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姫(パパ)を守護せよ、思春期ムスメ‼  作者: 藤尾香夜
第一章 新世界の幕開け
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ep.04 迫りくる運命

「おい、テン、問題ないか⁉」

「問題大ありですぅ!」


 ゼェゼェ肩で息をしながら、私たちはひたすらに足を動かす。

 走りながら恐る恐る後方を振り返ると、薄暗く狭い、肌寒い廊下がどこまでも伸びているだけ。

 生首、どこか行ったんだけどぅ。


「何が問題なのですかぁ?」

「ぎ、ぎょぇぇぇぇぇ‼‼」


 いつの間にか、私の服のフードの中に生首が入りこんでいた。

 肩にちょこんと飛び乗り、可愛らしい笑みまで浮かべてい――


「無理ぃぃぃぃ」

 私は白目をむき、慌ててフードをバタバタ振り払う。

 生首はピョーンと飛び出し、天井にベタッと貼りついた。

 き、気持ち悪いっ! 何あの、スライムみたいな感触……!


「テン、しゃがめ!」と、レオンの叫ぶ声に振り返った瞬間、私はカッと目を見開く。

 牙をむき出しにした、大きなヒョウがこっちに突進してくる。

 何、今度は何っ!

 とっさに言われた通りにしゃがみこむ。


「ぐはっ」

 背骨に鈍い衝撃が走り、肺の空気が抜ける。

 想定外だったのは、ヒョウが天井の生首に飛び掛かる瞬間、私の背中を踏み台にしやがったことだった。

 そしてもう一つ想定外だったのは――。


「痛ったぁ」と、若干のイラつきを抑えつつ顔を上げた私の目線の先に、ヒョウがボフッと煙を立てて消え、生首がかすり傷一つなくそこにいた。


 嘘。

 レオンのイリュージョンが効いてない……?


「クソッ」焦りを滲ませながら、レオンは一気に何枚か破ったメモ用紙を宙にばら撒く。

 生首めがけ息を吹きかけると、宙を舞う紙が煙に巻かれる。

 煙は生首向かって走り、生首の手前、中から赤い鎧をまとった騎士が剣を構えて次々に飛び出した。

 すごい、レオン……!

