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それでも異世界は輪廻っている  作者: 詩森さよ(さよ吉)
第一部 ゲームから出られなくなった俺を助けてくれたのは、キモデブ悪役令息と犬耳幼女メイドだけでした

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第100話 吊るし上げ


 翌朝の朝食もポトフだ。元の世界でも俺の作れる料理はこれとカレーとシチューと肉じゃがだけだ。要はジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、肉を水から煮て、塩(+コンソメ)かカレールーまたはシチューのルーを溶かす。あるいはしょうゆとみりん、砂糖を足すだけだ。ブロッコリーを入れたり、白滝を入れたりは出来ない。前に入れたらゆで過ぎでドロドロになったり、アクで口の中がガビガビになったりしたのだ。


 でもアイリスもチェリーもお嬢様なので煮加減というものがわからないらしい。彼女たちはこれからもたぶん貴族だろうから、覚えなくてもいいのかもしれないけど。

 意気消沈中のカイルも当然手伝わない。サリーは最近覚えてくれたのになぁ。でも好きな男のいる子にリアン君は任せられない。

 ああそうだ。最近は焚火で肉を焼くことも覚えたんだ。リアン君が出来たので俺も出来るようになったのだ。つまり言いたいことは俺がずっとご飯当番ってこと。


 エリーちゃんの作ってくれるご飯が食べたいな。みんなで食卓を囲んでおいしいってニコニコ笑ってさ。

 今これまでの旅の中で最もギスッた状態で食べてるんだ。正直辛い……。


 カイルを見てみると、もそもそと俺のポトフを口にしている。味としては飽きているだろうけど、この寒い魔王城の中で温かいってだけで相当なごちそうだ。アイリスは貴族らしく涼しい顔で食べているが昨日の取り決め忘れるなよと確認するように時々俺を見る。俺はそれに小さく頷くだけにした。チェリーはモカの渡したパンに夢中だ。このパンはエリーちゃんの差し入れなので一級品にうまい。


「チェリー、パンばっかり食うなよ」


「わかってるけど……おいしいんだもの」


「ポトフ食わないと体が冷えるぞ」


 何とか会話を続けようとしたがこれだけで終わった。色々話して緊張感を和らげたかったんだけどな。

 食事が終わったので俺はとうとう本題を切り出した。



「カイル、チェリー話があるんだ」


「何?」


 カイルは目線を俺の方に向けただけだ。


「真剣な話だ。この魔王城の旅も敵がどんどん強くなっている。たぶん魔王は近い」


 アイリスとチェリーが頷く。


「そんな中、俺たちは仲間内でわだかまりを持つのは良くないと思う。だから聞く。アイリス様は君を本当のカイルではないと仰っている。俺は以前の君を知らない。チェリーはどうだ?」


「私だってリアンと一緒よ。カイルは高等部からの入学で、しかも私はDクラスだったでしょう? 話すようになったのも一緒に討伐に出るって決まってからだもの」


「アイリス様、どう違うのか教えて欲しい」


「……まずわたくしの知るカイルは剣術の達人でした。剣聖スキルによってわたくしが負けたことはないけれど、いつも打ち合うだけで学びがありました。古今東西の剣術を研究し、独自の強さを持っていてわたくしの憧れでした。彼は大人でいつもわたくしを導いてくれました。間違っていればわかるように諭し、上手くいかないことがあってもわたくしの背中をそっと押してくれました。彼にならわたくしの背中を預けられる……そう信じていました。ですが今のあなたは剣術を使えない。プラムに依存し、彼女の不在で泣き出すような存在です。わたくしのカイルはもっとずっと年上のような心の広い御方でした。呪いがかかっていると言われていたけれど、あまりの変貌に信じられなくなったのです」


「最初に言っておく。俺たちは今君を吊るし上げようと思っているわけじゃないんだ。ただ君が俺たちの味方なのか。せめてプラムを取り戻すまでは手を組めないかが知りたいんだ。そのためには本当のことを教えて欲しい。君はカイルなのか、そうではないのか?」


「か、カイルに決まってんじゃん」


「違うのは子どもっぽくなったり、虚勢を張ったりすることだけではないの。食の好みや興味のあることまで違うの。そんなことが起こるなんて信じられなかったけれど、そう魂だけが違う人物になったようなそんな印象がどうしてもぬぐえないの」


 アイリスはポロリと涙をこぼした。愛する人を失ったと彼女の心が認めたのだ。


「アイリス様がそれほど思うお方だ。さぞかし強い武人だったに違いない。そんな方を君が殺したとは思わない。それに俺は君が毒や罠など卑怯な手を使ったとも思えないんだ。もしかしたら君自身騙されてここに連れてこられたんじゃないだろうか?」


 これは最近思い始めたことだ。主犯がプラムならカイルは従犯。でもその割に取り繕いが下手だし、やたら子どもっぽい。剣術の下手さも生体コンピュータのアシスト機能が使えない、あるいは慣れていないほどの低年齢なのではないか? つまり15歳以下ってことだ。

 俺より下かもと思うこともあるが、俺はリアン君の記憶が作用して実際の自分よりずっと落ち着いているし、頭も体もよく働く。本当の俺だったらスルトやスキュラを見たら、彼と同じような反応になるんじゃないかと思っている。


 でもそんな子どもが俺のアカウントを盗めるとは思えない。つまりこれまでの死んでいったプレイヤーと同じく彼も同じ被害者ってことだ。



「も、もし俺が敵だったらどうするんだよ?」


「敵だったら? そうだな……勇者だから生かしておくけど、魔王討伐が終わったら殺す」


「えっ? 殺すの?」


 チェリーが驚いて俺を振り返った。


「ああ、とりあえず最後の最後で裏切られたら困るので、足の腱は切っておくつもりだ。大丈夫だ。馬車があるから移動には困らない。プラムが居なくてよかったよ。簡単に治されたら困るからな。もちろんやるのは俺じゃない」


 俺のそのセリフと共にアイリスがスゥーッと物騒な空気を醸し出した。威圧とはまた違うピリピリとした緊張感が漂い始める。そう殺気だ。でもまだ本気じゃない。


「今の君に俺とアイリス様を躱せるか?」


 彼はすっかり怯えたように、声を絞り出すのでやっとだった


「……つっ、吊るし上げないって言ったじゃないか」


「それは本当のことを話してくれたらだ。敵か味方がわからないものを野放しには出来ない。チェリーはどう思う?」


「わ、私? その、えーっと、よくわからないけど、信用できない人と一緒に戦うのは出来ないから……ごめん、無理」


 残念ながら結局吊るし上げになってしまった。カイルは視線をウロウロさせながら困り切ってた。


「素直に話すだけでいいんだ。俺たちはこれまで君を粗略に扱ったことはない。今朝だってちゃんと食事を出しただろ。ただ本当のことが知りたいんだ」


 これでもダメなら拘束して屋根上の荷台に括り付けようか。


「待ってくれ! 俺は敵じゃない、本当だ‼」


「口だけなら何とでもいえる。ちゃんと質問に答えてくれ。君は誰だ?」


 ジリジリとアイリスが彼に近寄る。


「ああ~! どう言ったらいいんだ? 俺はカイルだけどカイルじゃないんだよ‼」


 彼はそう叫んで頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。隙だらけだ。あまりの無防備さに呆れるほどだが、彼に戦意がないことは確かなようだ。


お読みいただきありがとうございます。


なろうチアーズプログラムと言うのが出来たんですね。私全然知らなくて、昨日初めて知って設定してみました。もしかして他にも知らない設定がありそうです。

これを励みにこれからも地道に書き続けようと思います。

よろしくお願いいたします。

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