1/15
<一>
暗く静かで、冷気の漂う空間の中に、時折熱い吐息のような風が流れ込む、人界とは異なる場所。
地獄門前――深淵。
歩くのに苦労しそうな凸凹と岩盤のように硬い地面を、一人の男が踏み慣れた足取りで歩く。
黒布の羽織に散りばめられた真っ赤な彼岸花が存在を主張するが、更に上にある男の血のように赤い双眸がそれを上書きし、畏怖の念すら抱かせる。
暗闇でも全て見えているかのような揺らぎのない眼光が、あるものを捉えた。
それは一基の巨大な鳥居で、向こうも静かに男を見下ろしていた。
男はそれ以上進まず手前で足を止めると、腰帯に差していた短刀を抜き、何もないはずの空間を切り裂く。
すると切った方向から苦痛に満ちた悲鳴が上がった。文字通り、何かを斬り裂いたのだ。
しかし短刀の刃には一滴の血もついていない。
男は立ち位置を変えては同じように刀を振るう。
それは叫び声が消えるまで続いた。




