「離しちゃダメな子」 第3話(夜)「一人っ子には、分からない世界」
片付けをしながら——
ミナは——今日のことを——
思い返していた。
ドリちゃんと——ブロちゃんのことが——
頭から——離れなかった。
数分——離れるだけで——体調を——崩してしまう。
ずっと——一緒にいた——二匹。
一人の——自分が——分からない——二匹。
「先生」
ミナが——モップを——止めて——言った。
「はい」
「今日の——ドリちゃんと——ブロちゃんのことなんですけど」
「はい」
「数分——離れるだけで——体調を——崩すんですよね」
「そうですよ」
「それって——どういうことなんですかね」
先生が——カルテを——閉じながら——言った。
「ずっと——一緒にいたから——一人の——自分が——分からないんだと——思いますよ」
ミナが——少し——黙った。
「一人の——自分が——分からない——か」
「そうです」
「先生——二匹——何て——言ってましたか」
「ブロがいると——全部——分かると——言っていました」
「全部——分かる——ですか」
「そうです」
「一緒にいると——全部——分かるんですね」
「そうですよ」
ミナが——窓の外を——見た。
「先生——私——一人っ子なんですよ」
先生が——ミナを——見た。
穏やかな——目だった。
「そうですか」
「だから——今日の——二匹が——なんか——不思議で」
「不思議——ですか」
「数分——離れるだけで——体調を——崩すって——私には——分からなくて」
「そうですか」
「一人でいることが——当たり前だったから」
「はい」
「誰かと——ずっと——一緒にいることが——どういうことか——分からなくて」
先生が——穏やかに——聞いた。
「一人でいることは——どうですか」
ミナが——少し——考えた。
「……慣れてます」
「慣れている——ですか」
「一人が——当たり前だったから」
「でも——寂しくなかったですか」
ミナが——少し——間を——置いた。
「……寂しかった時も——ありましたよ」
「そうですか」
「でも——一人でいることが——普通だったから——寂しいと——気づかなかった時も——あって」
「そうですか」
「ドリちゃんと——ブロちゃんは——逆なんですよね」
「どういうことですか」
「一緒にいることが——普通だったから——一人が——分からない」
「私は——一人が——普通だったから——一緒が——分からない時が——あった」
先生が——静かに——頷いた。
「正反対ですね」
「正反対ですよ」
「でも——どちらも——自分の——当たり前ですよね」
「そうですよ」
ミナが——また——モップを——動かし始めた。
しばらく——静かだった。
「先生」
「はい」
「二匹——一人の——練習を——するって——言ってましたよね」
「そうですよ」
「一緒に——一人の練習を——するって——言ってましたよね」
「そうですよ」
「なんか——かわいいですよね」
「そうですね」
「一人じゃないから——一人の練習が——できるんですよね」
「そうですよ」
ミナが——小さく——笑った。
「私——逆の練習が——必要ですかね」
「逆の練習——ですか」
「誰かと——一緒にいる——練習」
先生が——穏やかに——笑った。
「そうかもしれませんね」
「でも——ここに——来てから——少しずつ——できてきた気がしますよ」
「そうですか」
「先生と——毎日——おはようございますって——言えてるから」
「そうですね」
「それが——一緒にいる——練習でしたかね」
先生が——静かに——笑った。
「そうかもしれませんよ」
ミナが——また——窓の外を——見た。
「先生——ドリちゃんと——ブロちゃん——また——来ますかね」
「来ると——思いますよ」
「一人の練習——できるように——なりますかね」
「少しずつ——なると——思いますよ」
「でも——ずっと——一緒にいても——いいですかね」
先生が——穏やかに——言った。
「いいですよ」
「一緒にいることが——二匹の——形ですから」
「一人の練習も——しながら——でも——一緒にいてもいいんですね」
「そうですよ」
ミナが——小さく——笑った。
「私も——一人でいながら——でも——誰かと——一緒にいていいですかね」
「いていいですよ」
「一人が——当たり前だったけど——誰かと——一緒にいることも——覚えていいですかね」
「覚えていいですよ」
診察室の——電気を——消した。
今日も——終わった。
ミナは——扉を——閉めながら——思った。
一人が——当たり前だった。
でも——ここに——来てから——毎日——おはようございますを——言える人が——いた。
それが——一緒にいることの——始まりだったのかもしれない。
ドリちゃんと——ブロちゃんとは——全然——違う形だけど。
それが——私の——形だった。
「おつかれさまでした」
「おつかれさまです」
二人の声が——夜の——駐車場に——響いた。
今日も——一人だった何かが——少しだけ——一緒に——なった日だった。




