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子供の領分

「……深海くん、結局何したかったの? なんか三科さん怒らせただけで終わった感じがしたんだけど」


 C組に戻り、腰を落ち着けるクランドに、アキは胡乱な目を向けて言った。

 彼としては、あのままキョウカが犯人であるという証拠をクランドがビシッと突きつけるのを期待していたらしい。だが結果はあの通り。

 ヒメとしては自分が犯人で無いと主張してくれただけでありがたかった。しかしアキに限らず、キョウカが犯人であると断言しなかったクランドに、不満があるクラスメートは多いようだ。その様子を眺めると、クランドは彼にしては珍しくニヤリと笑って見せた。


「あのやりとりでそういう不満が出るのなら、白山が犯人だっていう噂は流れづらくなるな」

「それが狙い? だったら三科さんが犯人だって断言しても良かったんじゃ?」

「証拠もないのにか」

「深海くんなら証拠くらい出せそうだけど」

「おまえは俺を何だと思ってるんだ」


 不思議そうに言うアキに、クランドは面倒くさそうに吐息をついて見せた。


「証拠なんて警察が押収していったに決まってるだろ。凶器の石膏像もないのに、どんな証拠を出せと。映画や小説じゃないんだ。そういうのは警察の仕事だ」

「でも警察がちゃんと証拠出せるの?」

「……日本人の日本警察への信頼の無さはある意味贅沢だな。日本の警察は『基本的に』優秀だ。特に今回は科学捜査の面から証拠がボロボロ出るだろ」

「やっぱり何か確信あるんじゃないの?」

「俺も聞きたい。言えよ深海」


 教えて教えてとねだるアキを筆頭としたクラスメート。

 クランドは説明したくないらしいが、気になるのはヒメもまた同じだ。


「……私も……聞きたい」


 故にぼそりと言ってみたのだが、クランドはヒメの方を意外そうに見ると、しばしして何やら納得したような素振りを見せると、やれやれといった雰囲気を醸し出しながら口を開いた。


「今回の犯人は、犯行をよく考えているようでつめが甘い。というか、かなり雑い。大方事件直後に美術室に居た人間を犯人に仕立てあげるつもりだったんだろうが、その辺りの調整が大雑把だったせいで、白山という犯行が不可能な人間が犯人扱いされてしまった」

「ああ、確かにその辺は運任せって感じがするよね」

「現場自体も、場所が場所だけに目撃される可能性がかなり高い。計画性と度胸が高いという場合もあるが、それならあんな陳腐なアリバイ工作はしない」

「だから証拠も残ってるって?」

「状況的なものや目で見える証拠は残してないだろうが、指紋に髪の毛、汗なんかでも個人特定はできる。こういう事件に必要なのは、名探偵ではなく地道な操作。ましてや素人に出番は無い」

「じゃあ本当に白山さんの濡れ衣はらすためだけに、あんなパフォーマンスやったの? その割には三科さんを煽ってたけど」

「白山を一方的に犯人扱いしていたから腹が立った」


 いつも通りに平坦な声で言うクランド。しかしその発言内容を聞いて「あ、やっぱりキレてたんだ」とクラスメートたちは納得するのだった。


「でもまあ確かに許せないよね。白山さん何も悪くないのに見世物状態になってたし」

「白山さんがあんなことするわけ無いのにね。やっぱ化粧濃いやつは性格悪いわ」

「それは偏見だと思うけど」


 口々にヒメを弁護し始めるクラスメート。それにヒメはしばし唖然としてしまった。

 自分が人付き合いの悪い人間だとは理解している。間違っても社交的ではないし、オドオドした態度に苛立つ者も多いだろう。

 しかしどういうわけか、クラスメートたちは意外にヒメを好意的に見ていたらしい。一体何故だろうかと、ヒメは首をかしげた。


 実はクランドを相手にしているとき、オドオドしつつも頑張って話している姿が、小動物っぽくて可愛いと評判だったりするのだが、幸か不幸かヒメ自身がそれを知るのはかなり後になってからだった。

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