第101話 カイルの告白1
「カイルだけどカイルじゃないって、それはどういう意味なの⁈」
アイリスが彼の首根っこを掴み、無理やり顔を上げさせた。
怒りのせいか殺気から殺意に変わったぐらい空気がびりびりしている。彼はすっかり怯えてしまったようだ。
「だから俺はここではカイルだけど、別んとこではカイルじゃないんだよ……」
「意味が分からないからちゃんと説明してくれ。アイリス様も暴力はお控えください」
その後で口パクで「今は」と伝えると彼女もとりあえずは引いてしてくれて、掴んだ手を離した。
彼が話したのは俺も知っているゲームの話だった。
「ここは『レジェンド オブ フラワーヒロイン ファンタジア』ってゲームの中なんだよ。アイリスもリアンもチェリーもその中に出てくるキャラなんだ」
「ゲームやキャラとはなんだ」
「ゲームは遊び、キャラは……えっと登場人物ってとこかな」
「リアンやチェリーわかる? わたくしにはさっぱりわからない」
俺がチェリーを見入ると首を横に振っていたので、また知らないふりして話すことにした。
「ゲームとはチェスのようなものの事でしょうか? そうすれば登場人物とやらも、チェスの駒のようなものと言うことになります」
「わたくしたちが駒……」
「理解できていないがここで話を止めたら意味がありません。カイルじゃないカイル、俺たちが駒なら君はなんだ?」
「俺たちはプレイヤーだよ。ゲームを遊んでる側だ」
「つまり君は俺たちを自在に操って遊んでいたってことか? その割には自分の立場を悪くし過ぎじゃないか?」
「遊んでるんだけど、自在には操れないんだ。決まったストーリーがあって、行動や成長具合で内容が変わっていくんだよ」
「チェスというより芝居の方が近いか。基本的な台本があるけど、プレイヤー次第で変わっていく……これでいいか」
「うん、カイルはその中でも主人公なんだ」
「なるほど、君中心に話が動くんだな。それではプラムはなんだ」
「あいつはゲームマスター。このゲームを取り仕切っているんだ」
アイリスはわからない様子でイライラし始めた。
「それでカイルだけどカイルじゃないは何?」
「その……俺はカイルなんだけど、中身である俺はカイルじゃない。アイリスのカイルがどんな奴なのかもわからない。なにしろ何十万人ものプレイヤーがいるんだ。その中の1人なのか、いろんなやつの事なのか知らない」
「つまりカイルには何十万人も憑依しているってことなのか?」
「憑依じゃない! ここはゲームの中、作り物の世界なんだよ! なのになんだよ! みんな好き勝手に動いて全然ストーリー通り進まない! 俺が主人公なのに、俺なんか誰も見ない。最初から好感度の高いアイリスとゲームマスターのプラムだけしか仲間じゃないんだ」
そう叫ばれても、そんなの当たり前じゃないか。だから仲間になるように女の子たちを口説いて行くんだろ?
そう言いたいのはやまやまだったが、ゲームを知っているとは言えないので何とか取り繕って返事をした。
「いや、俺と君は学園に来るまで会ったことがなかったし、同じクラスでもお前はプラムにべったりだったし。いつ親しくなるんだよ?」
「学園は中等部からあってもう仲のいい人が居るから、高等部入学の人とはきっかけがないと話もしないわ。そんなの当たり前じゃない」
「そういうことじゃないんだよ。最初から全部おかしかった。まず入試の成績第1位は俺のはずなのにリアンだった。レッドグレイブは全然弱くないし、リリーは上から目線だし、モブが大量にいてウザいし、なによりエリカがものすげーガキだった。プラムは、それはそれで需要があるって言うけど、俺の推しとは違う時点でダメだろ。全然ストーリー通り進まないなんておかしいだろーが」
ああ、使命感を持って学園に来たリアン君は、ゲームのカイルより勉強も訓練も全部頑張ったんだろう。それにアルフォンス君はすでにアルだ。リリーの傲慢さはゲームでは薄れさせてあったんだろう。モブってもしかしたらテンペストのことかもな。あいつ、見た目の良い新入生にこえかけそうだし。あとエリーちゃんに対して需要があるって言い方が気に喰わないし、モカたちが苛ついている。
「だいたいリセマラが悪いって言うんだ。カイルは剣術以外すげー弱いキャラで全然勇者っぽくないんだ。エリカだっておかしいし、だから当然するだろ? そしたらプラムが怒るし……」
リセマラ、リセットマラソンのことだ。初期設定がランダムな時、自分の思った通りのステータスになるまでリセットし続けることだ。だけどリセットが寿命と関係しているし、ダメって言われるのはしょうがない。
何度か用語の説明をさせつつ話を聞いていると、俺が入った時リアン君が襲撃された理由がわかった。コイツがこのゲームをプレイしたのは3回だ。2回目は俺がリアン君になった時で3回目が今。そして1回目の時にカイルが付くべき立場にリアン君が付いたのだ。
もちろんアイリスとプラムを仲間にしたわけじゃない。それ以外のことだ。
リアン君は偽男色家のテンペストを避けるために、リリーに直談判して生徒会の保護を受けたのだ。そのせいで彼が生徒会の手伝いをしていた。
そしてカイルがゲームストーリー通り、アイリス伝手で入った時にはものすごく仕事の出来るリアン君のせいで存在がかすんでしまったのだ。それは俺が入った2回目も同じだったな。俺はリリーの執事に気に入られてたけど、カイルはただの護衛扱いだった。
それだけではなくことごとく成績1位を奪われる、ダンジョンも攻略されまくっていて聖剣が手に入らないなどいろいろあって、排除しようってことになったらしい。
成績はフレデリカのために貴族になるのに必要だったし、聖剣が手に入らなかったのはアルたちのせいだ。すっかり忘れていたっていってたしな。
とにかくカイルにとって目の上のたんこぶになったってことだ。元々リアンはカイルの成長を促すライバル兼親友兼ヒロインで学園編においてはチートな存在だ。最初は別のプレイヤーの可能性を疑ったがとぼけている様子もなかったそうだ。
それでいなくてもストーリーに関係ないので殺そうって、コイツやっぱ被害者じゃねーじゃん。いやこの世界をゲームだと思いこんでいたら、気に喰わないキャラを殺すぐらい平気か。アルフォンス君の時におかしくなったのをプラムは知らないのか?
「リアン、良くついて行けるね? 私こんなに頭のおかしい人、初めてだよ」
「チェリーの意見に全く同感だし、俺も全部わかったわけじゃない。だけどとにかく話を聞くだけ聞いておきたいんだ」
アイリスは黙っている。それが一番怖い。
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