第101話「次の日の、同じ朝」
朝は、やっぱり同じだった。
「おはようございます」
ミナが扉を開ける。
昨日と同じ声。
同じ動き。
同じ空気。
「おはよう」
サクラギ先生も同じように返す。
診察室は変わらない。
棚の位置も、窓の光も、静かな空気も。
昨日、100回目だったことなんて、
どこにも書いていないみたいに。
ミナが少しだけ笑う。
「……101回目です」
「そうだね」
サクラギ先生は変わらない調子で答える。
でもほんの一瞬だけ、
窓の光を見る。
それだけで、昨日が確かにあったことがわかる。
最初の患者は、小さなカナリア。
(……なんか、ちょっと違う)
「どうしたの?」
ミナが顔を近づける。
「鳴き方が変わったみたいだね」
サクラギ先生が言う。
(……うまく、歌えない)
カナリアは首を傾げる。
ほんの少しの違和感。
でも、それはこの場所に来る理由としては十分だった。
「大丈夫、すぐ戻るよ」
静かな声。
診察は、昨日と同じように進む。
次は犬。
その次はウサギ。
その次は少し変わった来訪者――
見えない風のようなものが、診察室の隅で揺れる。
(……ここ、落ち着く)
ミナが目を細める。
「また来ましたね」
「うん」
サクラギ先生は特に驚かない。
ここには、こういうものも来る。
昨日も、今日も。
そして、たぶん明日も。
時間は流れる。
でも、この部屋は少しだけ違う。
同じことを繰り返しているようで、
少しずつ積み重なっている。
昼。
午後。
夕方。
気づけば、また一日が終わりに近づく。
「……昨日と同じですね」
ミナがぽつりと言う。
「うん」
「でも、ちょっと違います」
「うん」
サクラギ先生は頷く。
「それでいい」
短い言葉。
でも、それがこの場所の形だった。
最後の患者が帰る。
扉が閉まる。
静寂。
ミナが軽く伸びをする。
「じゃあ、102回目もやりましょうか」
「うん」
サクラギ先生は診察台に手を置く。
昨日と同じ場所。
でも、今日の手の温度は少し違う。
窓の外は、また夕焼け。
100回を越えても、
光は変わらず差し込む。
この場所には、きっとこれからも何かが来る。
小さな違和感も、
大きな不思議も。
全部、ここにたどり着く。
そしてまた、
静かに整えられていく。
特別じゃない一日。
でも、ちゃんと続いている一日。
その積み重ねが、
この診察室を作っている。
夕暮れの光の中、
何も変わらないようで、
少しだけ新しい今日が終わった。




