表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫(パパ)を守護せよ、思春期ムスメ‼  作者: 藤尾香夜
第一章 新世界の幕開け
PR
5/24

ep.05 死刑宣告と新たな任務

 ペロッ


 ――んっ、なんだろう。

 頬に一瞬、温もりを感じて意識が引き上げられた。


 ペロッペロッ


 なに、生温かくて湿ったこの感じ。

 重たいまぶたを持ち上げる。


 まず目に飛び込んできたのは、天井いっぱいに広がる巨大なシャンデリア。

 青空を描いた天井画には、草の冠を載せたヌーディーな女神や天使たちが優雅にほほ笑み合っている。


 ……天国?

 死んだんか、私。


 確か、私の記憶の最後にあるのが、巨大な生首で――。


「わっ」


 ペロペロペロペロ


 しかし、思い出す暇もなく、視界がまた生温かいもので覆われた。

 私は半分寝ぼけたまま体を起こしながら、

「ちょっと、くすぐったいっ。あはははは、やめ……うぉぉぉぉぉ⁉」

 足元を見た瞬間、笑いが悲鳴に変わった。


 待って、相場こういうとき、普通もっとこう、犬とか猫とか、せいぜいウサギじゃないの。

 でも私の足の上に乗ってるの――オオカミじゃない⁉


 オオカミは首を傾げて私を見上げ、ハッハッと息をしている。

 ひぃぃぃ、機嫌を損ねたら最後、機嫌を損ねたら最期ぉ。

 私は反射的に床に這いつくばり、ヘッヘッと愛想笑いを浮かべながらオオカミ様を見上げる。

 生きる者には序列があるはずだから。

 何事も従順さこそ生存戦略!(無論、パパは対象外だが!)


「あ、でも、死んでるなら襲われても問題ないのか!」

「……さっきから、お前は一人で何をやっている」


「うわぁぁぁ、レオンんんん⁉」

 唐突に隣からぼそりとした声が降ってきて、私はピョーンと飛び上がった。

 ということは。


「……レオンも一緒に死んだの?」

 ご愁傷様です、と私は神妙な顔で深々とお辞儀をする。

「馬鹿、死んでねぇよ。ここはアルメシア王国だ」

「天国じゃなくて?」


 いや、だって。

 私てっきり、生首にぺしゃんこにされて、お釈迦になったと思ったし。


 その瞬間、記憶がフラッシュバックする。


 ――脱獄中に突如現れた生首少女。


 巨大化した彼女に追いかけ回され、壁際まで追い詰められた。

 それで私、何とかしなきゃって、対抗しようと両手を突き出して……。

「もしかして私、魔法使えちゃう系の人だったとか⁉」


「残念。お前、あれだけ威勢のいい声を出しておきながら、何の魔法のカケラ一つ出さずに、泡を吹いてそのまま失神してたぞ」


 …。

 ……。

 …………。(赤面)


 い、いやいやいや。


 あんた偉そうにしてますけど、あの場で泣き崩れてましたからね。

 しかも、思い返してみれば、逃げるときに「いやぁぁぁ」って、割と女々しい悲鳴まで上げていたし。


「……とな」


「え? 何て?」

 ふいにレオンが視線を逸らす。


「あの時、守ろうとしてくれてありがとな」

 と、レオンがそっぽを向いたまま、ぼそり。


「おまえの勇気と言葉が嬉しかったから」


 ……素直になればいいものの。

「いいってこと!……でも、おっかしいなぁ。あの時、確かに何か出た気がしたんだよね」

 こう、手がカッと熱くなってさ。

 魔法の後とか残ってないかな、ほら火傷とか――


 掌を確認しようとして、ふと気づく。


 ――はっ?


「……縄で縛られて動けなくなっているんですけど⁉」

「今更かよ」


 気づけば私たちは、八畳ほどの部屋に転がされていた。

 色とりどりの布団やクッションが敷き詰められてた妙にふかふかな部屋で、二人そろって縄でぐるぐる巻きにされている。


「ていうか何この縄? 結び目がないのにほどけない……」

「抵抗しても無駄さ。強力な魔法がかけられてる」

 これも魔法⁉

「魔法⁉ じゃねぇよ。ここはアルメシア王国だっつってんだろ。魔法が存在する国なの」

 くっ。

 転生されたばかりの私の気持ちなんかわからないくせに!


