——木の根元から——顔を——出していた。


鳥が——翼を——動かしていた。


熊が——止まった。


「……ここは」


「動物の楽園ですよ」


「……俺が——いていい場所ですか」


先生が——穏やかに——言った。


「いていいですよ」


亀が——ゆっくりと——熊を——見た。


「こんにちは」


熊が——少し——驚いた顔をした。


「……こんにちは」


「大きいですね」


「……大きい」


「でも——ここは——大きくても——小さくても——いていいですよ」


熊が——また——低く——うなった。


今度は——さっきより——少しだけ——違う声だった。


ミナが——楽園を——見回した。


いろんな動物が——いた。


みんな——お金を——持っていなかった。


でも——みんな——ここにいた。


「先生——楽園の動物たちは——みんな——お金なしで——来てるんですよね」


「そうですよ」


「でも——診察室には——人間も——来ますよね」


「そうですよ」


「人間は——お金を——払えるけど——動物は——払えない」


「そうですよ」


「でも——どっちも——来ていい」


「来ていいですよ」


ミナが——また——熊を——見た。


足を——引きずりながら——でも——楽園の——真ん中に——立っていた。


空を——見上げていた。


「先生——熊さんは——山に——帰れますかね」


「いつか——帰れますよ」


「でも——今は——ここにいていいですか」


「いていいですよ」


ミナが——小さく——言った。


「ここにいていいですよ」


熊が——ミナを——見た。


大きな目だった。


疲れた目だった。


でも——少しだけ——柔らかくなった気がした。

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