笹木純 二十歳
オレンジ色のブーケが、目の前に飛んでくる。わたしはそれを、迷わずにキャッチした。
そしてすぐに、リョウの方を振り返る。
おかしい。と最初に思ったのはその時だった。
リョウとすぐに視線が合わなかったのだ。一拍遅れてリョウがわたしに微笑みかけた。
リョウが、見つめていたのは、新婦の悠さんだった。
お兄さんのお嫁さん、見惚れちゃったのかな?と少し嫉妬して、それで済むと思っていた。
挙式後、リョウはうちにやって来た。
手に入れたブーケを眺めながら、試しに呟いてみた。
「次は私たちだね」
リョウが就職して、一気に現実味を帯びて来た選択肢の一つ。わたしはついにそれを仄めかした。
すると、リョウは豹変した。激しく掻き抱かれ、乱暴にキスをされる。
「リョウ、どうしたの?」
わたしは慌ててそう尋ねる。
「好きだよ、純」
「ちょ、待って……シャワー浴びてからにしよ?」
「いいから、脱いで」
今までこんな風に激しく求められたことがあっただろうか?
別の男性になら、あった。でもリョウからこの熱量を感じるのは初めてだった。
あっという間に裸にされ、肌を合わせる。
いつもと同じ行為なのに、どこか違う。
わたしを見ていない?そんな予感が胸を過ぎる。
それでもわたしは、愛されていると信じていた。
その日からリョウは、うちに転がり込んだ。日中はお互い忙しくすれ違いだが、夜には狭いシングルベッドで激しく抱き合う。
そしてその激しさに、日に日にわたしは違和感を積み上げた。
もともとは穏やかな凪のような愛だったのが、ここ数日で暴れる海のような危険さを孕む関係に落ちた。そんな予感がした。
そしてわたしの予感は、深夜、なんとなく眠れぬ夜に的中した。
「悠、悠……愛してる」
リョウは、確かにそう言った。寝言であったけれど、それに実感が伴ってることは確実だった。
「リョウ、起きて」
「……悠?」
寝ぼけているらしい。なんて可愛らしいんだろう、とわたしは思ってしまった。
「純だよ、わかる?」
「ああ、ごめん、俺、寝ぼけて…」
「出てって」
わたしは静かにそう告げた。
「へ?」
「出てって。もう別れよう」
「なんで急に」
「あなたは、わたしを愛してる?」
リョウは自分の寝言に気づいていない。だからキョトンとしている。
いや、寝言だけじゃない。セックスの仕方が変わったのにも、気づいていないのかもしれなかった。
「愛してるよ、純」
「嘘」
わたしは、ついに泣いてしまった。リョウの言葉に嘘と真実を見抜いてしまったから。
確かにわたしを愛してはいるのだろう。でもそれは悠さんと比べたらどうか?という問いの答えではない。
寝言にまで顔を出す愛情と、理性で抑えられる愛情と、わたしはどちらを幸せと解くだろう。
「出てって、お願い」
寝言のことをぶちまけたい感情がせめぎ合う。でもそれを指摘したとて、何が変わるというのか。
「純……」
リョウは釈然としない表情のまま、服を着て自分の荷物を旅行カバンに詰める。
「純、俺……」
「さようなら。お元気で」




