「誰かの名前を覚えたいヒヒ」 第1話(朝)「動物の楽園」
ビルの——
屋上への——
通路は——
細かった。
サクラギ先生の——診察室がある——ビルの——階段を——上がって——扉を——開けると——そこに——続いていた。
知らない人には——ただの——屋上通路だった。
でも——その先に——扉が——あった。
その扉を——開けると——世界が——変わった。
広かった。
空が——近かった。
太陽が——直接——当たった。
風が——柔らかかった。
ここが——動物の楽園だった。
ケガをした動物が——来る場所。
心のケアを——している動物が——来る場所。
サクラギ先生が——時々——顔を——出す場所。
今日も——いろんな動物が——いた。
隅の——日当たりのいい場所に——亀が——いた。
甲羅を——太陽に——当てながら——目を——閉じていた。
「今日も——いい天気ですね」
亀が——ゆっくりと——言った。
誰に——言ったわけでも——なかった。
でも——近くにいた——うさぎが——答えた。
「そうですね」
うさぎは——前足の——包帯を——気にしながら——言った。
先週——段差から——落ちて——ケガをした——うさぎだった。
「足は——どうですか」
亀が——聞いた。
「だいぶ——よくなりました」
「よかったですね」
「亀さんは——今日も——日向ぼっこですか」
「これが——一番の——薬ですよ」
うさぎが——クスッと——笑った。
少し離れた——場所に——老いた——犬が——いた。
芝生の上に——寝そべって——空を——見ていた。
目が——少し——曇っていた。
最近——視力が——落ちてきた——犬だった。
でも——耳は——よかった。
風の音を——聞きながら——静かに——息をしていた。
その近くに——小さな——鳥が——いた。
片翼を——怪我した——鳥だった。
飛べない間——ここで——過ごしていた。
「今日——飛べそうですか」
うさぎが——鳥に——聞いた。
「まだ——少し——痛いです」
「焦らなくて——いいですよ」
「分かってるんですけど——ね」
鳥が——翼を——少しだけ——動かした。
痛そうだった。
でも——諦めてはいなかった。
楽園の——真ん中には——古い——木が——あった。
その木の——根元に——タヌキが——丸まっていた。
人間が——怖くて——ここに——来た——タヌキだった。
人間のいない——この場所が——好きだった。
「タヌキさん——今日は——出てきたんですね」
亀が——言った。
「……少しだけ」
「それで——いいですよ」
「……うん」
タヌキが——また——小さく——なった。
でも——完全には——隠れなかった。
楽園は——静かだった。
でも——寂しくなかった。
それぞれが——それぞれの——ペースで——そこにいた。
その時——扉が——開いた。
大きな影が——入ってきた。
ヒヒだった。
体は——大きかった。
でも——目が——少し——疲れていた。
楽園に——入ってきた——瞬間——辺りを——見回した。
亀を——見た。
うさぎを——見た。
犬を——見た。
鳥を——見た。
タヌキを——見た。
そして——小さな——手帳を——取り出した。
何かを——書き始めた。
「……亀さん——うさぎさん——犬さん——鳥さん——タヌキさん」
小さく——呟きながら——書いていた。
亀が——ヒヒを——見た。
「こんにちは」
ヒヒが——顔を——上げた。
「あ——こんにちは——えっと——亀さん——ですよね」
「そうですよ」
「よかった——ちゃんと——覚えてました」
ヒヒが——ほっとした——顔をした。
うさぎが——ヒヒを——見た。
「ヒヒさん——また——手帳に——書いてるんですか」
「書かないと——忘れそうで」
「みんなの名前を——全部——書いてるんですか」
「全部——覚えたくて」
うさぎが——少し——心配そうな——顔をした。
「大丈夫ですか——なんか——疲れてそうで」
ヒヒが——少し——笑った。
「大丈夫ですよ——全部——覚えたいだけで」
でも——その目は——少し——疲れていた。




