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小鳥遊リョウ 十六歳

「付き合ってくださいっ」

 俺の前には、ショートカットがよく似合う、溌剌とした印象の女の子が立っていた。

 高校進学後、同じクラスになった女子で、雰囲気が少し悠に似ていた。名前は海老原涼子。

「ごめん。俺、海老原とは付き合えない」

「ど、どうして?好きな人、いるの?」

 涼子は諦めなかった。顔を真っ赤にしたまま、俺に食い下がってくる。

「そうじゃないけど」

 俺は気圧された。

「じゃあ、騙されたと思って付き合ってみない?」

「騙されたって何に」

「勿論、わたしに」

 涼子は俺の手を握った。縋るように。秋口の冷えた風に撫でられて、そこが熱を帯びているのがわかった。

「ね、お願い……」

 そして不意にキスされた。その瞬間、悠の泣き声がフラッシュバックした。


「ショウ先輩ってば、まだキスもしてくれないの…」

 あれは半年前だ。ショウと悠が付き合ってから五ヶ月目のことだった。

「ねぇリョウくん、わたしってそんなに魅力ない?」

 なんて残酷な問いだろう、と俺は思った。

 自制心を総動員して、その魅力にやられまくっている片鱗を見せないよう注意する。

「ショウにとって?それは本人に聞けよな」

「ショウ先輩って、意外と奥手なのかな?」

「さぁね」

「もう!相変わらず役に立たないんだから」

 ポカポカと、腕を殴られるままにして、俺は木偶の坊みたいに突っ立っていた。

 相変わらずなのは、悠の方だ。

 俺の心の乱し方を、誰より心得てる。

「キスがしたいならそう言えばいいんじゃねーの?」

 俺の言葉に、悠は殴る手に力を込めた。

「……そんなの恥ずかしくて言えないよ。欲求不満みたいじゃない」

 なんで俺には言えるんだよ、とは言い返せなかった。

「俺には分からんけど、大事にされてるってことじゃねーの?」

「……魅力がないのよ、わたし、きっと。」

 悠の目に涙が光った。俺はまた見ていられなくて、目を逸らしながらハンカチを差し出す。

 デジャブだな、と思った。

「そーゆー事よね?わたし、振られちゃうのかな」

「どーゆー事だっての」

「わたしなんて大した美人でもないし、愛嬌も色気もないし……平々凡々な人間でしょ?不釣り合いなのよ、ショウ先輩とは」

「それ、俺じゃなくて兄貴と直接話したらどう?」

 ポカリ、脇腹に重い一撃を喰らう。

「もう、それが出来たら困ってないよ」

 じゃあ俺にどうしろと、とは口に出せなかった。

「兄貴に話してみるよ、キスのこと」

「ほんと?!」

 悠は一瞬で輝いた笑顔を見せた。

「あ、でも泣いてたなんて言わなくていいから。重いって思われてもやだし」

 悠は思案する顔になった。

「軽くね、かる〜く、言ってみて」

「軽いの基準がわっかんねーな」

「確かに」

 悠は自分で言い出して笑った。

「もう、いいや。忘れて、この話は」

 悠はそう言って話を打ち切った。

 夕焼けの綺麗な海辺で、二人のファーストキスが執行されたことは、後から噂で聞いた。

 俺の中に、空虚な穴を残して。


「お試し期間ってことで、どう?」

 キスをした恥じらいに目を伏せながら、涼子は提案してくる。

「まぁ、そういうことなら」

「やった!きっと後悔させないから」

 涼子は嬉しそうに言った。

 俺が涼子と付き合ったことを、一番喜んだのは悠だった。

 祝福代わりにバシリバシリと何度も肩を叩かれた。

「もう〜おめでとう!」

「いてぇよ」

「いい?女の子を泣かせちゃ駄目よ。あと…」

 悠は恥じらいながら言葉を続けた。

「待たせちゃ駄目。ね?」

 俺はショウがキスを待たせた例のことを言っているのかな、と思った。

「実はさ……今度の金曜日の夜、親が出張で居ないんだ」

 違う。キスのことじゃない、俺はそう直感し、耳を塞ぎたくなった。

「ショウ、来てくれるかな」

 その目はうっとりしていた。

 なんでこんなことまで、聞かされなきゃならないんだ。俺は。


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