第102話 カイルの告白2
カイルの話はゲームのことを知らなかったら全然わからないだろう。それでも俺はなんとか質問を重ねながら話を促した。
「全部わかったとは言わないが、つまり君は同じ時を3度繰り返しているってことだね。でも前2回の時は生徒会入りしていたのに今回入らなかったのはなぜだ?」
「それは……俺が引き継げるスキルに剣術を取らなかったせいだ」
彼にはもともとゲームをするにあたってジンクスがあるそうで、ラック多めの水魔法使いに設定するとゲームでの成長が早く楽しくプレイできるんだそうだ。でもプラムから剣術だけは絶対取れと言われていたので、剣術と水魔法を選んでいたらしい。だから相性の悪い火魔法と水魔法に適性があったのか。
でもせっかくリセットしてもエリカはエリーちゃんのままだし、殺したはずの俺が生きていてやっぱり邪魔する。それでラックを多めにしたいと考えた。魔法と違って剣術は取りやすいスキルだ。なら取らなくてもいいと今回引き継ぐスキルを水魔法と共にステータスをラック多めに設定したらとんでもないことになった。
カイルの剣術はこれまでのプレイヤーたちがずっと積み重ねてきて剣聖とまではいかなかったが剣豪ぐらいまで成長させていた。だから強い剣士であるカイルにアイリスは信頼を寄せていた。なのにそれが初心者にまで落ちた。それで今回は彼女におかしいとゲーム当初から疑われたのだ。
彼が剣術スキルを取らなかった時のプラムの怒りはすさまじかったらしい。そりゃあ今後のプレイに差し障りがあるからな。でも呪いのせいで弱くなったと説明して何とかアイリスを抑えていたらしい。
「ログアウト状態の時に、生体コンピュータのアシスト機能で剣術を学んでおけって言われたんだけど……、俺中学卒業したてで導入したばかりなんだ。それでアシスト機能がまだうまく使えなくて……。そしたらプラムはますます怒るし、アイリスには疑われるしマジ最悪。でもエリカはガキじゃなくなったし、やっぱり俺はラック多めの水魔法使いで間違いないと思った」
やっぱりコイツ、俺と同じ年なのか。どうやら他のゲームでもいつもジンクス通りにしているから剣士をやったことがあまりないらしいし、それであんなひどいフォームなのか。謎が解けたぜ。
その後の話はだいたい俺の知っている通りだ。プラムと話し合ってアイリスの誤解を解くために先に彼女の借金問題を片付けることにしたのだ。今回はリセットではなくゲームをちゃんと終わらせようってことになって魔王城へ来たらしい。だがそこでこれまであった剣豪並みの剣術スキルがないことで何の役にも立たないことを痛感したそうだ。今ココである。
するとずっと黙っていたアイリスがやっと口を開いた。
「わたくしは今の話を理解したわけではない。でも聞き捨てならないことがあった。お前の失った剣術スキルはたくさんのプレイヤーの積み重ねだという。たくさんのプレイヤーというのはどういうことなの? 答えなさい!」
「えっ……そこ? だからここはゲームの世界でいろんな人がカイルのアバターでプレイしてるんだよ。それ以上何の説明ができるんだ?」
そんな言い方でわかるかよ! 俺は補足に入った。
「話だけだとカイルって名前の体の中に、いろんなプレイヤー? ってのが憑依して動かしている。そういうことか?」
「お前、理解力速いな。そういうこと」
「で、でもカイルは南西部の村の出身と聞いているわ!」
「俺もアルフォンス様からそう聞いています。プラムと2人で村から出て来ていて、家族もちゃんといるそうです」
「なぜアイツがそんなことを?」
「失礼ながらアイリス様、婚約者の恋のお相手がどんな人物か知りたかったのではないでしょうか?」
「あのデブの事なんてどうでもいいじゃん。だからそれは設定ってだけなの。そういうものだって思ってくれればいいんだよ」
「それからプラムの本名はアイダというそうです。なぜ偽名を使っているのかは不明です。カイルはこのことを知っていたか?」
