第113話 悪魔は滅します
プラムはアルからの断罪を受けて顔が土気色になっていたが、俯いて肩を震わせていた。泣いているのかと思ったら声も立てずに笑っていた。あっ、そうか。聞かれてないことは話せないようにされているんだった。
そっとアルの方を見てみると特に表情を変えていなかった。ただ笑うプラムを見ているだけだ。
ここからまだ何かできると言うのか?
「リアン、もう彼に質問はないかな?」
「うん、何もないよ。ただ秋月博人よりゲームが上手くてもプロゲーマーになれなかった理由はわかった。企業コンプライアンス違反してたからなんだな」
「そうだ。彼は秋月氏よりゲームが上手かったわけではない。課金アイテムで底上げしていただけだ。
プロゲーマーとは、アスリートと芸能人を兼ね備えている職業だからね。スター性は必要だけど、容姿はよほどの美貌でもなければあまり関係ないね。もちろん強くなければ意味がないし。むしろ平凡な容姿の方がファンは身近に感じ応援してもらえる。
それよりも個性や素行の方が重要だね。彼の場合。詐欺まがいの姫プレイまでは掴んでいなくても、異常に金遣いが荒いプレイは問題視されたみたいだ」
するとプラムはそんな理由でプロゲーマーを落ちたとは思っていなかったらしく、笑うのをやめてアルを睨みつけた。
「トップゲーマーともなれば、育成や活動にも億単位の金がかかるんだ。当然それを回収できる人材でなくてはならない。だから収入に見合わないプレイスタイルは疑問視された。どこかで隠れて借金をしている、または誰かに貢がせている、犯罪に手を貸している可能性が高いと見なされたのだ」
「匿名のパトロンならありじゃねーの?」
「その匿名のパトロンが反社会的勢力の人間だったら? だいたい匿名と言っても世間に大きく知らせないだけで、業界ではだいたい把握しているんだ。つまり全くわからない時点で怪しいってことになる。そんな人物、危なくて使えない」
「じゃあ村瀬さんがプロゲーマーになれなかったのは?」
「身の丈に合わない課金アイテムでプレイしていたことだ。犯罪まではわからなくても、身元がはっきりしている相手の身上調査はさほど難しいことではない。最終的にはせしめた金やゲームアイテムを自分の手元に置いているんだから。彼の犯罪が見つからなかったのは日本の生体コンピュータ導入の黎明期だったこともあるだろうね」
「なんだ、自業自得じゃん」
「そういうことだ。彼は何一つ秋月氏に勝ってなかったのさ」
プラムは拘束されたまま、アルに飛び掛かろうとしたがただ床を這いくつばるだけだった。
「おやおや、元気がいいことだ。そろそろ君の処罰を決めないといけないね。君は今回のカイルと違って、完全なる加害者なのだから簡単に死ねると思わないことだね」
「それじゃあ死刑にするの?」
「いいや。彼には寿命通り生きてもらって、生き恥を晒してもらうつもりだよ。
カーライル社との代理店契約も、生体コンピュータの使用も停止もなるね。妹や姪の姿で荒稼ぎしていたことがわかれば、家族ともギクシャクするかもしれない。ネット犯罪者なのだから、外部とのウェブ上での接触も制限される。一般企業の仕事に就くことも難しいだろう。
でも案外何とかなるものさ。反省して生きてくれたまえ。今回はこのゲーム絡みの事しか精神を読まなかったけど、絶対に余罪があるだろうしね」
家族も仕事も失った状態で生きていくのはすごく辛そうだ。お世話になった人だけど、俺の人生をめちゃくちゃにするところだったんだから同情はしない。
「元の世界に戻すのだ。拘束を解かないといけないな」
アルはそう言って魔法を解くため、手を差し出した。するとプラムの拘束衣がみるみる剥がれて全裸になった。
一応見た目はアイドルのすもも様と一緒なのだ! 俺は慌てて手で目を塞いだ。
「アル! なんで裸なんだよ!」
「危険物を隠し持ってないか調べるために全裸にするのは当たり前だろ。脱がせたのはリカで、着せなかったのも彼女だ。拘束衣を着せてから服を着せるのは無駄な作業だしね。裸なんてどうでもいい。君をこんな目に遭わせた張本人だ。ちゃんと見届けなよ」
ああ、アルはファンじゃないから~でもすもも様のおっぱ……ダメだダメだ。中身は村瀬さんなんだから。
プラムはクルクルと回転しながら苦しんでいた。
「ああ、しつこいヤツだな。この体に執着している。よほど理想に近かったのだろう」
それは今もっとも旬なアイドルですから。秋月さんはともかく他のプレイヤーはちやほやしただろうし。
あれっ? でも最後のカイルは違ったな。なんで?
