小鳥遊リョウ 二十三歳
"報告したいことがあるの。
電話していい?"
悠からのラインは俺にとって悪い予感しかしない。仕事が忙しいのを言い訳に、電話を先延ばしにしていた。
既読だけつけて、電話をしないでおいたら、翌日悠から着信が入った。
「もしもし、リョウくん?」
「よっ、どうしたの?」
「今時間ある?」
俺は少し思案した。
「お願い……他に相談できるあてがないの」
ため息をつきたいのを堪える。そんな切羽詰まった相談、いい話なわけがないからだ。
「なに?どした?」
「……あのね……」
「うん」
「離婚したい」
あまりの発言に、俺は驚いた。
と、同時に少し喜んでしまった面もある。
「それは、何故?」
「……言えないの。でも、離婚しなきゃいけない」
「は?」
全く要領を得ない。俺は部屋の時計を見上げた。午後十時を指している。
「今どこ?直接話そう」
悠たちの住んでる駅まで移動して、指定された公園を目指す。
途中、悠が寒いかなと思ってコンビニであたたかい飲み物とカイロを買う。
“着いたよ”
公園に着いて悠にラインする。
すぐに悠が、泣きながら現れた。
「なんで、泣いてるの」
俺は戸惑った。そしてその美しい涙の一粒一粒が、兄貴のために消費されていることが、許しがたく思えた。
「離婚したくない……」
電話と真逆のことを言い出した。
「だろうな。ほれ、寒いだろ?」
「リョウくん、ありがとう」
カイロとあたたかいお茶を差し出す。
「来てくれて、ありがとう」
「何があった?」
「リョウくん、わたしさ……」
悠は瞳をうるうるさせたまま、しっかり俺を見つめる。
いや、俺を通してショウを見てるかもしれない。
「ショウには何があっても幸せになって欲しいの」
「うん」
「子宮がんだって」
「え?」
「子宮がん。転移もしてるかもしれない。まだわかんないけど。とりあえず、子宮はとらなきゃ」
悠は早口でまくし立てる。
「ショウには……」
「まだ言ってない。言えないよ」
「言えないってお前、早く言わなきゃ」
悠はすすり泣いた。俺だって泣きたかった。
「生命が一番大事だろ?早く相談して……」
「子供欲しがってるのよ、ショウは」
「それだって、悠の生命より大切なわけない」
「だから、離婚するしか……でもこんなこと聞いて離婚に同意するわけなくて……」
「当たり前だろ」
俺はそこで最悪の可能性に気付いた。
悠が俺を見つめる目に、その答えがちらついていた。
「おいまさか」
「離婚の理由になって欲しいの」
「いい加減にしてくれよ。そんなの無理だ」
「ちょっとだけ、恋人のフリしてくれない?」
「無理」
悠の今までの俺の扱いの中でも、最悪のパターンだった。
「俺とショウの、仲が壊れるだろ?」
「やっぱりそうなるよね」
「何考えてるんだよ」
そして大きくため息をつく。
「兄貴は?いつ帰ってくるの?」
「さっき、仕事終わったってライン来たから、もうすぐ」
「一緒にいてやるから、一緒に兄貴に話そう」
俺は悠の肩をそっと励ますように掴んだ。
その手に、悠の手がかかる。そして、ありがとうと呟いて悠はまた泣いた。




