ep.23 旅は続くよ、どこまでも。
――俺は、大事な人の教えを破り罪を犯した、それが俺の後悔だ。
迷いのない答え。
その、まっすぐな瞳を私は少し前にも見ている。
ちょうど朝日が昇り始めたあの頃。
レオンは、並んで腰を下ろす私に、同様の話を打ち明けてくれた。
「俺はこの罪を一生背負って行こうと思う」
私は何も言えなかった。
だって、こんなにも重たい過去を抱えていたなんて、想像もしてなくて。
私ってば、勝手にレオンの過去に探りを入れたり、レオンにとってはずっとずっと大切な親子の絆を、“思春期”だとか“反抗期”だとか、楽ちんな言葉でぶっちぎったり。
ほかにも、たぶん。
私は気づかないうちに何度もレオンを傷つけてしまった、イラつかせてしまったと、思う。
「ねぇ、その罪は、私やパパが一緒に背負うことで楽になったりしないの⁉」
一緒に背負うって、どうやってだよ、とレオンは困ったような笑みを浮かべる。
小さく首を振って、
「気持ちは有難いけど、その覚悟くらい、もうできてるから」
覚悟。
――俺は。
その言葉を大事そうに噛みしめてレオンは立ちあがる。
徐々に朝焼けに染まり始めた大きな空を見上げ、その瞳は力強く光る。
「今度こそ、親父の教えを守って、伝説のマジシャンになる。親父を超えて、宇宙で一番になってやる。
……違う世界のやつとも会えて、思いのほか宇宙が大きいことに気づけたし」
そう言って、私に屈託のない笑みを浮かべた。
この人は。
この先どんなにしんどくても、辛くても、挫けそうになっても。
お父さんとの約束を胸に、たくさんの人の笑顔を作っていくんだ。
そうやって、いつか本当にお父さんを超える、宇宙一のマジシャンになるんだ。
誰からも求められるような、人気者のエンターテインメントに。
たとえ、その茨の道を歩み続ける理由が過去に犯した罪だったとしても。
我に返る。
川音だけが響いていた中で、やがて、番人たちの小さな頷きが聞こえた。
「……うむ」
顔を上げれば、老人たちは互いに顔を見合わせていた。
……ご、合格?
――やったぁぁぁぁぁっ!
もしかして、認められた⁉
私たち、素直になれたんだ、本音を伝えられたんだ!
ここを通過することが認められたってことだよね!
命の保障がされた、旅が続けられるんだぁぁぁぁっ!
胸が弾んだ、――が。
ズン――
……え?
お腹の底までビリビリと響く低い音。
その音が、どこからか響いてきた瞬間、私は目を疑った。
番人たちとの境を流れていた川が、ゆっくりと蠢き始めたのである。
水流はさらに渦を巻き、勢いを増し、
やがて、回転しながら大きく太く、一本の水柱へと姿を変えていく。
何これ何これ、
どうなってんのよ!
……これって、昨日と同じ現象じゃ?
はぁっ⁉
私たちがまた嘘つきだって判定されたってコトぉ⁉
いっやいやいやいやいやっ、
本人が自信満々に答えたのよ!
だいたい、嘘をついているか否かなんて、どうやって他人が決めつけられるのよ。
エスパーじゃあるまいし!
「テンっ――!」
レオンが私へ、手を伸ばして駆け寄ってくる姿が視界に入って気づく。
巨大な水柱は転へまっすぐに伸びて、そして、
「こっちに倒れてくるぅぅぅぅぅっ⁉」
気づいた時にはもう遅い。
背を向けて、川辺を離れようとしたときには、水柱は水面を叩き割るように倒れ込む。
ドォォォンッ
爆発みたいな轟音と、
その衝撃で、水しぶきと突風が一気に私たちを飲み込んだ。
「――くあっ」
つっめたぁぁぁいっ‼
濡れた、と思った次の瞬間、突風が私の身体をさらう。
「ふぇっ⁉」
……な、なにこの浮遊感。
足が、足がつかないっ!
もしかして、私、風に煽られて、空中に放り投げられちゃってる感じ⁉
「「いやぁぁぁぁぁっ」」
レオンの悲鳴が重なる。
私は無造作に宙へ手を伸ばした。
「レオン、レオン!」
声の限り叫ぶ。
しかし、巨大な渦が姿を現し、レオンはあっという間に見えなくなってしまう。
このままじゃ、川の底に引きずり込まれちゃう!
死んじゃう、こんなところで。
絶対に嫌!
やっと素直な自分に会えたのに。
パパとママに大人に一歩、近づいた私を見てもらいたいのに。
「偽りなし」
――ピンポーン♪
……へ?
浮遊感が消える。
恐る恐る目を開けると、私は一艘の小舟にちょこんと腰を下ろしていた。
川の中、じゃない。
……つ、つまり⁉ どういうことぉっ?