「そういえばどうしてカイルはプラムに優しくなかったんだ?」
「中身が男だと知っていたからだ。正しくは中身が村瀬だとわかっていたのだ」
「一体どうやって?」
「村瀬に叔父を紹介したのがカイルの中身、坂本佑だったからだ。ソフト値を釣り上げ過ぎて買い手が見つかりにくくなったのと、買ったの者が死んだり行方不明になったりしていると噂になったのも一因だな。叔父に1千万使い込まれても、村瀬の紹介ならと安心させたんだろう」
あれ坂本だったの? あのおとなしい?
でも好きなキャラについては熱弁をふるってたっけ。そう言えばあのユリもののキャラ、クール黒髪ボブで巨乳の先輩だった。
なんかイメージが違い過ぎて全然わからなかったよ。
でもリアルはいつも弱そうな感じだったから、頑張って強そうに見せてたんだな。そう考えると意地悪して悪かったかも。
「そりゃあ、間違いなく好きにならないな。男の娘でもダメなのに、ネカマなんてさ」
「そういうことだ。そろそろ肉体と魂が分離するぞ」
「カイルの時は分離させなかったな」
「彼はログアウトさせるだけでよかったからな」
「えっ?」
「プラムが居なくなったからログアウトできなかったんじゃなくて、こっちで制限かけていたんだよ。勝手に逃げられたら困るからね」
そういうことも出来るのね。さすがカーライル社。
見ればプラムの体からグレーのモヤモヤしたものが引きずり出されていた。魂ってグレーなんだと思ったら、違うそうだ。見落とさないようにするため色付けしてあるそうだ。
「なかなか離れないな。少し寿命が縮むが……悪い、リアン斬ってくれ」
そう言ってアルは一振りの剣をストレージから俺の方に放り投げた。カイルがこの間まで使っていたこの世界の聖剣だ。名前は……そうそうエメラルディアだ。
名づけはしたものの、元の世界にカイルが戻ってしまったから、普通の剣としてならだれでも使えるそうだ。この件が終わったら魔素化してこの世界に返還するから名前も失われる。
体と魂を分離させるなんてあんまり気持ちのいいことじゃないけど、アイダさんを弔ってあげたいし、村瀬さんも罪を償ってほしい。やるしかない。
俺は剣を握って、体に最後までくっついている足元(だからお化けは足がないのかな?)に剣を揮った。
魂は簡単にブチ切れた。
すると村瀬さんの魂は俺の方に向かってきた。笑っていたのはこれか!
「川原亮平! 俺に体を寄こせ!」
グレーのモヤモヤが俺を襲う。いやモヤモヤだけでない。何か別の黒いものもついている。
それが俺の体全体を包み込むように広がった瞬間、それは起こった。
「悪魔は滅します」
俺と村瀬さんの魂の向こう側が急に開いて神々しい光を放っていた。そこには犬耳メイドだが15歳ぐらいの、薄茶色の髪に青緑の瞳の美少女が白い矢を持っていた。弓もあったけど、かなりの至近距離だったので、彼女は手ずから矢をもやもや全体にへばりついていた黒いタールのようなものを突き刺した。
矢は目を開けてられないほどの光を放ち、黒いものはものすごい断末魔を上げ、もやもやと同時に消え去った。
しばらくして光が収まると、小さな白い石が落ちていた。
「リアン、大丈夫だった?」
「エリーちゃん……なのか?」
「ええ、正真正銘のエリーです。女神として悪魔討伐に来ました」
「こっちの世界に来たら影響が大きいからって……」
「そうだけど、ここはお兄様の作った空間魔法で出来た法廷だから。ギリギリ許されるの。
さぁリアン。あなたも帰るのよ」
「えっ? もう? でもみんなに挨拶もしてない」
「ごめんね、時間的なリミットが近づいているの。挨拶はリアン君がしてくれるわ。ねっ?」
向こうの俺の体がヤバいのか?
それで俺はちょっぴり大人なエリーちゃんが差し出した手をつなぐとふわっとした浮遊感にくるまれて、そして意識を失った。
お読みいただきありがとうございます。
ちょっと遅れてしまいました。お許しを。