「偽名? ふーん、そんな裏設定があったんだ」
カイルは本気でこの世界をゲームだと思っているんだ。俺も普通にゲーム出来ていたそう思ったのかな? でもこれまでいくつもVRゲームをやってきたけど、ここまでリアルな世界は初めてだ。なぜなら普通のゲームはまだ出来ていないから進めない所があったり、専用AIが各キャラについていてもたまにトンチンカンな答えをしたりするんだから。バグだってある。
ここまでスムーズでリアルな世界はゲームで見たことはない。映像と違って360度すべてに手を抜かないなんてことは、どう考えてもできるとは思えない。
「ではわたくしのカイルはどこにいるの⁈」
「そんなの知らな……、そう言えばこのアダルト版はプラムが招待した人だけがプレイヤーになれるんだ。最初はリア友だったそうで、プロとまではいかないけどかなりの廃人ゲーマーだったらしい。そいつが恋愛そっちのけでカイルの剣術スキルを上げたって言ってた」
「じゃあその人が?」
「それと2つ前のプレイヤーがアイリス推しで、アイリスルートをガンガンに進めてたって話だからその人かもな。でも俺、全然知らないし」
「カイルはどうやってプラムに招待してもらったんだ?」
「俺のおじさんが1つ前に招待されてて、その時に勝手に俺の貯金を使い込んでたんだよ。遊びでやったのがおもったより儲かったから、相談しただけだったのにさ」
もともとその叔父さんに手ほどきを受けて始めた投資が当たって、1千万手にしてしまったんだそうだ。さすがにビビッて相談したら、「俺に任せとけ!」ってその1千万で買ったのがこのゲームだったという。
「最初は勝手なことするなってケンカになったんだけど、試しにおじさんはこのゲームやって何人かの女の子とヤレたって言ってさ。それで俺もエリカと会えるならって思って……」
「ヤレた?」
俺は思わず聞き返した。
「魔王を倒す前に今生の思い出にって、仲間の女の子とエッチしたって。ダリアやカンナ、それにアイリスともしたって」
「えっちとは何かしら? わたくしと何をしたの?」
「だから、その……ベッドでするアレだよ」
「まさかあなたは、わたくしがあなたの叔父と同衾したとでも言うの?」
「うん」
「そんなまさか! 信じられない……」
「アイリスの右尻の下にほくろがあるって言ってたぞ」
すると彼女は凍り付いたように動かなくなった。きっとその場所に本当にあるんだろう。
貴族令嬢にとって処女であることは、間違いなく婚家の跡継ぎが産める指標となる。それだけ価値が高いのだ。だがそうでなくなったら女性として欠陥品と呼ばれてしまう。ふしだらで恥知らずな売女ってことになるのだ。
前回カイルと口づけをしていたことを見られていたことで、それだけで婚約破棄の宣言をアルがしていたけどそれ以上を許したってことだ。
「嘘よ! 絶対嘘‼ わたくしはそんな真似は絶対にしない……」
「落ち着いてください、アイリス様! 今のあなたはカイルとそこまではしていないんでしょう?」
「ええ、間違いなく!」
「だったらアイリス様はまだ純潔でいらっしゃいます。大丈夫です」
「そ、そうよね。そのはずよね」
「今回はアイリスが俺を警戒してそこまで行かなかったけど、プラムが言うには他のプレイヤーの時はローズやリリーだってヤレたって」
「いい加減にしてくれ! カイル、君にとってここはゲームの中かもしれないけど、俺たちにとっては現実だ。ケガもするし、死んだら終わりだ。君が今言ったことはアイリス様の貴族生命を殺しかけているんだぞ。カイルだって本当は気づいてるんじゃないか? だって君はプラムが居なければ元のところに帰れないんだから」
プラムが倒れてから10日は経っている。そろそろログアウトしないといけないはずだ。
お読みいただきありがとうございます。レビューもいただき、とても嬉しいです。
1回しか名前が出ていないのでお忘れかもしれないので書いておきます。ダリアは王宮編の説明の所に出てきた、王宮の中に潜む女暗殺者の名前です。




