小鳥遊リョウ 二十三歳③
その日は仕事が手につかなかった。
やっぱり休めば良かったかなとも思ったが、義理の弟ってだけで、仕事を休むのもどうかなと思って休めなかったのだ。
その日は、悠の子宮全摘手術の日だった。
"無事終わったら連絡する"
兄貴からのラインは堅かった。でも信じて待つしかない。
その日の仕事は先輩と一緒に外回り。営業職の俺は一日中かけてクライアント間を練り歩いた。
「小鳥遊くん、今日帰り飲みに行かない?」
帰りがけ、書類仕事を残していたので直帰の先輩と別れ帰社した俺に、同期の白石眞弓が声をかけて来た。
「ああ、でもこれちょっと時間かかるよ?」
「手伝うよ」
二人で残業し、なんとなく飲みに行く。そういえば先週も二人で食事に行ったっけな、と思った。
その間にショウからラインが来た。
"手術は成功した"
良かった、とホッと胸を撫で下ろすのを、白石に見られた。
「なんかいいことあった?」
「別に」
悠が子供を産めない身体になったこと、まさか喜ぶわけにはいかなかったのに。
心の中に出来た余裕はなんだろう。
これで生涯、俺は悠にそのことを相談されることもないのだという、安心感のようなもの。
「小鳥遊くんて、不思議よね」
「不思議?」
「なんか目が離せなくなる」
俺はその白石のアツい視線から逃れたくて、ビールジョッキに手を伸ばす。
と、その手を白石の柔らかい手が包んだ。
「小鳥遊くん、好き」
「白石…」
「眞弓って呼んで?」
また、流されるのか、俺は。
でも悠に対して抱えた罪悪感に、一人で向き合わなくていい。
そう思うと俺は、流されるのも悪くはないかな、と思えた。




