第112話 プラムの罪2
プラムは元の世界の人間を15人も殺し、こちらではカイルくんとアイダさん、そして3つの村の人たちを殺している。リアン君を襲撃して殺しかけていたし、目的のためには本当に手段を選ばないんだな。
「なぁ、プラムの目的っていったん何なんだ?
こんなに人を殺して一体何がしたかったんだよ!」
「そうだな。裁判では被告人にも証言させるんだった。だが精霊女王たちを危険にさらすわけに行かないからね。彼女たちには外でこちらの様子を見ていてもらおう。
よろしいですか? 皆様」
そうにこやかにアルが言うと、彼女たちとエリーちゃんが静々と出て行った。エリーちゃんも行くんだね。皆が出ると同時に扉が自動的に締まった。
そうして法廷の中には俺、太った状態のアル、プラムだけになった。
「さてプラム、口を自由にしてあげよう。ただし僕とリアンの質問に答えるだけで、他のことは話せない」
そう言い終わると同時に彼女の猿ぐつわが外れた。
「リアン、質問していいよ」
「一体何のためにこんなことをしたんだ?」
「馬鹿な男どもに目に物を見せるためだ」
「リアン、余計なことを言わないようにしたから、具体的に聞いてあげるといいよ」
「わかった。それじゃあ馬鹿な男って一体どんな奴だ?」
「若くてちょっときれいな女だったら、すぐに尻尾を振って優遇するスケベ野郎のことだよ」
「そういう人がお前に何をしたんだよ」
「何も。ただ無視された。私の成功を邪魔されたんだ」
えっ? だって速水さん、地味にしてても美人だったじゃん。それに大学生ったってまだ若いだろ? 19か20ぐらいのはず。
「無視されたのが悔しかったのか?」
「見かけや年齢ではなく、能力を認めてほしかった。そんな偏ったヤツに限って成功していることが許せなかった」
俺のイメージ的にはむしろ成功者は見かけや年齢でなく能力主義な気がするけど。ああでも自分の欲望に忠実な人が多いってのもあるのかなぁ。
「それで何人もの人を陥れたのか? それとも金が目当てか? 具体的な理由を上げろ」
「私には能力があった。見かけや年齢さえ関係がなければ、いくらでも稼げたんだ。でも世間は冷たく、ちょっとイケメンなだけの博人を選んだ。アイツより私の方が、ずっとゲームが上手かったのにだ!
アイツが年齢を理由にゲーム大会から退いたとき、やっと私と同じところに落ちてくると思った。でも違った。それまでのネームバリューを生かして、ゲーム配信者としてまた人気者になった。侍役で映画にゲスト出演することも決まっていた。私がいるべきところにアイツがいることが許せなかった」
どういうことだ? 速水さんと秋月博人って親子ぐらい年が離れているぞ。なんで秋月さんのポジションが自分のいるべきところになるんだよ?
「それで悪魔に魂を売ったのか? 秋月さんはどう関係する? いつ悪魔のことを知ったんだ?」
「私は魂など売っていない。ただ代理人としてゲームソフトを客に売っただけだ。異世界に行ってリアルな体験ができる、こんな貴重なゲームなんだ。全財産貰って当然だろ。
博人はテストプレイとカイルの育成をしてもらうために雇っただけだ。いい仕事してくれたよ。アイツは真面目だけが取り柄だからな。それにアイツの持っているものは俺のものになるはずだったんだ。
憑依した人物の能力を得られるのは思わぬ恩恵だった。だから私が博人を欲しいと願ったのに、アレはそれを許さなかった。私の目の前で博人を喰らって、初めてアレが悪魔だと知ったんだ」
それを聞いて初めて魔王城を攻略に行った時のスキュラのことを思い出した。美しい女の顔が崩れて、口だけの存在になった時のおぞましさ。それに近いものを目の前で、しかもリア友を食べるところを見たのだと思うと悪寒が止まらなかった。
俺が黙ってしまったからか、アルが代わりに説明してくれた。
「今回の主犯特定にはリアンのくれた情報が一番役に立ったんだよ。君が自分のVR機器はメンテナンスを兼ねた長期保管をするようカーライル社に頼んでいたと言ったことだ。
僕はその情報を得てさっそく向こうに問い合わせた。すぐに返事が返ってこなかったが、わかったのがそのメンテナンスをカーライル社が請け負っていなかったことだ。もちろん社内調査もしっかりしたけど、依頼そのものが全くの形跡がなかった。請け負った代理店から社に送られていたのならその形跡は必ず残る。他の企業の情報を完全に消すことは……出来なくもないが相当な労力だ。
なりよりカーライル社のホストコンピュータのデータ改ざんをする、そんな技術があるならわざわざ君のアカウントを盗む必要がない」
確かにそれだけの技術があるなら、誰とも被っていないアカウントを偽造ぐらいできそうだもんな。
「リアン、もうわかっていると思うけれど、犯人は君がメンテナンスを依頼した代理店のスタッフということだ。そこでその店のスタッフ全員の資産状況や交友関係などの身上調査をした。すると一人の人物が浮かび上がってきた」
俺の予想通りだ。間違いなく犯人は彼女だ。速水さんだろ。
「その人物は子どもの頃からゲームが好きで、どうしてもそれを仕事にしようと切磋琢磨したそうだ。だけどプロゲーマーになることは出来ず、代わりになったのが同期の秋月博人だ。本人はバグを見つけるテストプレイヤーをアルバイトでしか受かることはなかった。次にゲームクリエイターを目指した。だが結局なることは出来ず、くすぶり続けていたのだ」
あれっ? 速水さんはプロゲーマーも一目置くようなすごいプレイヤーって聞いてるけど……。いやだいたい彼女が秋月さんと同期な訳ない。
「それと同時に非常に容姿にコンプレックスを抱いていた。特に1つ下の妹は美人で有名で、幼いころから比較されていたそうだ。彼の方がずっと頭がよくいい大学に入ったのに、ちやほやされるのは妹だけ。彼女の方がずっと社交的で立ち回りが上手かったのだよ」
えっ? 彼?
