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姫(パパ)を守護せよ、思春期ムスメ‼  作者: 藤尾香夜
第一章 新世界の幕開け
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19/24

ep.19 嘘つきの裁き

「レオン!」

 私は迷わず、飛び出していた。


 頭上から、変わり果てた姿の三人の老人たちが、レオンに向けて襲い掛かってくる。

 いぃぃぃぃぃっ、

 とんでもなく、キモいぃぃぃっ。

 皮がむけて骨と肉がむき出しになっているし、目ん玉もポロリしてるし、口が酷く裂けていて、そこから覗く牙と、頭から生える角の鋭さったら、ありゃしない。

 あんなリアルな鬼、漫画でも映画でも見たことないよ!

 やだやだやだっ、

 思わず手を引っ込めたくなるけどぉ、でもっ!

 ここで親友を見殺しになんてことも、できないですぅっ!


 しかし、動きがとんでもなく素早いっ。

 その見た目では考えられないスピードで、鬼たちはレオンとの距離を縮める。

 私の方がレオンに近かったはずが、あっという間に鬼たちは、レオンの身体に取り付き、その動きを封じてしまった。


「くそっ、離せよっ」

 レオンが顔を紫に染めがらも、全身で抗うが、鬼たちは岩のようにびくともしない。


 どうしよう、この中で一番の使い手なのに、あれじゃ、レオンも魔法を出せないじゃないっ。

 私は慌てて鬼の腕を掴んで、力の限り引っ張る。


「こんのっ……!」

 ぐぬぬぬぬ。

 ぐっと足を踏ん張り、思いっきりに引っ張るけど。

 こいつら、一ミリも動かないっ。


「なんのこれしきぃっ」

 さらに踏み込んだその途端、


 ブチっ


 何が起こったかわからないまま、私は何かの拍子で尻もちをついた。

 ……まってまってまって、

 状況を飲み込んだ瞬間、サーっと身体から血の気が引いていく。


「……ぎ、ぎゃぁぁっぁぁぁ」


 ど、どどどどどどど、どうしよう。

 ち、ちぎれちゃったよっ!

 ちぎれちゃったよ‼

 どうしよう、鬼の身体がちぎれちゃった。

 私の手に、赤黒い肉の塊が残る。


 思わず放り投げるが、一方鬼は苦しむ様子もなく、レオンへの羽交い絞めに夢中の様子。

 それどころか、ちぎれた肩口がぐにゃりと蠢いて、肉が泡立つ。

 それを見て、生理的な嫌悪感に、私の背筋も粟立った。

 ちぎれた箇所から新しい肉が、ぶくぶくと膨れ上がり、盛り上がり、形を整えて元の形に戻る。


 私が放り投げた肉の塊も――、

 ぴくぴくと痙攣し、のたうち回り、やがて溶けて地面へ染みこんでいく。

「ぇぇぇぇぇ」

 真っ青になって思わず後ずさった。 


 と、その時っ――。


「どひゃぁぁぁっ」


 今度は何っ⁉

 パパの悲鳴――⁉


 その声に振り返ると、


「――パパっ!」


 パパは荒れ狂う波の上で振り落とされまいと、ひしと小舟の先端を掴んでいた。


 ……にしても、荒れ狂いすぎじゃ?

 この川は初めから激流ではあったけど、より一層、川の流れの激しさが増している気がするのは私だけ?


 違和感が頭を駆け巡った、その瞬間、

 激流の中央に、白く泡立つ水面が不自然に一瞬だけ、盛り上がる。


 ……?


 と、盛り上がったところが今度は底に吸い込まれるかのように水面が沈み、渦を巻き始める。

 どんどん、大きな渦を巻いていく。


 ……?


 と、渦を巻いた部分がまた、盛り上がりを見せ――


「……う、嘘でしょぉぉぉぉっ⁉」


 ズズ、ズズズズズ……


 なんと、今度は盛り上がりが止まらないっ。

 川の水が、みるみるうちに遥か高く、天に昇っていく。

 数メートル、いや、もっと、さらに、高く。

 見上げても頂上がわからないほどに、みるみるうちに、川の上に巨大な水柱が形成されていく。


「ど、どういうこと……」


 震える声に喉を押さえた。

 喉に、生温かい鬼の血がべっとりとつく感触。


 ゴボッ


 柱の下の方の側面が盛り上がる。


 ゴボッ ゴボゴボッ ○o。.


 すると水柱はうねるように、盛り上がりの振動が、底の方から次第にてっぺんに向かって伝わっていく。

 そのしなやかさは自然と、私の視線を水柱の方へと向けた。


 ……はっ、


 何か恐ろしいものを見た気がして、私は目をこすった。

 あ、あれはッ。

 私はごくりと唾を飲みこむ。


「神様ぁ」

 突然、しわがれた声が、背後から聞こえた。


「「「神様ぁ、真淵龍神さまぁ」」」

 おじいちゃんと、おばあちゃんだ。

 その干からびた口から、聞いたこともないような名前が零れ落ちる。


 真淵龍神……?


