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海老原涼子 十九歳

 悠を追ってリョウの手を離した。

 その時確かに、わたしはせいせいした。

 浴衣を着ても、リョウは何も言わなかった。わざと見せてるリョウの好きなうなじにも、目を遣らなかった。

 これ以上、リョウがわたしに冷めてゆく所を積み重ねていくのは、辛い。

 だったら、新しい人を探そうと、わたしは思っていた。

 でも探すだけで、別れるに至らないのは何故だろう。

 これを愛と呼ぶのなら、愛はあまりに退屈すぎるな、とわたしは思う。

「悠!悠、やっと追いついた。どうしたの?」

「もう終わりだ……」

 悠に追いつくと、悠は泣きじゃくっていた。

「ごめん、涼子。せっかくのダブルデートでマンネリ打破作戦、だったのに」

「先輩となにかあったの?」

 とりあえず、脇にのいて人混みを避ける。

「なにもない、なんにも」

「ああ、わかる」

「わかる?」

 悠はわたしの方を見上げた。背が低い女の子って可愛いな、とわたしは思った。

「なーーんにもないよ、わたしとリョウも」

「最近、手も繋いでくれなくなったの、むこうからは」

「うんうん、わかる」

 次第に悠の涙はひいて、彼氏の愚痴聞いてよモードに入る。

 そこに、息を切らしたショウ先輩が追いつく。

「探した。悠ちゃん、どうしちゃったの?」

「全部ぶつけちゃいな。好きなんでしょ?わたしは、行くから。またあとでね」

 わたしはショウ先輩に悠を託し、リョウを探すことにした。

 もう少し、退屈な愛に浸っていたくなった…それだけだ。


 すったもんだありながら、四人で楽しんだ夏祭りの帰り道。

「送るよ」

 と、リョウが言ってくれたので二人きりになれた。久しぶりにわたしから、指を絡めて歩く。

「ねえ、リョウ。ホテル、行かない?」

「いいよ」

 浴衣に舞い上がるのは、男だけじゃない。女だって欲情する。なによりリョウは普段から色気が凄い。浴衣なんか着たらやられてしまう。

 黴臭いホテルの一室で、二人は刹那の夏を愉しんだ筈だった。

 これでまだ、恋人同士でいられる気がした。


 気がしたのも束の間。

 翌々日。大学のサークルの集まりで、海に行った。今度は水着姿の誘惑。

 ちょっといいな、と思ってる先輩と気付いたら岩場で二人きりになっていた。

 リョウとは違う熱量で、わたしを求めてくるその必死さは、リョウしか知らないわたしには何もかもが新鮮だった。

 恋とは何か、愛とは何か、そんな辛気臭いこと考える前に、身体が反応していた。

 彼氏がいる身で他の男を知ってしまった。

 その罪悪感を埋め合わせて余りあるほど、愛される悦びをわたしは知ってしまった。


"別れよう"

 身体を合わせた後、先輩に、愛の告白をされた。わたしはさすがに即答は出来なかった。

 そしてすぐ、リョウにラインを送る。

 きっとただ一言、わかったよ、と返事が来るだけのラインを、わたしは待ち侘びた。


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