「強力って、どれくらいなの?」

 私は必死で縄に嚙みつきながら尋ねる。

 レオンはドン引きした表情を浮かべ、そんな私を見下ろしている。

「……お前、それでどうにかなると思ってんのか」

「うるひゃい。やってみないとわかんないでひょ」

 レオンは呆れたようにため息をつき、改めて彼自身に巻かれた縄へ視線を向けた。

「こんなほどけない拘束魔法を平然と使うレベルだ。相当な使い手だろう。国中でもトップを争えるほどに、な」


「え、じゃあ待って」

 私は縄を噛む作業を止め、目をぱちくり。

「死んでもなければ、脱獄も失敗してるって。あの後、何が起こって、私たちは今誰に捕まっているの?」

 首をかしげると、レオンはふいっとうつむき、何やらゴニョゴニョと言っている。


「え? 何て?」

「……あの後、目の前に迫った生首がさらに3倍くらいに膨れ上がって」

「うん」

「俺も記憶がそこで止まってるんだ」

 すまん、とレオンは口元をもごもご動かす。

 さっき馬鹿にしてきたの許さないから。

 あんたも恐怖で失神してるんじゃない。


「では、私がご説明いたしますねぇ♡」


「「ひゃいっ」」

 突如聞こえてきた声に、私たちは同時に周囲を見渡す。


 この声――⁉


「あんた、生首でしょ! 出てきなさいよ!」


「じゃぁん、こちらですぅ♡」


 そこには、宙に浮いた“手”だけがあった。


 ……‼‼


 全身で出てきなさいよ!


 白く小さな手は、ふわふわと宙を漂いながら、オオカミの前へ飛んでいく。

「まぁ~♡ 可愛いですねぇ」

 わしゃわしゃと頭を撫で回され、オオカミは嬉しそうに尻尾を振っている。

「これもレオンさんの魔法ですか?」


 え、そうなの?

「……あぁ、テンがなかなか起きねぇし、俺も縛られてて動けなかったからな」

 そのまま手は「おりこうさんですねぇ」と撫でながら、


 ――突然、パンッと手を打った。


 その瞬間。


 オオカミは煙と化してふっと消えた。


「しかし弱いですねぇ」

 くすくす笑う声。


「私の魔法の100倍……いや1000倍くらいでしょうか。弱い♡」


 その瞬間、部屋の温度が、すっと一段下がった。

 宙に浮かんでいる手の周囲の空気だけが、まるで別の世界みたいに歪んで見える。

 隣で、レオンがごくりと唾を飲み込む音が聞こえてきた。

 背筋に、ぞわりと冷たいものが這った。

「ま、今から死ぬ気で修行すれば、私の半分くらいの威力を使えるようになるでしょう♡」


「……お、お前、何者だ。俺らをどうする気だ」

「あら、これは紹介が遅れました♡」と、彼女はぱちんと指を鳴らす。


 その瞬間。

 部屋の隅々から何かが飛び出してくる。


「「ひぇっ」」


 顔、腕、胴体、足。


 ばらばらの人体パーツが、宙を泳ぐように手元へ集まっていく。

 そして、それらは粘土のようにぐにゅぐにゅと繋がり始めた。

 人の形に形成されていくそれを見ながら、気味の悪さに圧倒される。

 形を変えながら組上がって行くそれは、やがてひとつの人間の形となった。


「改めて、はじめまして♡」


 私たちの前に立っていたのは、わずか10歳前後にしか見えない小柄な少女。

 明るい場所で見ると、水色の瞳がよりきれいに透き通って見える。

 彼女は黒いワンピースの裾をつまみ、優雅に一礼する。


「私はリュミナ姫のお側に仕える者、カロッソと申します」


「……あ!」

 そういえば、廊下で私たちを探していた男のひとたち。

 カロッソ様にバレる前に探し出さないと、とか言っていたような……。

 この人、魔法レベルも社会的地位も、そんな上級者だったんだ。

「家臣どもが慌てた様子で何かコソコソやっているなと思ったら、敢えてなのか、満月の夜を決行日に選んだ馬鹿2人が脱獄したという噂を耳にしまして。なかなか捕まらないようなので、わざわざ私がお出迎えにきたのです♡」

 ……。


「あのぅ」

 私は恐る恐る手を挙げた。


「ところで、リュミナ姫って?」


 隣から「は?」みたいな顔を向けられる。

 いや、レオン。

 知らないものは知らないんだからさ!

