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姫(パパ)を守護せよ、思春期ムスメ‼  作者: 藤尾香夜
第一章 新世界の幕開け
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15/24

ep.15 眠れぬ夜

「レオーン」

 ドアを叩くと、向こう側から「空いてる」とぶっきらぼうな声が返ってくる。


 博士が一人一部屋、用意してくれた寝室は十分すぎるほどだった。

 ほぼホテル、いやそれ以上だよ、こんなの。

 清潔且つふかふかのベッドもあるし、冷蔵庫、鏡つきの机といすもあるし。

 水回りもしっかりしていて。お風呂とトイレは別で、独立洗面台と乾燥機のついた室内洗濯機まである。

 化粧品や入浴剤も一式揃っているうえに、最新のマッサージ器具まで部位ごとで用意されてあって、廊下に出れば、無料のドリンクサービスのテーブル。

 異世界感ゼロですが。


 そんなこんなでリラックスはできるけど、なんだか落ち着かなくて。

 急に一人になっちゃったから、色々考えちゃうのかな。

 静かになると、どうしてもマイナス思考になっちゃうんだ。

 人肌恋しい気がして。

 私はレオンの部屋を訪れていた。


 ドアを開けた先には、お風呂上がりのレオンが一人、少し濡れた髪のまま、ベッドに腰かけていた。

 掌を宙に向けて、何かに集中しているみたい。

「ねぇ、髪乾かさなきゃ、風邪ひくよ」

 と、言っても、返事は「うん」だけ。

 もう、レオンの赤髪は私よりも長いんだから。

 明日から体調崩しても、置いていっちゃうんだから。


「何やってんの」

「何やってんのって、特訓だよ。せっかく博士がファックス魔法かけてくれたからさ」


 ファックス魔法――

 別れ際、博士が私たちにかけてくれた魔法だ。


 カロッソの資料とさっきメモに使っていたノートは荷物になるだろうからって。

 博士は何やら、どでかい機械とヘルメットみたいなものを持ってきたかと思うと、私たちの頭に一つずつヘルメットを装着させ、カロッソからもらった資料やノートをセットしたかと思うと、何の説明もなしに機械のボタンを押した。