 私はギュッとこぶしを握る。


 しかし――。


「……っ」

 レオンが軽く舌打ち。

 生首に切りかかった騎士たちは、次の瞬間、生首に飲み込まれた。

 続けて、二体、三体と飲み込まれ、皆、煙と化して消えていく。

「さすが、伝説のマジシャン、クロウリーのご子息ですねぇ」

 と、生首は面白そうにニターっと笑った。

 大量の兵士が襲いかかってくる目前、むしろ楽しそうに跳ねている。


 ――クロウリー


「黙れ」


 生首が発したその名前を聞き、レオンの目がカっと見開く。

「二度とその名を口にするんじゃねぇ……!」

 低く、絞り出した声に、私はぞっと背筋が粟立つ。


 次の瞬間、破り捨てられた紙片が必要以上に大量に宙を舞った。

 私には、レオンの指先が微かに震えているように見えて――。


「レオン、落ち着いて!」


 煙は荒く渦を巻き、廊下を埋め尽くすほどの騎士が生まれる。

 でも。

「レオン!」


 未完成だ。

 赤い騎士たちは、どこか輪郭がぼやりとしている。


「才能はあるんですけどねぇ、活かせてませんねぇ」

 と、その瞬間、生首は大きく息を吸った。

 空気という空気、全てを吸い尽くすように。

 近くで座り込む私でさえ、その吸い込まれる空気の渦にのみこまれそうになる。


「テンっっ!」

 レオンが手を差し伸べる。


 その手を掴み、吹き荒れる風を腕で遮りながら目を開けると――そこには、廊下いっぱいに膨れ上がった巨大な生首が出来上がっていた。

 喉から、ひゅっと変な音が漏れる。

 レオンが生み出した赤い騎士は一人残らず、姿を消している。


「くそっ、吸い込まれた!」レオンが悔しそうに唇を噛む。

「ねぇ、レオン……私たちもやばいんじゃない?」

 頭の中が、次第にスーっと冷えていく。

 嫌な予感。


「逃げるぞっ!」

 レオンが私の手を力強く引き、廊下の先を駆け出した。


 ゴロンッ ゴロンッ ゴロンッ ゴロンッ


 ものすごい音を立てながら、巨大な生首は回転して2人めがけ、突進してくる。

 轢き殺す勢いだ。


「「いやぁぁぁぁぁ‼」」


 と、前方に――


「レオンんん‼ 行き止まりぃぃぃぃ」

 急ブレーキをかけ、私たちは立ち止まる。

 目の前には石の壁。

 振り返ると、とんでもないスピードで大きな生首が迫ってきており、すり抜ける隙間もない。


 逃げ場がない。


「どうするの、レオン!」

「わかんねぇよ!」

 頼りのレオンは頭を抱え、しゃがみ込んでいる。

 なんなら、わんわん赤子のように泣き出した。

 嘘でしょ。さっきまであんなに強気だったのに?

 バンバン魔法使ってたのに?


「なんだかよくわからないけど、伝説のマジシャンのご子息なんでしょ、しっかりしなさいよ!」

「お前なんかに俺の気持ちがわかるかよ!」

 はぁ?

 あんた、今それどころじゃないでしょ!?

 絶望的だ。

 こんな時になんて様を見せてくれる。


 ――どうしよう。

 私、死ぬのかな。

 転生されて1時間もたたず、あの馬鹿みたいにデカい生首に押しつぶされて死ぬのかな。

 苦しいのかな、痛いのかな。

 それは嫌だな。

 ひぃひぃと、細い息が漏れる。

 うまく呼吸ができているのかもわからなかった。

 ドクドクと高鳴り、やけに熱い心臓を抑える。

 怖い。

 恐怖に目を強く閉じる。


 ――この子はきっと、誰よりも人を想う心を持った、天使のような子に育つよ。


 それは、不意に流れてきた。

 真っ白で空っぽの頭の奥で。

 優しい男の人の声。

 懐かしい、布団の香り。


 何今の。


 私はゆっくりと目を開ける。

 でも、わかった。

 今の私が何をしなければならないのか。

 なぜか、体は勝手に動いていた。

 レオンの前に立ちはだかり、大の字に体を広げる。


「……テン?」

 レオンの消え入りそうな声が背後から聞こえてくる。


「……こんなところで死ねないね、私もあんたも」


 生きてやることがあるんでしょ。

 レオンには、脱獄という危険を犯してでもやりたいことがあるんでしょ。

 世良てんこは、レオンと出会ったばかりで、これっぽっちもあんたのこと知らないけど。

 でも、あんたがここで死んじゃいけないことは何となくわかる!

 めちゃくちゃ野生の勘だけど!


「だから、私があんたを守るから」


 ていうか、今何もしなかったら、私もあんたも死ぬ運命しかないもん!


「お前に何ができるっていうんだよ!」


 大丈夫。

 だってここは、アルメシア王国。

 魔法の国。

 もし。

 ほんの少しでも。


 私にも、魔法が使えたら――。


 地面が揺れる。

 生首はさらに加速し、巨大化し、廊下の松明をバキバキとへし折りながら迫ってくる。

 灯りが一つずつ消え、暗闇が近づく。


「一緒に帰ろうっ、レオン!」


 迫りくる生首に向けて、震える両手を突き出す。

 呪文なんて知らん。

 やけくそだ!

 指先に力を入れる。

 ビームとか出ろ、なんでもいいから。


 次の瞬間。


 掌がカっと熱を帯び、空気が震えた。

 生首との距離が数メートルにも近づいた瞬間――。


 轟く爆音とともに強風が叩きつけ、閃光が視界を焼いた。

 世界が白に塗りつぶされる中、私の意識はふっと途切れた。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうかっ。


次回、ep.5は【死刑宣告と新たな任務】です。

ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪

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