 この国の者じゃない私、不利じゃない?

 前提知識0人間なんだから。

 わからないことは聞けるときに聞いときなさいって、お祖母ちゃんが言ってました!


「リュミナ姫は我がアルメシア王国の王女様です」

 意外にも、カロッソはため息一つつかず、ニコニコと答えてくれる。

「未来のお妃様となられる、とても高貴な方なのですよぉ♡」

 ふへぇ……。


「それで?」と、レオンがカロッソに問いかける。

「俺らを捕まえようとして壁際に追い詰めたら、そこで運よく俺ら2人とも気絶しちまったから、そのまま確保した――ってところまでは何となくわかった」

 レオンは少し不機嫌そうに辺りを見渡した。

「でも普通だったら牢獄に逆戻りだろ。なんでこんな部屋に通すんだ。俺らをこれからどうするつもりだ」


 確かに。

 言われてみれば、なんかすごいよさげなお部屋。


 私は改めて辺りを見渡す。

 巨大なシャンデリア、天井や壁いっぱいに描かれた絵画、床にしきつめられた布団やクッション。

 フレグランスのいい香りもするし、牢獄ホテルどころかむしろ高級ホテルみたい。


 ……ま、まさか。

「死刑宣告前の特別待遇とか⁉」


 最期くらいはリッチなお部屋で過ごしてください、ていうこと⁉


 しかし、カロッソは両手をひらひら振って、なだめるように微笑む。

「ここはリュミナ姫の飼い犬、ボッティの寝室です」


 ⁉


「犬の寝室ぅ……‼⁉」

 思わず全力で叫んじゃった。


 いやあの、私の部屋より豪華じゃないの。


「ボッティはこの部屋以外では眠れない敏感な体質を持っていますので。室温、湿度、音、匂い、すべて彼のお気に入りに設定して、常に快適な空間になるよう、保っております」

 お犬様か。

 豪勢ですこと。


 私がひとり感心していると、レオンが疲れたように眉間を押さえた。

「話が逸れてるぞ」

「あら、失礼いたしました」

 カロッソは一ミリも悪びれた様子なく、ほほ笑む。


「単刀直入にお伝えしますと、あなた方は、このままでは死刑です」


 ――“死刑”


 その2文字がひらがなの3文字と化して、脳内を浮遊する。

 いや待って、実感湧かないし。

 そもそも脱獄しようと試みたのは私が悪いけど、下着盗んで高値で売っただけで死刑なのぅ⁉


「ただ♡」と、カロッソは顔の前でぱちんと手を合わせ、首をかしげる。


「私は長年、王家に勤め、王家一族からは絶大な信頼を得ております。そのおかげで、リュミナ様の身の回りのことだけではなく、多岐にわたる業務をお任せいただいているんですねぇ」

「だから?」

 カロッソを睨み上げて、レオンが言葉を促す。


「私から陛下にお願いを申し上げ、あなた方の死刑を取り下げていただきましたぁ」


 ――え?


「レオン・ヴァルター、そしてテネル・ファリン。あなた方は選ばれた人間なのです」


 ――おめでとうございます♡と、カロッソはパンパンと場違いな明るい音を立てて拍手する。


 頭が追いつく前に、胸の奥がざわりと揺れた。

 いや、ちょっと待っ……。


「理由になってねぇよ!」


 レオンが布団を踏み込み、立ち上がる。

 カロッソよりも背の高いレオンは、圧という圧をかけ、カロッソを睨みつける。


「黙って聞いてりゃ、何を企んでそんなこと……もしかして、俺らのこと買ったのか? 奴隷にでもする気なのか?」

 レオンの低く、噛み潰すような声。

 死刑を告げられた男とは思えないほど、野生の気迫がむき出しになっている。


「死刑を取り下げてくれたのは有難いんだけど……私も納得できない」

 私も立ち上がり、カロッソを真正面から見据える。


「どうして私たちを助けたのか、何の見返りを求めて、これから何をさせるつもりか知りたい」

 だって私たちは、やりたいことがあって、成すべきことがあって。

 自分たちの意志で生きたくて、逃げ出したの、カロッソとも戦おうと試みた。

 それが突然命を握られて、生かしてあげましょうだなんて、それじゃ結局自由なんてない。

 死刑と同じだよ。


 カロッソはふぅと鼻で息をつく。

「あなた方にはまず、人の話を最後まで聞くということをしつけないといけませんねぇ」

 カロッソの声が落ちた瞬間、部屋の空気がぴたりと止まった。


「確かにおっしゃる通り、ただで死刑がチャラになったわけではなく、あなた方の命に条件をつけさせていただきました」

「だからその条件次第だっつってんの!」

 と、レオンが苛立って、また一歩踏み出す。

 レオンが今にも噛みつきそうな勢いに、私は慌てて彼の背中の服を引いた。


「……よろしいですか? では、その説明の前に、こちらをご覧ください」

 カロッソがレオンの様子を気にすることもなく、一通の無地の封筒を差し出した。

「これは、王家、そしてこの宮殿に仕える限られた者しか知らない秘密です」

「見てもいいのか?」

「どうぞ、封は空いておりますので」

 レオンはカロッソから受け取り、中の便箋をゆっくりと開いた。

 私も横から覗き込み――息をのむ。


「……‼」 


 ――リュミナ姫の御命、ここにて絶たれたし。


 白い紙の中央に、万年筆の黒いインクがくっきりと浮かんでいた。

 私たちは唖然として何度も何度も読み返す。


 え。

 これって。脅迫文?


「これがリュミナ姫のもとに届いたの?」

「えぇ、昨晩。他の配達物に紛れ、王宮まで届けられたようです」

「送り主は」

 レオンの問いかけに、カロッソは黙って首を横に振る。

「リュミナ姫は、何億年も生きて魔力を鍛えてきた私よりも、非常に特殊で、且つ強力な魔法の使い手なのです」と、カロッソは窓の外へ視線を向ける。


 待って。

 うっかり聞き流すところだった。

 カロッソ、あんた何億年も生きてきたの⁉

 おばあちゃんなの⁉

 確かに、幼く見えて実は大人なのです~(パッパカパーン!)みたいな設定のキャラなのかなって何となく思ってたけど、そんな桁いってんの。


「姫もそろそろいい年頃です。その魔法を目的に、命が狙われるようなことがあってもおかしくないのです」

「なるほどな」

 と、レオンが顎に手を当てる。

「リュミナ姫の魔力は食べごろってわけか」

 そんな物騒な。

 どうやら、魔力というのは18歳が最も美しく、熟す時期と言われているそう。

 果物じゃあるまいし、ねぇ。


 私は、レオンにねぇねぇと耳打ちする。

「殺したら、その人の魔法が奪えるの?」


「あぁ、簡単な基盤魔法というのがあって、そういう魔法は大抵の人間が幼いころに学校で習うから、誰でも使えるんだが。それとは別で、その人専用の唯一無二の魔法というのがあって、それはその人しか使えない」

 ほう。


「この世界では、人間は死ぬと胸辺りから花が咲き、その花の種を摂取すれば、専門魔法も受け継ぐことができるんだ」

 ……ほう!


 いや、恐ろしいっ。

 そんな仕組みだから通り魔とか殺し合いとか増えちゃうんだよ。


「それで」

 レオンが脅迫文をひらりと翻す。


「この姫の話と俺らの条件に何の関係があるんだ?」

「では、もう一度、“単刀直入”という言葉を使わせて頂きますね」

 カロッソはコホンと咳払いをする。


「あなた方が生きる条件というのは、姫の護衛です」


 と、カロッソは静かに言った。


 ……言った。

 ……言った。

 ……言った。(こだま)


 ……は?


「え、今なんて仰いました?」

 み、耳を疑ったんですけど。


「ですから、あなた方2人にリュミナ姫の護衛をお願いしたいのですぅ♡」


 なんと。

 聞き間違いじゃなかった。

「お、お前、冗談も休み休み言えよ」

 レオンが顔を引きつらせて言う。

「俺ら、さっきまで死刑宣告されてた悪人だぜ? しかも脱獄しようとしてたの。そんな人間に大切なお姫様任せていいのかよ」


「問題ありません♡」

 カロッソがビシッと指を立てる。


「任務中に、逃亡、反撃、リュミナ姫への危害、任務放棄、それらに該当した瞬間、即座にあなた方の首が切り落とされる、という契約魔法を既にかけておきました」


「「はぁぁぁぁぁぁ⁉」」


 ……なんちゅう魔法をかけてくれてんのよ!


「試しに逃げてみます?」

 カロッソはにこやかに続ける。


 ぱちん


「「いっっっっ⁉」」

 突然、首筋に焼けるような痛みが走った。

 私たちは反射的に倒れ、床をごろごろ転がる。

 て、テレビでよく芸人さんがやってる電気ショックだよ。


「て、てめぇ……いい趣味してんなぁ! 今何してくれたんだよ」

 ひぃっ。

 顔を上げた、レオンの顔が怒りでピクピク引きつっている。


「警告です♡」と、カロッソは顔の横でピース。

「本番は首が落ちますので、くれぐれもお気を付けくださいねぇ♡」

 お、恐ろしい。


「そ、それでも」


 私は思わず一歩出て、

「まだ私たちが選ばれた理由になってないよ!」

 だって。

 レオンはカロッソの1000分の1の魔力。

 私は魔法すらまともに使えない、使い方すら知らない、ただの平々凡々な15歳。

「そんなんじゃ、リュミナ姫を守り切れるなんて、約束できない。無駄に首が2本飛ぶだけだよ」

 カロッソが護衛したほうが、どう考えても何倍も心強いじゃない。


 するとカロッソは、ふむ、と小さく頷いた。

「あなた方を選んだ理由は3点、時間もないので手短に説明いたします」

 すらりと指を3本立てる。


「まず、こちらをご覧ください」

 レオンから便せんを受け取り、カロッソは紙の上に掌を重ねた。


 すると。


 カロッソの手の体温で、紙全体がじわじわと黒く染まっていく。

「……すっご」

 私は思わず身を乗り出した。

「色が変わっていく……!」

 黒く変色した便せんに、新たな白文字が浮かび上がる。


 ――王宮内には一人の間者潜伏す。貴様らの面相、既に知られたるものと思い定めよ。


 ――理解、とレオンが目を細め、

「王宮の人間だと既に顔を知られてる。だから護衛に都合が悪いっていうわけか」

「えぇ、敵がどこに潜んでいるか知り得ない以上、王宮内の者だけでリュミナ姫をお守りするのは危険なのです」


 つまり。

 こっちは敵の正体を知らない、けど。

 向こうは王宮関係者の顔と名前を把握してる……ってこと?

 確かに、それは不利だ!


「その点、あなた方は5年間、地下牢で過ごされているので、地上に出ていない。知られる術がないのです。それに、まさか脱獄した者にリュミナ姫の護衛をつけようだなんて、敵も考えないでしょう」


 ……はっ?


「5年間⁉」

 私たち、そんな長期間捕まってたの⁉

 え、じゃあ何、私、10歳で下着泥棒常習犯だったの?

 衝撃。


「……こいつ、いちいち騒がしいから気にすんな」

 痛っ。

 レオンが呆れた顔で、謝罪とばかりに私の頭を掴んでぐいと下げる。


「話は戻りますが、リュミナ姫の力はあまりにも膨大で……姫が命を落とした際、制御を失った魔力が暴走する危険があるのです」

 ――王宮が半壊する程度ではすまないでしょうね♡

 また、さらっと怖いこと言う!

「そのため、敵も迂闊に手を出せません。おそらく、安全に魔法を奪う方法を探りながら、長期的に機会を窺っていたのでしょう」

「だから、王宮に潜伏したってことか」と、レオンが言う。

 リュミナ姫の生活とか、結界、魔法の癖、精神状態など諸々、少しずつ調査していた、と。


「続いて2点目、これは姫直々のご指名なのです♡」


「「……はい?」」

 またもや、私とレオンの声が重なる。


 いやいやいや。

 リュミナ姫、お会いしたことないですよね。

 脱獄犯をご指名なんて、物好きな。

「私から陛下にお二人のことをご提案した際、リュミナ姫も同席されていたのですが。お写真をお見せした瞬間、急に眼の色を変えられまして。どうしても会いたい、ぜひ2人に護衛を頼みたい、と」


 ――特に。

 と、カロッソがちらりと私の方を見上げる。


 ……私ぃ?