「彼はその鬱屈した気持ちをゲームにぶつけた。最初は妹の姿に似せたアバターでプレイし、ゲーム内で知り合った男性からアイテムを貢がせていたのだ」
それってネカマで姫プレイしてたってこと? 昔のゲームあるあるでそういうの、聞いたことある。
「彼は男たちにちやほやされ貢がれることで承認欲求を満たしていたが、日本でも生体コンピュータが導入された。性別を偽ったプレイやMMOのように不特定多数のプレイヤーが同じゲームをするシステムが禁止され、そのようなプレイが出来なくなった。しかも彼はゲームを生業にしていて、生体コンピュータを導入しない訳にいかなかったのだ。
それで一時は離れていたが、妹に美しい娘が生まれたことでその熱が再燃してしまった。
次に彼がやったことは、その姪のアカウントを盗むことだった。彼女が15歳になり生体コンピュータを導入した時にデータが破損したとウソをついて新規アカウントを取らせたのだ」
「そんな! これまでの蓄積データが引き継げなかったら大変じゃないか⁈」
「バックアップが残っていたからデータは無事だと言えば、新規アカウントに移すだけでいい。彼にはその程度のことは十分できる力があった。そして彼は姪のアカウントでまた性別を偽った詐欺を行い始めた。ゲーム愛好家のコミュニティに所属してSNSのやり取りだけで付き合っているように思いこませて金をせしめていたのだ」
えーっとそれって、なんて言ったっけ? そうだ! ロマンス詐欺ってヤツだ!
「だがその姪が自分の影響を受けて、かなりのゲーマーになってしまった。彼女を知る人物が彼の狩場に所属していた。それで撤退を余儀なくされてしまった。美しい若い女性の振りをすれば、愚かな男どもから簡単に金をせしめられる。そんな甘い汁が吸えなくなってしまったのだ。そうして1年ほど我慢していたときに、悪魔と取引してこのゲームソフトを手に入れることになった。だが自分のアカウントを使えば、客とやり取りした形跡が残ってしまう。
そんな時に1年間は絶対に安全に使えるアカウントが手に入ってしまったんだ。
それが誰のだかは言わなくてもわかるよね?」
「そんなまさか……速水さんじゃなくて、店長の村瀬さんだっていうのか? あの人はすごく親切でいろんなゲームのことを知ってる話しやすいおじさんで……」
「でも美形で、世間にもてはやされるほど華やかな仕事はしていなかった。そうだろう?」
確かにそうだ。でもカーライル社の代理店が出来るのはかなりの能力者と認められたはずだ。十分尊敬されるエリートだぞ。それでもみんなのために面白いゲームを紹介してくれる気のいい優しい人だと思っていたのに……。
「それに子どもたちの相手をしていたのは世代間ギャップを埋めるためだそうだよ。よく話をしていれば若い世代の生きた情報をアップデートできるからね」
あの親切な態度がそんな薄汚いことに使うためだったなんて、俺がショックを受けて言葉が出ない中、アルはとうとう断罪の言葉を口にした。
「さてプラムこと村瀬雄二くん。
君が不正に犠牲者たちから金をせしめたルートも突き止めてあるから、財産の不正取得の罪は免れない。それにリアンいや川原亮平くんのアカウントをコピーしたVRカプセル内で眠っている君の肉体もすでに入院という形で捕獲してある。もう言い逃れは出来ないし、ログアウトしても君に待っているのは刑務所の中だ。15人もの行方不明に関わっている点を考えても、遺体がないから死刑にはならなくても、社会的には抹殺されるだろうね」
お読みいただきありがとうございます。
4/25 誤字修正 内容に変更はございません。