「どうか、この嘘つきに罰を」

 しわがれた声が続く。


「真実を偽った者に裁きを」


「どうか、お怒りをお鎮めください」


 その祈りに応えるが如く、水柱の先端がゆっくりと持ち上がる。


 私はヒッと声を上げる。

 さっきの。

 恐ろしい光景は。

 見間違えじゃなかったんだ。


 水柱の先端は、先端には、


 巨大な顎に、鋭い牙、角、水柱にはびっしりと鱗。

 瞳はいなずまのように恐ろしく光っている。

 こ、これは。


 ――龍⁉


「なっ……!」

 私は息を呑む。


 ……なぜ⁉

 龍⁉

 どういうこと⁉

 真淵龍神さま、確か鬼たちはそう言って――。

 も、もしかして、この方が、三門峡の守り神的な存在ってこと⁉


 水龍が、峡谷を見下ろした。

 その瞳がゆっくりと、そしてギロリ、と鋭い刃物のように私とレオンへ向く。

 まるで獲物を見定めるよう、に


 まずい。

 私は「死」という文字を空に見た。

 死相が出ている、自分でもわかるほどに出ている。


 レオンはというと、もう大パニックで、口から泡を吹いている。

 だめだあいつ、気絶寸前だ。

 ズボンには恐怖でお漏らしの痕跡、足もガクガクで力が抜けて立っていられないみたい。


 ひどい、ひどすぎる。

 あまりの絶望に笑いさえ込上がってくる。


 ……うんにゃ。

 いやよ、諦めてたまるものですか。


 私は鬼たちを思いっきりに引っ張る。

「レオンを離せぇっ」

 くっそぅぅぅ。

 なんで動かないのよぉぉぉっ


 轟ッ!!


 龍が身をくねらせた、その時。


 ぶちっ


 川辺に停めていたパパの小舟を繋ぐ縄が、竜の勢いに切れた。

 あっけなく、一瞬で船が流されてしまう。

 ただなぜか、下流ではなく、自然の摂理と激流に逆らうように上流へ。


「てんこーっ!!」

 遠ざかりながら、空しいほどに峡谷の中にパパの叫び声が響く。


 その隙だった。


 龍の巨大な頭がこっちに突っ込んでくる。


「やば──」


 水龍が激流ごと襲いかかってくる。

 冷たっ――

 全身を叩く凄まじい水しぶきに、目をつむった。


 死ぬ。

 このままだと、

 死ぬ。


 私は目を閉じ、無我夢中に祈った。


 もし──


 もし、もう一度だけチャンスがもらえるなら……!


 その瞬間。

 世界が逆回転を始めたような、テープが巻き戻されるような軋みが耳の奥に響いた。

 勇気を出して、目を開けると、ただ視界には、白だけが広がって──。


 。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆


「――ハッ」


 私は勢いよく息を吸い込んだ。

 肺が痛い。

 喉が焼けたみたい。

 ガハッ、ガハッと、喉の奥に詰まったものを吐き出すように、むせ返る。


 私は荒い呼吸を繰り返しながら、周囲を見渡した。


「……ここ、は?」


 龍がいない。

 あの、三匹の鬼も。

 私はとりあえず、その状況に一息つく。


 深い、森の中だ。

 私は違和感に気づいて腰を浮かす。

 お尻の下には、鉄製の扉が下敷きになっていた。


 そうだ。

 この扉、見覚えがある。

 ここは、博士の家の上、

 梯子を上り切った先にある、非常口だ。

 今朝、通ったばかりの。


 どくんと胸を打つ。

 ……時間が、戻ったんだ。


 ――私の魔法で?


 そんな考えがよぎった瞬間、視界の端に人影を捕らえる。


「レオン!」


 私は地面に倒れているレオンに駆け寄る。

 全身びしょ濡れじゃない。

 服がぐっしょりと濡れ、辺りの草に水たまりが広がっていく。

 赤い長髪は濡れて顔に張り付き、その表情は見えない。


「レオン!」


 肩を掴んで揺する。

 うそ、反応がない。

 まさか、死んでんじゃないでしょうね。

 ……私の馬鹿、なんて不吉なことを。


「ねぇ、レオンったら!」


 胸の奥の温度がぎゅんと下がる。

 ねぇ、嫌よ。


「起きてよ……!」


 震えた声で叫びながら、辺りを見回す。

 パパの姿はない。

 どういうこと?

 時間が戻ったわけじゃないの?

 私たち、二人だけが、ここに戻ってきたっていうこと……?


「ねぇ、レオン!」

 私はもう一度、強く肩を揺さぶった。

 いやだ、一人ぼっちにしないでよ。


「お願いだから……!」


 返事をして。


 そう言いかけたところで――

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうかっ。


次回、ep.20は【レオンのついた嘘】です。

ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪

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