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動物たちの言葉がわかる獣医と動物たちの楽園  作者: 1010
第2章 「おはようございます」が言える日々

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「常に飛ばなくても、そのままでいいバタフライ」 第3話(夜)「いるだけで、いい」

片付けをしながら——


ミナは——今日のことを——


思い返していた。


あのバタフライのことが——


頭から——離れなかった。


一日中——窓枠に——止まっていた。


翅を——閉じたまま。


ほとんど——動かなかった。


でも——なんとなく——


あの子が——いるだけで——


診察室の空気が——


少しだけ——柔らかかった気がした。


「先生」


ミナが——モップを——止めて——言った。


「はい」


「今日の——バタフライのことなんですけど」


「はい」


「一日中——飛ばなかったですよね」


「そうですね」


「なんか——それが——ずっと——気になってて」


先生が——カルテを——閉じながら——聞いた。


「何が——気になりましたか」


ミナが——少し——考えてから——言った。


「今日——診察室に——来た子の中で——一番——羽を——開いてなかったのが——あの子だったんですよ」


「そうですね」


「でも——なんか——一番——ここに——いた気がして」


先生が——穏やかに——頷いた。


「どういう意味ですか」


ミナが——窓の外を——見た。


バタフライは——もう——いなかった。


夕方に——静かに——飛んでいった。


「うまく——言えないんですけど」


「はい」


「他の子たちは——鳴いたり——動いたり——何かを——伝えようとしてたじゃないですか」


「そうですね」


「でも——あの子は——ずっと——止まってるだけで」


「何も——しなかったけど」


ミナが——少し——俯いた。


「なんか——ちゃんと——ここにいたんですよね」


先生が——静かに——言った。


「そうですね」


「いるだけで——伝わることが——ありますよ」


「いるだけで——ですか」


「何かを——しなくても——そこにいること自体が——意味になる時が——あります」


ミナが——また——窓の外を——見た。


「先生——あの子——何て——言ってましたか」


「飛ばない時間も——羽の一部だと——気づいたと——言っていました」


ミナが——止まった。


「羽の一部——ですか」


「ええ」


「飛んでいる時だけが——羽じゃないって——ことですよね」


「そうです」


「閉じている時も——止まっている時も——羽だって」


「そういうことです」


ミナが——少し——黙った。


しばらく——静かだった。


「先生」


「はい」


「私——最近——思うんですけど」


「はい」


「動物の言葉が——聞こえない私が——ここにいることって」


「はい」


「意味——あるんですかね」


先生が——ミナを——見た。


穏やかな——目だった。


「あると——思いますよ」


「でも——先生みたいに——言葉が——聞こえたら——もっと——役に立てるのに——と——思って」


「ミナさん」


「はい」


「今日——バタフライに——何か——しましたか」


ミナが——少し——考えた。


「……窓を——少し——開けました」


「他には」


「飛ばなくても——ここにいていいよって——言いました」


「言葉は——聞こえましたか」


「聞こえてないと——思います」


「でも——伝わりましたよ」


ミナが——止まった。


「……伝わりましたか」


「ええ」


「あの子が——ここは——飛ばなくていい気がすると——言っていました」


「それは——ミナさんが——いたからですよ」


ミナが——少し——赤くなった。


「……私が——いたから——ですか」


「そうです」


「言葉が——聞こえなくても——いるだけで——伝わることが——あります」


ミナが——また——黙った。


「いるだけで——伝わる——か」


「そうです」


「バタフライと——同じですね」


「そうですよ」


ミナが——小さく——笑った。


「私も——飛ばなくて——いいですかね」


先生が——穏やかに——笑った。


「いいですよ」


「止まってても——ここの——一部ですか」


「もちろんです」


ミナが——モップを——また——動かし始めた。


しばらく——静かだった。


「先生」


「はい」


「今日——バタフライが——帰る時——こっちを——見ましたよね」


「見ていましたね」


「なんか——また——来る気がしました」


先生が——静かに——笑った。


「来ると——思いますよ」


「なんでですか」


「飛ばなくても——いい場所を——見つけたから——です」


ミナが——頷いた。


「そういう場所——大事ですよね」


「大事ですよ」


「ここが——そういう場所に——なれたら——いいですね」


先生が——窓の外を——見ながら——言った。


「もう——なってますよ」


ミナが——少し——止まった。


「……そうですかね」


「そうですよ」


ミナが——また——小さく——笑った。


診察室の——電気を——消した。


今日も——終わった。


ミナは——扉を——閉めながら——思った。


飛ばなくても——ここの——一部だ。


いるだけで——伝わることが——ある。


それは——バタフライのことだけじゃなかった。


自分のことでも——あった。


「おつかれさまでした」


「おつかれさまです」


二人の声が——夜の——駐車場に——響いた。


今日も——止まっていた何かが——少しだけ——軽くなった日だった。

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