沈黙が壊れる前に
文化祭が終わって数日が経った放課後、教室には静かな空気が流れていた。
つかさは机の上に教科書を広げながら、ノートに今日の授業内容をまとめていた。
それでも、どうしても頭の片隅には、文化祭での出来事やれんの顔が浮かぶ。
「つかさ、これ見て」
隣から声がして振り返ると、れんがノートを差し出していた。
「昨日の授業のまとめ……書き漏らしてたところ」
「ありがとう、助かる」
つかさは小さく笑いながら受け取る。
日常の中の小さなやり取りだけど、自然に心が温かくなる。
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その後、掃除の時間になり、教室の床を雑巾で拭きながら二人は話をする。
「れん、昨日の帰り道、雨に降られそうにならなかった?」
「うん、大丈夫だった。桐谷は?」
「私も。傘、忘れなかったし」
なんでもない会話のはずなのに、互いの存在を意識してしまう。
手が偶然触れることもなく、でも目線が合うだけで心臓が少し跳ねる。
「……やっぱり、一緒にいると落ち着くな」
つかさが小声で言うと、れんも微笑んで頷く。
「俺もだ」
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クラスメイトたちが次々と帰っていき、教室には二人だけが残る。
「ねえ、れん」
つかさは少し照れながら話しかける。
「ん?」
「明日、放課後、一緒に図書室行かない?」
「図書室?」
「うん、宿題を一緒にやろうかなって」
れんは少し考え、笑顔で答える。
「いいよ、俺もやりたいと思ってた」
その返事に、つかさはほっと笑みを漏らす。
「じゃあ、明日ね」
「ああ」
互いに特別なことを言わなくても、自然に予定を共有できる関係。
文化祭の出来事があったからこそ、こうして距離を縮められたのだと実感する。
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夕方の教室は、オレンジ色の光に包まれていた。
机の上には二人のノートだけが並び、静かに風がカーテンを揺らす。
「明日も、頑張ろうね」
つかさが小さくつぶやくと、れんが同じように笑った。
「ああ、頑張ろう」
文化祭の熱気はすでに過去のものとなったけれど、二人の間には確かな絆が残っていた。
日常の中で自然に意識し合い、支え合える関係。
これからも、少しずつ、互いの距離を確かめながら歩んでいくのだろう。




