第104話 デュラハン
俺の号令と共に、みんな振り分け通りに持ち場に着いた。カイルの聖剣はやはり優秀で、スケルトンナイトに触れるだけで消滅していった。むしろ剣を交わす方が相手が消えない。技量の差で不利な立場になっているのだ。
「カイル! 剣じゃない、どこでもいいからスケルトン本体に当てろ!」
「うるせー! やれるだけやってる!」
それでも無気力状態と違って、必死で剣を揮っていた。やはりチェリーの脅しはしっかり効いているようだ。
そのチェリーの方はというと、デュラハンに近づくために俺が斬ったスケルトンを浄化魔法で止めを刺してくれている。とはいえ彼女は慌てるとノーコンなので、ステルス状態のミランダがそっと修正しているのもお約束だ。
やっとデュラハンの元にたどり着き斬りかかったが、その前に騎槍を振り回され弾き飛ばされてしまった。チュニックの上にダンジョンドロップの皮鎧を着てはいるものの脇に入ってすごく痛い。当たったところに刃がなくてよかったよ。なんとか壁にぶつかる前にエアバッグを意識した風魔法で衝撃を散らす。それでも痛みで息が苦しい。考えもまとまらない。そんな俺の様子に気が付いて、ステルス状態のモリーが治癒魔法をかけてくれた。
痛みが消えたおかげで意識を集中させる。今度は火魔法を放ってみた。様子見のファイアーボールだ。だがダメージどころかその力を吸収し、強化されてしまった。
よかったぁ、渾身の火魔法を放たなくて。墓穴を掘るところだったよ。
「みんな! デュラハンは魔力吸収型だ。魔法攻撃は……聖属性以外するな!」
魔法攻撃はするなと言おうとしたときに、チェリーのノーコン浄化魔法がヤツのマントに当たり、その部分が破れていた。つまり聖属性魔法なら効果があるんだ。
それで俺の魔力は全て身体強化とスピードアップに乗せることにしたんだけど、俺の体が軽すぎるのか簡単にいなされてしまう。
「クソっ! 全然入らねぇ」
アイリスも俺と似たようなものだが彼女の剣は聖剣のため、まだダメージが入っていた。でも本体に当てることは出来ず、致命傷にはつながらない。
守りが固い、固すぎる。前の時、アルは一体どうしてた?
確か相棒のヴァイオリンを剣に変えて、サクッと斬り倒してたっけ。乙女ゲームの攻略対象みたいな顔してても勇者だもんな。全然参考にならない。
なんでこんなに強いんだと悩んでいたら、モカが心話で教えてくれた。
(あのね、デュラハンはアンデッドというより悪しき精霊なの。この世界は精霊の力が強いから普通の人間の力では倒せない)
そっか、だからエリーちゃんの神威で消えなかったのか。
確かにこの世界の魔法は全て精霊によってもたらされる。だから悪に対応する聖属性以外は自分の力として取り込めるのだという。それじゃあ俺に出来るのは俺の方に気を逸らすようにして、アイリスの攻撃から目をそらさせるようにするしかない。
それでも何回かやっているうちにデュラハンは俺の方を無視して、アイリスとだけ戦うようになった。俺の攻撃が全く通らないからだ。だがこれは考え方を変えればチャンスとも言える。ヤツの油断のおかげで俺側の攻撃を通らせることが出来るからだ。
俺はモリーに心話で来てくれと呼びかけた。彼女のプミッとした感触が首筋に当たる。
(モリー、俺が剣を揮ったら、同時に浄化魔法を放ってくれ)
了解しましたと返事が来て、俺はデュラハンの上に跳びあがり、渾身の力で剣を振り下ろした。それと同時にモリーが放ったのがホーリーカッターである。
モリーの魔法はヤツの右肩を切り落とし、デュラハンは騎槍を腕ごと落とした。
予想外の攻撃だったのか、ヤツは動きを止め、首がギギギとこちらに向いた。鉢型兜の目元から何やら魂のないものの禍々しい視線を感じる。そしてヤツは左手で左腰に携えていた剣を抜き、俺の方へ馬を向けて駆け寄ろうとした。
だがその間にアイリスが入って来た。彼女は剣聖で剣同士の打ち合いに負けることはない。
「来い! デュラハン。わたくし以外によそ見をしている暇はないぞ!」
アイリスの猛攻が始まった。激しく打ち合う剣の火花が散る。彼女が討ち負けることはないが体は人間だ。永遠に打ち合い続けることは出来ない。それに騎乗の戦士と打ち合うのは位置的に不利だ。それで今度は馬を狙うことにした。
縄に聖水のかわりにエリーちゃんお手製のポーションを掛ける。彼女は作成に神の力を使っていないが他とは違って香しく、清々しいポーションなのだ。
投げ縄の要領で後ろ足が上がった時にすかさず縄をかける。俺の力だけではただ引っ張られるだけだが、そこにモリーがホーリータイアップを掛けた。タイアップって協力って意味だけでなく、拘束するって意味もあるのだ。聖なるポーション縄とモリーの縄が合わさって、馬の後ろ脚は俺たちに引っ掛けられて、デュラハンは体勢を崩し落馬した。すぐに立ち上がったが首がコロコロと転がる。受けるべき右腕がないからだ。
「カイル! デュラハンの頭に止めを刺せ! 聖剣でないと倒せない‼」
「クソっ、今行く!」
スケルトンナイトはかなり減っていたので、カイルはそのまま頭の方に走った。頭もやられると思ってか、コロコロと転がり続ける。体の方はまるでロボットの様に規則的に動くだけになりアイリスが心の臓を突き、土をつけた。
「待て! クソが。動きがはやい」
カイルもその頃には追いついていたが、コロコロとすばしっこくなかなか突き刺せない。あまりダラダラして復活されても困る。俺は腰に下げていたドロップを入れる布袋の口を開け、そっと近づく。首はカイルに集中しているので、こちらに目線がない時を狙って飛び掛かって袋を頭にかぶせた。
「カイル、このまま刺せ!」
彼は返事をせずにウォーッと声を上げて、袋ごとデュラハンの頭に聖剣を突きたてた。すると首無しの体と馬が消えると同時に、謁見の間の玉座がゴゴゴと音を立てて動き隠し階段が出てきた。この上が魔王の居室だ。
ドロップは俺の袋の中のバシネットと魔石だ。袋に大きな穴が空いてしまったがバシネットは大きいので中身が漏れる心配はなかった。
「リアン、どうやってヤツの腕を落としたんだ?」
「せい霊様が助けてくださった」
アイリスの言葉に俺がそういうとモカがシャドウボクシングをした。拳がヒュンヒュンと音を立てた。みんなは太刀風ならぬ拳風だと思っただろう。本当に切り落としたのはモリーだけど、聖霊であるエリーちゃんの助けであることは間違いない。
「それよりこの階段……いよいよだな」
みんなも頷いた。とうとう次は魔王戦だ。
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