<六>
話を終えて立ち去る瀧庵を見送っていると、入れ違いで八咫烏が帰還した。
「リュウの奴が来ておったのか。ということは何か分かったのだな?」
滑空してきた八咫烏を少し持ち上げた腕に迎え入れると、三本足でしっかり腕を掴んだ矢先に尋ねてきた。
これに閻煌は曖昧に肯定する。
「解決はしていないが少し進展があった。お前の方は変わりないということでいいのか?」
自分の報告はそっちのけで此方の様子を聞いてきたということはそういうことなのだろう。
「ひとまずな。この神域と隣接する土地は変化なしだ。もう少し範囲を広げるべきなのだろうが、そうするとおぬしの周囲が手薄になるでの。いっそのこと他の者にやらせた方が良いかもしれんぞ」
今のところ深淵に留めている禍魂の暴走は見られないということだが、一体何故禍魂を生み出しているのか首謀者であるあやかしの意図が掴めない。
「――狙いは俺か、あるいは……」
閻煌の呟きに八咫烏は瞠目し騒ぎ出す。
「今なんと? おぬしを狙う奴がおるのか!? なんて命知らずな……!」
いやただの無知な阿呆者かもしれないと言いたい放題の八咫烏の嘴を、閻煌はそっと閉じるように握った。
「無知な阿呆ならあやかしの薬なんてものを作れるとは思えない」
「んー!? んん……!」
「深淵に行くことができる俺をその場に留めておきたい理由があるのかもな。そうでなければわざわざ現世にまで行って人間を犠牲にする意味がない……」
「ンンっ――」
「影響されやすい悠青がまた犠牲にならない保証もない。寧ろ俺に攻撃してくれた方が犠牲者も少なく手っ取り早いんだが……」
「――ぐ、っ……」
嘴を掴まれて強制的に口を塞がれている八咫烏はじたばたと首を振る。
そんなに強く握っていたわけではないが、話に口を挟めないのが嫌だったのか抗議の目を向けて来る。
閻煌は小さく溜息を漏らすと「落ち着いて話せ」と前置きしてから仕方なく握っていた手を開いた。
「クア! ……口出しさせんとは殺す気か!」
それはどういう反論かと閻煌は呆れたように眉を下げた。
「……大袈裟な」
「大袈裟などではない! おぬしは吾が止めねば無茶をするではないか! まったく……」
一人で考えて一人で行動されては己は心労で倒れてしまうと八咫烏は本気で思っている。それほど閻煌のことが大事なのだ。
「して、此度の一件、あの人間ともつながりがあったということで間違いないのだな?」
「瀧庵による調査だ。まず間違いない。……この瘴気とも一致するからな」
徐に胸に手を当てて言う閻煌に、八咫烏は意味を察し吃驚仰天――全身の羽が逆立った。これぞ鳥肌が立つ、である。
「まさか食いよったのか? 悠青と同じものをおぬし……!!」
些か過保護な八咫烏は、飴ではなくちゃんと閻煌のことを心配して悲鳴を上げた。
よろめく三本足を固定するようにそっと小さき身体を支えた閻煌はふっと息を吐いて言う。
「取り敢えず、このことを上に報告したら直ぐに深淵に向かう。お前は戻ったばかりだから休んでいても構わない」
「ば、馬鹿なことを言うでない! 自分が犠牲になればいいなどと考えとる限り一人では行かせんぞ! 吾も行く!」
ここのところ毎日のように通っている深淵。
普通なら週一程度で事足りる禍魂退治がこの頻度となると異常事態であることは明白だった。