 何やるんだろうって、ぼけぇと見てたんだけど。


 もう次の瞬間。

 いや、本当に体験したことのない、すごい衝撃だった、あれは。

 初めましての情報やスキル、習ったばかりの知識が大量のメモリとなって、次々に私たちの脳内に埋め込まれていって。

 どんどん定着していくの。

 パパが隣で「またかよぅ」と頭を抱えていた。

 あれは便利な機械だよなぁ、毎度テストの前日に使いたいもん。

 でもおかげであの大量の資料を持たず、頭に全部入れた状態で明日から出発できるもんね。


「レオンは、カロッソからどんなアドバイスをもらったの?」

「俺は紙を出す手間がもどかしいから、自分の魔力で再生できるところから特訓しろって。それから、もっと形状を長く維持できるように、強い魔力を出せるようにって」

「そっか」と、私は椅子に腰を下ろす。

「テンは?」

「私はほぼ博士が言っていたことと同じ」


 多分、私の魔法は、ただの強力化の魔法ではない。

 私の想像力をもとに対象の可能性を増幅する魔法なんじゃないかって。

 例えば、目の前にある冊子がたとえ料理本でも、私が想像したものが数学の教科書なら、そうなる。


「だから、色んなもので試して、もっと想像力を鍛えたり、思い込みをなくす特訓をしなきゃいけないみたい」

「曖昧で難しいな」


 だよねぇ。

 思い込みをなくす、なんて難しいんだろ。

 ある意味危険な魔法だと思うんだよね、私がこうだって想像しちゃったらそうなっちゃうんだもん。

 それに、魔力としてはまだまだで、思い描いた通りに魔法をかけることができないこともあるから、私もレオンと同じく地道な特訓が必要みたい。


「お互い、頑張ろうぜ」

「うん」


 レオンの横顔を見上げる。

 ふと。

 胸の奥にしまい込んでいた、“レオンへの想い”が顔を出す


「……ねぇ、レオンってさ」

「うん?」


「……いや、なんでもないや」

 私はその横顔から目を離して。

 飲み込む。


「なんだよ、気味悪いな」

 レオンが特訓をやめて、私に向き直る。

「言いたいことは、はっきり言えよ」


 いいのかな。

 私は膝の上でギュッと拳を握る。

 ……ねぇ、レオンってさ。

 少し迷ってから、私は徐に口を開いた。


「……どうして、マジシャンになりたかったの?」


 ――伝説のマジシャン、クロウリー。

 あれからずっと、引っかかっていて。

 レオンはきっと、伝説のマジシャンのパパの背中を追いかけて、マジシャンになりたいんだよね。

 でも、レオンのことは、彼が五歳の時に博士が路地裏で拾ったって。


「明日から長い旅になる、仲間だから」

 本当のことなのに、言い訳みたいになって苦しい。

「レオンの過去を知りたい」


 あぁ、やってしまったかもしれない。

 しばらくの沈黙が答えだった。

 嫌な感じの雰囲気が部屋の中を覆う。


「……ごめん」

 レオンが私から顔を背ける。


 あぁ、

 やってしまった。

 踏み込みすぎてしまった。


「ごめん、まだ言えない」


 私を見てくれない。

 切ないほどに、少しだけ見えるレオンの瞳は他人物で。

 その声色も、知らない人のものみたいで。


 そりゃそう、そりゃそうなのよ。

 だって、出会ったのは昨日の夜だし。

 他人だよ。

 あんたのこと、私何も知らないもんね。

 たまたま、奇跡的にこの世界で出会っただけで。


 私は思わず腰を浮かせた。


「ごめん! 変なこと聞いて」

 特訓の邪魔しちゃった。

 ていうか、私だって他にも考えなきゃいけないこといっぱいあるはずなのに。

 何、余計なこと考えているんだろう。

 本当、自分勝手なんだよなぁ、私。

 あぁ、せっかく仲間ができたのに。

 自分で距離を作っちゃって。


「ごめんね、本当! 今のなし、なしで!」

 私は思わず再度謝る。

 顔の前で手を振り振り、レオンの顔なんて見れなくて、私は泣きそうになりながら、ずっと気味の悪いくらいピカピカな床をずっと見ていた。

 レオンは何も言わない。

 一ミリも動かない。

 ずっと、ずっと、睨むようにどこか私じゃない、別を見ている。


 たぶん、怒ってるわけじゃないけど。


 もう、ここにはいれないや。

 重い空気に耐え切れずに、私は逃げるようにレオンの部屋を飛び出した。


 バタン


 廊下を出て、勢いよく閉まったドアに背をつける。

 ふぅと、鼻の奥から息が抜けた。


 冷たいや。

 私の背中が冷たいのかな、扉が冷たいのかな。


 ……あーあ、やっちゃった。

 いっつもそう、無責任に、絶対に違うタイミングで、余計なことばっかり言っちゃって、逆鱗に触れちゃうの。

 それで失敗したらまた、言い訳でもフォローの一言でも、何か言わなきゃって思っちゃって。

 言えば言っちゃうほど。

 だめなんだよなぁ。

 今まで、それでどれだけ友達から避けられたか。

 意地悪な子だねって。


 でもそういう時って、家に帰ると。


「てんこ?」

 あーあ、いつもそう。

 なんで、いるのよ。

 会いたくなかった、のに。


 声の方を見ると、パパがドリンクサービスのテーブルの前に、一人立っていた。

「……何やってんの」

「何って。パパはてんこたちと違って魔法が封印されてて無力だからさ、寝る事しかできないの。でもなかなか寝れなくてねぇ」

 エスプレッソ、と、ちょうど淹れたてのマグカップを掲げる。

 なにそれ、カフェイン摂取したら余計寝れないじゃない。


「てんここそ、何してるんだよ」

 レオンの部屋じゃないか? と眉間にしわを寄せて、私の顔を覗き込む。

「うるさいな、どうでもいいでしょ。ていうか、やましいことは何もしてないから、キモい想像しないで」

 吐き気がする。

 そうだよな、とパパは胸の前で片手をそっと合わせた。


「なぁ、そういえば」

 パパが表情を変える。

「俺ちょっと引っかかってさ」

 パパがズズッとエスプレッソをそそり、天井を見上げて、

「なんか、この世界違和感があるんだ」

 違和感……?

「都合がいいというか」

「異世界転生なんてご都合主義でしょ」

 そうなんだけどぉ、とパパが口をすぼめる。

「知らない世界なんだけど、覚えがあるというか」

「……」


「なんかたまに、懐かしいなぁって思いが胸の奥底で湧き上がってくるんだ」


 ……


「おーい、どこに行くんだぁ、話は途中だぞ」

「特訓したいから」

 私はそう言ってパパを抜かし、自分の部屋のドアノブを握る。


「なんか、あったか?」


 いつもそうだ。

 パパは私が何かあった日、こういうことを聞いてくる。

 こっちは放っていてほしいのに。

 そういう日は、いつも以上にうっとうしく、構ってくる。

 やめてほしいのに。


「何もないよ」

「大丈夫だから。パパは何があっても、てんこの味方だからな」

「何もないって」


 私は勢いよくドアノブを引いて部屋の中に入る。

 加工された甘い香りが鼻の奥で絡む。

 博士、芳香剤まで生み出しちゃうんだ。

 もう、現実世界じゃん。


「てんこ、おやすみ」

 油断した。

 ドア一枚の向こうから聞こえてきたパパの声に、思わず背をつけていたドアに爪を立てる。

 ――何もないって。

 私はしゃがみ込んで、両膝を抱え込むように小さくなる。


 そうだ。

 パパが言うとおり、私もこの世界には違和感があった。

 懐かしい、そんな気もしてる。

 それに、レオン、カロッソ、博士……どこかで、聞いたこともあるような気がする。

 でも、何も思い出せない。

 何か懐かしいのか、違和感なのか。


「あぁ……帰りたいなぁ」

 知らず知らずのうちに私の声は、涙ぐんでいた。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しんでいただけましたでしょうかっ。


次回、ep.16は【家を出づ】です。

次のエピソードで、第三章が幕を開けます。

ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。


てんことパパの冒険は、まだまだ続きますので。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪

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