第103話 チェリーの怒り
プラムが居なければ帰れないという俺の言葉にカイルは怯えの入り混じった目でこちらを見てきた。
「頼むカイル、現実を見てくれ。そしてこうして魔王城まで来ているんだ。プラムを取り返すためにも俺たちは手を組んだ方がいい。それとも君は1人でやってきけるのか?」
「うるさい! プラムさえいれば、俺はログアウトできるんだよ‼
こんなところもう嫌だ!、どいつもこいつも俺をバカにしやがって、俺は絶対協力なんかしてやらないからな」
俺たちが責め立てたせいで、彼はまるで幼い子供の様に駄々をこね始めた。俺は苛立ちを感じずにはいられなかった。
「だったら今すぐ出て行けよ。別れるのなら落ち着いてる今しかない。君の分の食料とポーションとドロップは分けるけど、魔道馬車は俺しか使えないし、火を熾す魔道具もこちらのものだ。当然調理器具や野営道具もパーティー資金で買っているからこちらのものだ……」
すると俺の言葉を遮ってチェリーがどうしてそんなつまらないことをいうのかと不思議そうに、そしてかなり厳しいことを言ってきた。
「ねぇそれだと食料やポーションもパーティー資金で買っているから分けなくていいことにならない? そんなに気を遣わなくてもこのまま放りだせばいいのよ。リアンは優しすぎる」
「いやドロップ品だけ渡してパーティーから放り出すって人道的にダメだろ。ましてやここは魔王城で、寒さだけでも死にそうなんだからさ」
「でもこの人って私たちに協力したくないんでしょ? ずっと足手まといのくせに、食べるだけ食べて、しっかり眠ってる。そんな人、助ける必要ある?
役立たずって言われていた私でも、もう少しみんなに協力してたわ。
ずっと全然親しくもないのに私にいい顔して、サリーには冷たかったのが不思議だったんだよね。だってあの子はとっても人に好かれやすいもの。
でもそれはアイリス様と同じで私のことを簡単に体を許す女だと思っていたからだってことだよね?
ゲームか何か知らないけど、私には好きな人が居てその人とやっと婚約出来たの。それなのにどうして好きでもない男にそんなふしだらな真似をすると思われているのか、腹が立って仕方がない。前のパーティーもひどかったけど、そこまでじゃなかった。馬鹿にするのもいい加減にしてほしい!」
そうじゃないって言いたかったけど、アダルト版のギャルゲーヒロインってことは大きい目で見ればそういうことになるんだよな。チェリーは基本的におおらかだ。それは興味のないことに関してはあまり積極的でないからだ。その彼女がこれだけ怒っているということはかなり厳しい事態だ。
どう宥めようか思案していると、チェリーが俺にニッコリ笑ってきた。そうか、これは彼女の作戦か。
「カイル、どうする? 君が決めろ。勇者なんだから、それらしくバシッと決めろよ」
「そんなこと言われても……食事もポーションもなしなんて無理だ!」
「そんなに私たちに協力したくないならもういいわ。ねぇリアン、この人の利用価値ってなんなの?」
「勇者の聖剣でないと魔王が倒せないと言われているんだ」
「なんだ、簡単じゃない! 聖剣が必要なら腕ごと切り落とせばいいのよ。リアンに使ってもらうしかないのは悪いけど、勇者の腕付き剣なら勇者の剣よね?」
えっ、そこまで言うか?
しかも使うのは……アイリスは剣聖で自分の剣があるし、チェリーは剣術なんて全くの素人だ。エリカはやらないだろうし、モカ、ミランダ、モリーならアルが倒したのと同じになる……確かに俺しかいないな。
「チェリー、君の怒りが深いのはわかった。でもカイルのことを許さなくてもいいから、一時的に手を組むぐらいはしようよ。俺も腕付きの剣を揮うなんて気分悪いし」
「そうね、リアンが気持ち悪くなるのはよくないよね」
「うん、それは最後の手段にしよう」
「でもそれ今なんじゃない?」
「それもそっか。ここで別れるのが一番だからな」
俺とチェリーが頷きあっていると、とうとうカイルが折れた。
「わ、わかった。協力する。だから腕を落とさないでくれ!」
「最初からそう言っていればいいのよ。次からはちゃんと戦って。それとドロップも拾うこと。食事の片付けも夜の見張りもね。ゲームだからって自分だけ楽しようって気分じゃ困るの」
後でそっと確認すると、彼を懐柔するための作戦だったのは本当だが怒りも本物だった。結婚前の貞操観念がしっかりした貴族社会に入るチェリーにとっては許しがたいことに違いない。普段怒らない人を怒らせると怖いって本当だな。
俺たちは気を取り直して先に進みだした。カイルも前と違ってちゃんと戦い始めた。聖剣なんだから弱いアンデッドは簡単に倒れるし、トロルの意識を自分に逸らしてくれるだけで結構戦い易い。この調子で進んで欲しい。
そうして次に入った部屋はかなり広い謁見の間だった。そこにはスケルトンナイトの一団と、一番奥に騎士団長らしき、真っ黒な甲冑の騎士が黒い馬に乗っていた。団長が俺たちの方へおもむろに顔を向けると、ズサッと首が落ち小脇に抱えた。
騎士団長はデュラハンだ。エリーちゃんの清廉なる神威でも耐えられるほどの禍々しい存在。
くそっ、剣を帯びているが騎槍を構えている。アイリス対策は万全ってことか。
「スケルトンはカイルとチェリーで、エリカとモカはその補助を。デュラハンは俺とアイリスで行こう。槍を手放させて剣を抜かせる」
「わかったわ。剣になれば必ずわたくしが打ちのめす」
「頼む」
ここを上がれば魔王戦だ。あと一息、俺は絶対に元の世界に帰るんだ!
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