 こんな下着転売ヤーの変態野郎を⁉


「陛下はもともとリュミナ姫を甘やかすところはありますし」

 と、カロッソは半ば呆れた表情で肩をすくめ、

「万が一、お二人が裏切り行為をした場合の処置も併せてご提案しましたので、最終的にお許しが出た次第です」

 即首飛び契約魔法を思い出し、ぞっと背筋が凍る。


「それから、3点目」

 カロッソが私たちをまっすぐに見つめる。


「私が、あなた方の魔力は、おそらく原石だと、判断いたしました」


 ……はい?


「そんないきなり、エビデンスないこと言われても!」

 私は思いっきり、ブンブン両手を振る。


「まずレオン」カロッソはレオンに向き直る。

「あなたは偉大なお父様をお持ちですね」

 その一言に、レオンの体が強張る。

「地下牢であなたの魔法を拝見し、確信いたしました。その血筋は、しっかりレオンにも受け継がれております。今からでも鍛錬を積めば、お父様を遥か上回るほどに成長するでしょう」

 レオンは何か言いたげに眉をひそめる。


 私は――レオンの過去を知らない。

 伝説のマジシャンだったという、お父さんのことも。


 どこから取り出してきたのか、カロッソの両手には、どさっと大量の紙束が現れた。

 ばさぁ。

 両手から溢れ広がるプリント。

 嫌な既視感。

 あれみたい。

 夏休みの数学の宿題。


「レオン専用の特別鍛錬メニューです♡」

 量が殺しにかかってんのよ。

 レオンはというと、若干引いた顔で受け取っている。


「そして、テネル」

 はいっ!


「あなたはこの世界の者ではないですね」


 ……。

 ……嘘ッ、バレてる⁉


 いやでも。

 さっきからこそこそレオンに質問攻めしたり、リュミナ姫のこと知らなかったり、アルメシア王国の基礎を知らない時点で怪しまれているか。


「どこからいらっしゃったのか、なぜそうなったのか、元の世界へ帰る方法など助言はできません。ただ一つ言えることとしては」

 カロッソの透き通る水色の瞳が、まっすぐに私を射抜く。


「――あなたはこの世界で、無双するでしょう」


 ……はっ?


 MUSOU?

 私、が?


 私は目をぱちぱち。


「いやいやいや! 魔法出なかったでしょうよ、見たでしょう?」

「いいえ、出ていましたよ♡」

 私は慌てて隣のレオンを見上げる。

 レオンも困惑した顔で、首を傾げていた。

「とんでもない速さでしたから、レオンには見えなかったのですね♡」


 え。


 速すぎて常人じゃ、私の魔法は見えないだと⁉


 私、かっこよすぎだろ。

 エキストラだと思ってた。

 めちゃくちゃに主人公タイプじゃん⁉


「実は、あなた方を追い詰めた際、私はテネルの魔法を浴び、さらに膨れ上がったのです。それに、なんだかパワーも……正直、あまり見た事のない系統ですね」

「対象を強力化させちゃう魔法ってこと⁉」

 それとは少し異なるような……と、カロッソが珍しく眉間にしわを寄せる。


「とりあえず、お伝え出来そうなことはすべてまとめてみました♡」

 と、レオンと同様、どさぁと私の前にも大量の紙束が積み上がる。

「テネル用、特別解析資料ですぅ♡」

「多いっ」


 ……。


 私は紙束を受け取る前に、ふと、自分の掌を見つめた。

 かすり傷も火傷もない、ただ煤汚れた掌。


 でも。


 私――。


「私、その任務引き受ける」


 もしかしたら。


 こんな私でも特訓すれば本当に無双できるかもしれない。

 そうしたら、新しい自分にも出会えるかもしれないし。


 そして、もしかしたら――。


 元の世界へ帰る方法だって。


 私はギュッとこぶしを握る。


「つーか」

 レオンが私の肩に腕を載せた。


「ここで断ったら、あの魔法で俺ら即首飛びだろ」


 てことは。


「「やるしか選択肢ないわな」」


 私たちは顔を見合わせ、ニカッと笑う。

 カロッソは私たちの答えを聞いて、満足そうに微笑んだ。


「ご協力、感謝申し上げます♡」

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

今回のエピソードはかなり長かったと思います……途中途中、まだ終わんねぇの⁉ と思われた方も、おそらくいらっしゃったでしょう。

最後まで楽しんでいただけた方がいらっしゃったら、深く、深く感謝申し上げます!


次回、ep.6は【最悪の再会】です。

ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