私は、峡谷に浮かぶ、一艘の小舟に腰を下ろしていた。
隣には、同じくびしょ濡れになって、口を半開きに茫然とするレオン。
そ、そうだよね、頭の処理が追い付いていないよね。
わからなくて、本当にパニックだよ。
本音を語る者だって、認められたの、私たち。
静寂の島に足を踏み入れていい人間だって、合格したってコト⁉
……もしくは私たちはもう死んでいて、ここはすでに黄泉だとか。
「えっと、私たちここを通過していいってこ……」
「道中、様々な危険が待ち伏せておるが、達者でな」
……人の話最後まで聞けよぉぉぉぉっ
無視すんなよ、じいさん!
それに、
そもそも、合格なら、もっとまともなやり方で船に乗せてくれたっていいじゃない。
どうしてこうも溺れかけないといけないの⁉
峡谷の上から、穏やかな笑みを浮かべ、両手で手をふりふりする三つの陰。
皇后両陛下ですか!
私はカチンときて、立ち上がり、船の際に足を掛ける。
「おい、あぶねぇぞ」
と、レオンが私のフードを掴んだ、
――次の瞬間。
「ひゅぇぁっ!?」
ドンッ!!
いきなり、船が鉄砲玉のような勢いで動き出す。
私はその唐突な衝撃に、バランスを崩して、船底へ顔面ダイブ。
……いったぁぁぁぁぁっい
ていうか、何この、顔にかかる風圧と水しぶき。
息もできないよ。
目も開けられないんですけど。
「お、おいぃ」
そこに、恐怖に帯びたレオンの声が聞こえる。
もう、何っていうのよ。
私は手の甲で目元の水をふき取る。
…‥‥へっ
狂ったようなスピードで、目の前の世界が進んでいく。
船は、通常の川の流れを逆らう方向に進んでいた。
何事ッ、船が勝手に進んでんの⁉
必死になって船内を見渡すが、船には操作できるものなどなさそうで。
こんな勢いのすごい船で剣をオール替わりに漕げば、折れちゃいそうだし。
自動運転ってことでいいんだよね⁉
無事に目的地に設定されてますよね⁉
岩の隙間を縫、ってぇ。
滝すれすれを駆け抜け。
急降下ぁっ、急旋回ぃぃぃっ。
もうやだっ。
でも、泣いても終わるはずもない。
なんなら次の瞬間――。
前方で川が二手に分かれていた。
右手には巨大な滝、左手には岩壁でございまぁすっ。
……ちょっと待ってぇぇぇ!!
しかし、パニック状態の私たちを置いてけぼりにし、一方船は迷っていないご様子で、――さらなる加速。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
滝の縁を紙一重で通り抜ける。
助かっ――
ガコンッ!!
「「へ?」」
気づけば今度は、船が川から飛び出している。
ど、どどどどどどどういうこと⁉
水陸兼用なんですか、この船⁉
草原、岩、木々、丘、そんでもって、
崖からジャンプ。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」
ザバァァァァン!!
再び川へ着水。
何この、シートベルトのないジェットコースター。
し、しぬっ。
番人さんよぉ、正解でも不正解でも死の道へのスタートじゃないの!
もう、悲鳴を上げる暇もない。
一度口を開いてしまえば、風で歯茎がむき出しになってしまうほど、皮膚が持っていかれてしまう。
気づけば激流は穏やかな流れへ変わり、船はゆっくりと岸へ着いた。
「おえっ」
そこは、今までの大自然が嘘のように活気に満ちた港町。
体いたぁい。
気持ちわるぅい。
寿命が縮まった。
風で全身カッサカサだし。
そのおかげで衣服と髪は乾きましたけど。
ていうか、ここどこよ?
行き交うお洒落な格好の人々と。
店先から漂う料理の匂いと。
笑い声とスキップ、
船の汽笛に肩をびくりとさせる。
…‥‥船は上流の方に上って行ったのに、どうして海についてんのよ。
どうも、この世界の仕組みが一向に理解できない。
私はポリポリと頭をかく。
……んぁ
「レオン⁉」
ごめん、忘れてた!
レオンの方を振り返ると、彼はぐったりと船にもたれかかっていた。
えぇ、もう大丈夫ぅ?
顔色悪いし、白目向いてるし、オロロロ吐いちゃってるじゃないの。
「ねぇ、レオン。着いたよぉ」
気絶しちゃってる。
誰か、助けてくれないかなぁ。
思わず辺りを見回した、その時。
「てんこーーーっ!!」
聞き慣れた声が港中に響き渡る。
……どうやら、見つける手間が省けたみたい。
私は勢いよく振り返った。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうかっ。
次回、ep.24【グッド!モーニング】です。
ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪




