<七>
ただの悪霊なら毎日のように湧くのだが、禍魂は悪霊の集合体であるため頻繁に出現することはない。
「また増えとるのぅ……異常すぎるのではないか?」
八咫烏は高い位置で翼を広げながら、徘徊する数体の禍魂を注意深く観察する。
「エンよ。やつらに変わったところはないか? ここには吾とおぬししかおらんからな、地上におるおぬし一人に向かっていくのは当然だが、理由はそれだけとは限らんだろう」
問われた閻煌は鞘から短刀を抜き、一定の位置から動かないまま襲い掛かってくる禍魂を迎え撃つ。
「あの薬と同じ気配なら感じるが、それ以外に変わったところはない」
瀧庵の調査通り、ここにいる悪霊や禍魂たちはほとんどが人間の死霊だ。
あやかしの薬を何度も服用したことで死に至り、深淵に落とされたのだろう。
悠青だけは例外で、引っ張られやすい彼は精神や肉体が限界を迎える前に魂が身体から離れたため悪霊にならず、迷魂となって深淵へ来てしまった。
生き返ることが出来たのは運よく閻煌と遭遇したからだと言える。
「ふむ……ということはだ。現世に撒かれた薬をどうにかするか、それを作り出したあやかしを捜し出し根本を排除せねばどうにもならんということだな。何か当てはないのか?」
「今瀧庵に探らせている。……それが明らかになれば俺の考えも確定する」
「エン、おぬし何か思い当たることがあるのだな?」
最後の禍魂を斬り裂き、周りの悪霊が大人しくなったところで刀を収めた閻煌はこれには答えず、あのことをもう一度確かめるように口にした。
「俺をここに留めておきたい理由は何だと思う?」
「それは……厄介な鬼憑きであるエンの弱体化を狙っておるか、おぬしに居てもらっては困るから離しておきたいのだろうよ………あっ」
八咫烏が何かに気付き、閻煌も頷く。
弱体化を図るなら禍魂をもっと強化して一気に攻めた方が効果的のはず。もちろんそれで容易く倒される閻煌ではないが。
それが違うとすれば残るはただ一つ。ずるずると長引かせて何かを成そうとしているのだ。
「恐らく後者。狙いは神域だ」
話している間にも取り巻いている悪霊の動きが変化し、近いもの同士で重なり合って一つになると異常な瘴気を放つ禍魂と化す。
「この数、薬で犠牲になった者たちばかりではないのぅ。元々居合わせた悪霊も巻き込んでおるのか」
これ以上合体されては堪らないと、八咫烏は翼で風を起こし、悪霊との距離を離しにかかる。
二足歩行の人間に近い形を取るのは元の魂が人間のものだからだろう。
そこにあやかしの悪霊まで加わったら非常に厄介なことになる。
禍魂は個体によって強さも異なる。元があやかしならば特異性も似かより、人間のものとは比べものにならない強さとなるのだ。
幸い目の前にいる禍魂は人間の魂が元になっているので倒すのは造作もない。
閻煌は短刀を鞘から抜刀するとそのまま真横に振り抜いた。
胴を断たれた禍魂は通常ならば散り散りになるだけで再度復活も可能なのだが、閻煌に傷を負わされた場合はその限りではない。
また一体“消滅”させた閻煌に八咫烏が問う。
「神域が危ういと分かっていながらここへ来たということは、何か策があるのだろう?」
「ああ。来る前に頼んできたからな。心配ない」
「……なるほどのぅ。“上に報告”とは、業務的な言い回ししよって。あやつのことだ、素っ気ないとまた悲しむのではないか?」
「一応仕事の一環だから問題ない」
「いや問題ないとかの問題じゃなかろう……言っててややこしくなってきたわ。とにかく! 片付いたらちゃんと二人で話すのだぞ」
悪霊を蹴散らしながら言う八咫烏の忠告を、いつも通り閻煌は右から左に聞き流して再び集まり出す悪霊に刃を向けた――。




