「離しちゃダメな子」 第1話(朝)「妹も、呼んでくるわね」
「おはようございます!」
ミナの声が——診察室に——響いた。
「おはよう」
サクラギ先生は——コーヒーを——置きながら——穏やかに——返した。
今日の——最初の患者は——少し——賑やかだった。
扉が——開いた瞬間——明るい声が——聞こえた。
「すみません——この子を——診てもらいたくて」
若い——女性が——キャリーケースを——持って——入ってきた。
中から——大きくて——ふわふわした——猫が——出てきた。
サイベリアンと——マンチカンの——ミックスだった。
足が——短くて——でも——毛が——長くて——ふわふわだった。
「かわいいですね」
ミナが——思わず——言った。
「でしょう——ドリっていうんです」
「ドリちゃん——ですか」
「そうです——1歳で」
ドリちゃんは——診察台の上に——乗った。
でも——すぐに——きょろきょろし始めた。
「先生——この子——最近——食欲が——なくて」
「いつからですか」
「三日前から——なんですけど」
「他に——気になることは——ありますか」
飼い主が——少し——考えてから——言った。
「あの——実は——この子には——妹がいるんですよ」
「妹——ですか」
「そうなんです——ブロっていう子で」
「同じく——1歳で」
「その子と——数分でも——離れると——体調を——崩しちゃうんですよ」
先生が——静かに——聞いた。
「数分でも——ですか」
「そうなんです——今日も——一緒に——連れてくれば——よかったんですけど」
「ちょっと——妹の方も——呼んでくるわね」
飼い主が——バッグを——持って——出ていった。
診察室に——ドリちゃんだけが——残った。
ドリちゃんが——きょろきょろした。
「……ブロ?」
小さな声だった。
「……ブロ——どこ?」
先生が——ドリちゃんに——近づいた。
「こんにちは」
ドリちゃんが——先生を——見た。
「……ブロは——どこですか」
「もうすぐ——来ますよ」
「……本当ですか」
「本当ですよ」
「……早く——来てほしいです」
「そうですか」
「……離れていると——不安で」
「不安——ですか」
「……ブロがいないと——不安で」
「どんな時から——そうなりましたか」
ドリちゃんが——少し——考えた。
「……生まれた時から——一緒だったから」
「ずっと——一緒だったんですね」
「……一緒じゃない時間が——分からないんです」
ミナが——先生に——小声で——聞いた。
「何て——言ってるんですか」
「ブロちゃんがいないと——不安だと——言っています」
「生まれた時から——ずっと——一緒だったそうです」
ミナが——ドリちゃんを——見た。
きょろきょろしながら——扉を——見ていた。
「先生——一人でいるのが——怖いんですね」
「そうですよ」
「ずっと——一緒だったから——一人が——分からないんですね」
「そうかもしれませんね」
その時——扉が——開いた。
飼い主が——戻ってきた。
もう一つの——キャリーケースを——持っていた。
「連れてきましたよ——ブロちゃん」
中から——ドリちゃんと——そっくりな——猫が——出てきた。
でも——少しだけ——小さかった。
ブロちゃんだった。
ドリちゃんが——飛びついた。
「ブロ——!!」
「ドリ——!!」
二匹が——くっついた。
離れなかった。
ミナが——思わず——笑った。
「仲いいですね」
「そうなんですよ——ずっとこんな感じで」
「かわいいですね」
「かわいいんですけど——離せなくて——困ることも——あって」
先生が——二匹を——診ながら——穏やかに——言った。
「二匹一緒に——診ましょうか」
「ありがとうございます」
二匹が——くっついたまま——診察台の上に——いた。
離れなかった。
離れる気が——全くなかった。
ミナが——二匹を——見ながら——思った。
ずっと——一緒。
一人が——分からない。
自分は——一人っ子だった。
全然——違う世界だと——思った。




