ep.14 博士の講義と私の魔法
♦基盤魔法:みんなが生まれてから8歳までに習う、ベースとなる魔法
◎これができないと、専門魔法もまともに使えない
ex) 放出したり、消したり、量を調節したり、魔力のコントロール魔法/
物体操作/気配を感知する力/イメージ魔法/属性の基礎 etc.
♦共通科目:8歳以降に学校で学ぶこと
◎専門魔法が異なっていても、社会で生きていくために必要!
ex) 歴史、体育、魔法法規、魔法学、応急手当、魔法管理、道徳
※演出学、錯覚学、遠隔操作など、自由に受講できる専門科目もある
↑人間でいう、大学の授業みたいな感じ?
♦専門魔法:8歳を迎える春に行われる、“夢の儀”にて授けられる唯一無二の魔法
※才能や家柄によって決まるのではなく、どんな人生を歩みたいと望んでいるか、その人の心に応じ、形作られる。
※原則一人、一つ。能力は成長するが、根本的な特徴は変わらない。
♦実習:学校+αで、誰かに弟子入りしなければならない制度
※弟子入り先は学校からの指定がないので、受け入れてくれるかはさておき、自由に弟子入りをお願いできる
。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆。・:*:・゜★,。・:*:・゜☆
ふぅ、ノートの空白に文字が埋まっていく。
みんなで机を並べて、博士が板書をするなんて、まるで学校で授業を受けているみたいで、なんだか楽しい。
唯一、汚点としては、パパと一緒に受けている状況くらいかな。
パパが同級生とか、なんたる恐ろしい世界っ。
私の集中力が切れかけているのを察したのか、博士がホワイトボードをコンコンとノックする。
「少し話を戻そうか」
博士がボードに書かれた“専門魔法”の文字を指差す。
「専門魔法というのは、――例えばレオンの場合で言うと」
博士はコツコツとヒール音を奏でながら、私の右隣の席へ歩み寄ると、スパァンッ!と勢いよく彼の頭を叩く。
いったぁぁぁっ、と瞬時に飛び起きたレオンはひんむいた目をしており、口元から机にかけて、びよーんと一本のよだれが繋いでいる。
「レオンは当時からマジションになりたかったので、手品をイメージとして、幻紙魔法、――紙を媒体として自由自在な演出を行うことで、驚きや感動を届ける魔法の使い手である」
博士は何事もなかったかのように授業を続ける。
そういやレオン、初めの頃イリュージョンだの何だの、言ってたな。
「なぁ、博士。俺、これ受ける意味ないでしょ」
「じゃあ、質問だ。二人が頑張っていて、レオンだけ怠ける意味はあるのか」
「……」
博士は優しくにっこりと(?)笑みを浮かべて机に手をつき、レオンの鼻先にまでズンッと顔を近づける。
……およよ、怖い。
観念したようにレオンはペンを手に取った。
「はいっ」と私は大きく挙手。
「どうぞ、てんこさん」
「カロッソの専門魔法について知りたいです」
博士は研究者になりたかったから、新しい発明品のアイデアや技術に関する魔法なんだよね。
説明があったように、レオンはマジシャンになりたかったから幻紙魔法。
カロッソは何でもこなしちゃうタイプだから、予想がつかないや。
「前提として、あいつは例外だから参考にならんのよ」
博士は即座にぶんぶんと手を顔の前で振って、
「人の何億倍も生きている関係で、カロッソは特別に二つ専門魔法を与えられているんだ」
……二つ⁉
慌てて、ノートを見返す。
え、私、専門魔法は原則一人一つってメモったよね⁉
「まず一つが分体魔法。自分の体を自在に分離、操作できる魔法」
ほら、あの子よく生首でいるだろ、と博士が愉快そうな表情を見せる。
「厄介なのは、分かれた部位は孤立して活動できるから、分離したすべての部位を同時に仕留めない限り、生きてるんだよなぁ」
……だから実質不死身って言われてるのか。
五億歳も生きているわけよ。
博士は「それから――」と指を二本立て、
「二つ目が呪約魔法。約束や契約を呪いとして刻み込む魔法だ」
「そういえば」パパが手を挙げて口を開く。
「はい、パパさん」
「昔、俺のというか、リュミナ姫の“夢の儀”をした時に招いた占い師とも、姫の魔法について誰かに語った瞬間に自爆するって約束していました」
そういうことだ、と博士はにっこり頷いた。
「なんなら、部下に魔法をかけることもあるらしいぞ」
ひゅん。
思い出したくない事実が脳裏をかすめ、レオンと目を合わせる。
エエ。
私たちも現在進行形でその魔法、使われていますよねぇ。
逆らえない、絶対にパパを無事に静寂の島まで連れて行かないと。
不死身に口封じの魔法。
敵にしたら面倒な人ってことがよくわかりました……。
「ところで、博士はカロッソとどういう関係なんですか?」
さっきから、あいつ、とか、あの子、とか。
仲いいのかなって。
博士は、あぁと苦く笑って。
「カロッソは、私が学校に通っていた時に使っていた寮のルームメイトなんだ。まぁ、あいつにとっては二つ目の呪約魔法が見つかってから通い出したから、実質大先輩なんだけどな」
あぁ、なるほど。
私は頷きかけて、少し固まる。
……ん? でも、カロッソって王家には昔から仕えていたんでしょ?
