「常に飛ばなくても、そのままでいいバタフライ」第1話(朝)「飛ばないでいいですか」
「おはようございます!」
ミナの声が——診察室に——響いた。
「おはよう」
サクラギ先生は——カーテンを——開けながら——穏やかに——返した。
朝の光が——診察室に——差し込んだ。
その光の中に——何かが——いた。
窓枠に——止まっていた。
オレンジと——黒の——模様の——蝶だった。
翅を——閉じたまま——じっとしていた。
「あ——蝶だ」
ミナが——窓に——近づいた。
「逃げないですね」
「以前にも——来てくれた子ですよ」
先生が——穏やかに——言った。
「知ってる子ですか」
「ええ」
先生が——窓枠に——近づいた。
「また——来てくれましたね」
バタフライが——翅を——少しだけ——動かした。
「……来ても——いいですか」
「もちろんです」
「……今日は——ちょっと——飛ばないで——いいですか」
先生が——静かに——頷いた。
「いいですよ」
「……ここで——止まっていても——いいですか」
「いいです」
バタフライが——また——翅を——閉じた。
ミナが——先生に——小声で——聞いた。
「何て——言ってるんですか」
「飛ばないでいいかと——聞いています」
「飛ばないで——いいか——ですか」
「ええ」
ミナが——バタフライを——じっと——見た。
翅を——閉じたまま——窓枠に——止まっている。
「飛ばない蝶って——どんな感じなんでしょう」
ミナが——思わず——呟いた。
先生が——バタフライに——聞いた。
「飛ぶのは——好きですか」
バタフライが——少し——間を置いてから——言った。
「……好きです」
「でも——」
「……でも——飛んでいると——飛んでいなければいけない気が——してきます」
「飛んでいなければいけない——ですか」
「……蝶だから——飛んでいるのが——当たり前って——思われてる気がして」
「飛んでいないと——蝶じゃないみたいで」
先生が——穏やかに——言った。
「飛ばない時間も——あっていいですよ」
「……そうですか」
「飛ぶことだけが——あなたじゃないですよ」
バタフライが——また——翅を——少しだけ——動かした。
「……飛ぶことだけが——私じゃない——か」
ミナが——バタフライを——見ながら——先生に——聞いた。
「この子——前に——来た時も——同じことを——言ってましたか」
「前は——羽を——休めたいと——言っていました」
「今日は?」
「飛ばないでいいかと——言っています」
「似てるようで——違いますね」
「そうですね」
ミナが——少し——考えてから——言った。
「前は——疲れて——休みたかった」
「今日は——飛ばなくていいか——確認したかった——感じですかね」
先生が——静かに——頷いた。
「そうかもしれません」
「成長してますね」
「そうかもしれませんね」
バタフライが——窓枠で——じっとしていた。
外は——風が——吹いていた。
飛べる風だった。
でも——バタフライは——動かなかった。
ミナが——窓を——少しだけ——開けた。
風が——入ってきた。
バタフライの——翅が——少しだけ——揺れた。
でも——飛ばなかった。
「飛ばなくても——ここにいていいですよ」
ミナが——バタフライに——向けて——小さく——言った。
言葉は——聞こえない。
でも——なんとなく——そう言いたかった。
バタフライが——翅を——また——閉じた。
ミナには——それが——ありがとうに——見えた。




