選ばれる不安
放課後の教室。
つかさは一人、机の上に広げた教科書とノートに向かっていた。
明日の宿題を仕上げるつもりだったが、どうしても集中できず、ペンを持った手が止まる。
「……れん、まだかな」
小さくつぶやき、窓の外を見やる。
図書室で一緒に宿題をやる約束をしていたのだ。
すると、背後から声がした。
「桐谷、何やってるんだ?」
振り返ると、木嶋が立っていた。
「ちょっと宿題」
「そうか……俺も一緒にやる?」
木嶋はにやりと笑う。
「いや、今日はれんとやるの」
つかさは少し顔を赤くして答えた。
⸻
その時、教室の扉が開き、れんが入ってきた。
「遅くなった」
「ううん、大丈夫。さあ、始めよう」
二人は机を並べて座り、宿題を進める。
最初は静かに進めていたが、数学の問題でつかさがつまずく。
「……あれ、ここどう解くんだっけ?」
「それならこうやるんだ」
れんは説明しながら手元のノートを差し出す。
つかさは頷き、問題を解こうとするが、手元が少しもたつく。
その瞬間、つかさのペンが転がり、れんのノートの上に落ちてしまう。
「あっ、ごめん!」
「……ん?」
れんは一瞬びっくりして目を見開いたが、すぐに笑い出す。
「桐谷、慌てすぎだろ」
「だって……!」
つかさもつられて笑ってしまった。
⸻
笑いながら宿題を進めていると、廊下から声が聞こえた。
「おい、まだ教室にいるのか?」
振り返ると、まこが立っていた。
「今日も一緒にやってるの?」
つかさは少し照れながら頷く。
「うん、れんと一緒に」
まこは満足げに笑い、教室を出ていく。
二人きりになった瞬間、つかさの胸が少し高鳴る。
「……れん、ありがとう」
「何が?」
「一緒にいてくれること」
れんは少し照れた表情で、でも真剣に答える。
「俺もだよ。桐谷といると、落ち着く」
手は触れていない。肩も寄せていない。
でも、その言葉だけで、互いの存在が確かに心に届く。
⸻
宿題を終え、二人は教室を出る。
夕方の光が長く影を伸ばし、校舎の廊下を優しく照らしていた。
「明日も、頑張ろうね」
つかさが小さくつぶやくと、れんが微笑みながら頷く。
「ああ、頑張ろう」
帰り道、二人の間に軽い沈黙が流れる。
けれど、それは気まずさではなく、互いの存在を楽しむ時間だった。
小さなハプニングや誤解も、今は笑い話に変わる。
二人の距離は、少しずつ確かなものになっていた。




