「常に飛ばなくても、そのままでいいバタフライ」 第2話(昼)「翅を閉じていても、いる」
外は——
明るかった。
風も——ちょうどよかった。
飛べる日だった。
でも——私は——窓枠に——止まっていた。
翅を——閉じたまま。
外にいる時——私は——いつも——飛んでいた。
飛んでいないと——誰かに——見られる。
「あの蝶——止まってる」
「どこか——悪いのかな」
「飛べないのかな」
そういう目で——見られる。
だから——外では——飛び続けた。
疲れても——飛んだ。
休みたくても——飛んだ。
蝶だから——飛んでいるのが——当たり前だと——思われているから。
でも——ここでは——違う。
止まっていても——誰も——「飛べないの?」と——聞かない。
先生は——「いいですよ」と——言ってくれた。
ミナという子は——「ここにいていいですよ」と——言ってくれた。
言葉が——届いたかどうかは——分からない。
でも——伝わった気がした。
私は——翅を——閉じたまま——診察室の空気を——感じていた。
消毒の匂い。
先生のコーヒーの匂い。
ミナが——モップをかける音。
カルテを——めくる音。
全部——穏やかだった。
外の風とは——違う。
外の風は——「飛べ」と——言ってくる気がする。
ここの空気は——「そのままでいい」と——言ってくれる気がする。
翅を——閉じていても——ちゃんと——いる。
その感覚が——新しかった。
昼過ぎ——
先生が——また——窓枠に——近づいた。
「どうですか」
「……穏やかです」
「そうですか」
「……外は——飛ばないと——いけない気がして」
「ここは——どうですか」
「……ここは——飛ばなくても——いい気がします」
先生が——静かに——頷いた。
「飛ばない時間も——羽の一部ですよ」
私は——止まった。
「……羽の一部——ですか」
「飛んでいる時だけが——羽じゃないですよ」
「……閉じている時も——羽ですか」
「そうです」
「……止まっている時も——蝶ですか」
「そうですよ」
私は——翅を——少しだけ——開いた。
オレンジと——黒の——模様が——光に——当たった。
「……きれいですか」
先生が——静かに——笑った。
「きれいですよ」
「……飛んでいない時も——きれいですか」
「飛んでいない時の方が——じっくり——見られますよ」
私は——また——翅を——閉じた。
でも——さっきとは——違う閉じ方だった。
隠すための——閉じ方じゃなかった。
休むための——閉じ方だった。
ミナが——遠くから——私を——見ていた。
言葉は——聞こえない。
でも——じっと——見てくれていた。
見られることが——怖くなかった。
外で——見られる時とは——違った。
ここで——見られるのは——「飛べ」じゃなくて——「いるね」という目だった。
翅を——閉じていても——ちゃんと——いる。
飛ばなくても——ちゃんと——蝶だ。
その感覚が——少しずつ——私の中に——広がっていった。
外に——風が——吹いた。
でも——今は——まだ——いい。
もう少しだけ——ここにいたかった。