どういう時間系列なんだろ?
博士って三十歳くらいだよな。
……まさかっ。
「博士は三億歳だよ」
と、机に頬杖をついて、レオンが大きなあくびと共に口を開く。
やっぱり!
この国の人って、月日が流れても見た目変わらない設定なのかな……。
――スパァンッ!
「レディの年齢を軽々しく教えるんでないっ」
可哀そうに、隣でレオンが再び強烈な犠牲を受けていた。
「まぁ、私の場合は不死身の薬の研究もしているから、それもあって長生きなだけだよ。体も老いぼれているし、いつ死ぬかわかんないの」
博士がやれやれと首を振って答えた。
ちなみに博士の補足によると、当時のカロッソは既に王宮勤めだったらしく、仕事と学業を両立していたみたい。
流石、スパルタ。
しかし、それから何やらフラッシュバックしたのか、博士は壁にへばりついてぶつぶつ呟き始めた。
なんか、触れちゃいけない過去だったのかな。
やってしまった……?
レオンが頭部を押さえながら博士を親指で示し、
「寮に帰るたび、部屋の灯りをつけたら生首が天井からぶら下がっていたり、身体の部位がばらばらで転がっていて、ケチャップの落書きで殺人現場が再現されていたり、色々被害を被ったんだってさ」
おっふ、それはトラウマだ。
呼び起こしてしまって、大変申し訳ないっ。
「さてさてさて」
気を取り戻して、博士が手を叩いて戻ってくる。
「最後に、てんこの専門魔法についてなんだが」
その瞬間、全員の視線が私に集まった。
私もゴクリと生唾を飲み込み、背筋を伸ばす。
「なんだっけ、現状、一番有力なのは強力化魔法だったんだよな」
「と、俺が報告しました」
レオンが軽く手を挙げる。
そういう話はカロッソとしたけど。
一回しか試したこともないわけで。
言い切れはしないっていうか。
歯切れの悪い私に、博士は掌を私に向けて、
「じゃ、魔法出してみな」
「……ヒェッ⁉」
博士はどこからか鉢植えを取り出してくる。
机しかないこの部屋で、どこからそんな大きいもの持ち出してきたのよっ。
「い、今ですか⁉」
「逆にいつやるって言うんだよ。明日の朝には出発しなくてはいけないのに」
えぇ、まぁそうなんですけど。
急に言われると自信がないというか。
ていうか、魔法の文化がない世界で生きてきた身としては、恥ずかしいと言いますか。
え、えぇぇぇ、魔法使えるかなぁ。
「うだうだ言ってないで」
博士が鉢植えを私の足元に置く。
「えぇぇぇぇ」
やるしかないかぁ?
えっと、確かあの時……。
私は掌を鉢植えの前に差し出し、
「えいっ」と手に力を込める。
すると。
い、今っ
「土が動いた……?」
パパが鉢の中を覗く。
全員の視線が鉢植えへ集まる。
もぞもぞ、もぞもぞ……
なぁんと、土を押し上げるように芽が顔を出した。
うぇぇっ、生えた⁉
しかし驚くべきはそれだけじゃなくて、
芽は見る間に伸び、茎が伸び、葉が開く。
そして。
ぽんっと。
紫色の花が咲きましたとさ。
「……うっそぉ」
私、魔法使えたんですか、やはり……!
「おぉぉぉぉ」
真っ先に反応して雄たけびを上げたのは、パパだった。
勢いよく立ち上がって私にキラキラした瞳を向ける。
「すごいじゃないか、てんこ! 何もない所から花を咲かせるなんて。さすが俺の娘だ」
満面の笑みで右手を掲げる。
「……てんこ、ハイタッチだ」
……
「博士、私の魔法、どうですか?」
もちろん、ハイタッチなんぞしませんよ。
パパの手が宙に浮いたまま固まる。
「てんこ?」
……
「うぅむ、すごいっちゃすごいが」
「てんこさーん?」
……もうっ
「パパうるさいな。今ね、博士が私の魔法について分析してくれてんの」
黙って聞いてなさいよ。
レオンが吹き出し、「おつかれ」とパパの肩をたたいた。
「で、問題は」
博士が再度口を開く。
「私はね、この鉢に青い花の種をまいたんだよ」
……へ?
私は瞬きを繰り返す。
でも、どう見ても目の前の花は、紫色だよね。
博士の勘違いでは?
実際は紫色の花を植えたとか……そんなことはないっぽい。
そんなぁ。
じゃあ、失敗ってことぉ?
「どういう魔法なんだろうか」
博士は低く唸り、しばらく花を触ったり、匂いを嗅いでみたり、葉をめくってみたり、もう一度目をつむって深く考えてみたり……それからしばらくして、博士は白衣のポケットから卵を取り出す。
「もう一度、試してみなさい」
私は言われるがままに、もう一度同じポーズで力を込める。
今度こそ、今度こそ!
すると、
卵が小さく震える。
来た⁉
いい兆しが見えたかも、そう思った私は「えいっ」とさらに力を入れる。
ピシッ
なぁんと!
殻にひびが入った。
「おぉ」とパパが身を乗り出す。
今いいところなんだから、黙ってなさいよぅ。
もう少し、あとすk……。
パカッ
「う、生まれたぁぁぁっ」
うぅ、まだまだ十五歳だけど、お母ちゃんの気分だよ。
私は思わず涙ぐみながら、卵に近づく。
ぴよ♪
中から飛び出してきたのは、小さなモフモフのひよこ。
かっわぃぃぃぃ。
「やったぁぁぁぁ!」
パパが再び立ち上がる。
「てんこぉ! よくやった」と、もちろん、右手を掲げて。
んで、さらにもちろん、私は無言で水を飲んだ。
「てんこ!」
無視です。
「てんこぉぉ!」
無視ですぅ。
「てんこぉぉぉぉぉぉっ!」
「やるわけないでしょうがっ、除菌アルコールがいくらあっても足りんわっ」
ほんっとうにっ。
全くっ。
こんなにかわいいひよこが生まれてきたっていうのに。
生まれてばかりでこんな気持ち悪いおっさんとご対面じゃ、未来に絶望して、明日から生きていく気もなくなっちゃうよねぇ。
「おかしいな――」
ひよこに駆け寄っていた私は、博士の一言でぴしりと固まる。
「水を差すようで悪いが、その卵は亀の卵でね。なぜ、ひよこが生まれるのか」
……うっそぉぉぉ。
また失敗ってコト?
まだこっちの世界に来て間もないからかな。
何の勉強もしてないし。
知識に乏しいから。
魔法だって、見慣れてないし。
ちゃんとイメージできてないから、とか。
それとも、やっぱり強力化とは違う魔法なのかなぁ。
私は深く息をついて、腕を組む。
一体全体、私は何の魔法の持ち主だっていうのよ。
「強力化じゃなさそうだからなぁ」
博士がホワイトボードに考えられる魔法の候補を書いていく。
・変化魔法
・進化促進魔法
・可能性増幅魔法
・創造魔法
・奇跡魔法
・ご都合主義魔法
・巨大化魔法
「わからんねぇ」
博士はペンを置いた。
そんなぁ。
「わからないんですか」
「うん、わからん!」
ボードに視線を向けたまま、堂々と言い切ったよ、この人。
なんなんだ。
何が博士よっ。
あ~、
これからどういう場面で使って行ったらいいのよぅ。
「ただ一つ言えるのはぁ」
博士は顎に手を添える。
「単純に物を大きくするだけではなく、おそらく何らかの可能性に干渉していること、だな」
「可能性?」
「紫の花が咲く可能性とか、ヒヨコが生まれる可能性とか、現実を君の想像力で、別の方向へ押し広げているように見えるんだよなぁ」
私は首を傾げた。
だって難しいんだもん。
今日はもう疲れてるし、さっきまで勉強に必死だったし。
体も脳みそも使い物にならないみたい。
全然わかんないよ。
博士はため息を吐いて、立ち上がる。
「今日は一旦解散にしようか」
明日の朝も早いし、それもそうだ。
何より、考えたって答えが見つかるわけでもないし。
私たちはそれぞれ椅子から腰を上げ、思いっきりに伸びをしたりする。
「今日は休め」
博士がボードの文字を消しながら言う。
「旅は長くなるぞ」
――旅は長くなる。
分からないことだらけだ。
リュミナ姫のことも、ノクタル教団のことも、私の専門魔法のことも。
本ッ当に不安と絶望しかない。
旅ならではのワクワクがほぼゼロだよ。
こんなんで旅を始めてもいいのだろうか。
長い長い旅なのに。
無事にパパを送り届けられるかなぁ。
そんでもって、私たちも元の世界へ帰れるかしら。
そんなことを考えながら、私はノートを閉じた。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうかっ。
次回、ep.15は【眠れぬ夜】です。
次で、第二章がラストを迎えます。
ぜひ、お手すきの際に、よろしくお願いいたします。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします♪




