81話 奇人
「本当であればあちらからディアボロ様のもとに出向かせたかったのですが、彼女は基本的に自分のテリトリーから出ようとしないのです」
現在、俺とロボは魔王城『ワールドエンド』の地下へと続く階段を下りていた。
暗闇の中に浮かぶ蝋燭だけを頼りに進む中、2人分の足音が響き渡る。
ロボの話によると、どうやら今から会う人物は筋金入りの引きこもりのようだ。
「かなり気難しい性格なのか?」
「気難しいと言うより……。申し訳ありません、私も何と説明すれば良いのか……」
ムラマサは変態だとか言ってたから少なくとも常識人ではないだろう。
とにかく癖が強そうな相手だと思っておけば問題ないだろうか。
それにしてもロボはいつも謝ってるな。
まぁその事を指摘しても余計話が拗れそうなので黙っているが。
それにしてももうかなり長い時間この階段を降りているが、一向に目的の場所に着く気配が無い。
「もうかなり地下深くまで降りてきたと思うんだが、まだ着かないのか?」
「もう少しです」
本当に?
さっきから周囲の様子が変わり映えしなさ過ぎてまるで迷宮にでも迷い込んだ気分だ。
「これほど遠いのなら『転移結晶』を使うなりすればいいんじゃないのか?ロボは『研究室』に会いに行った事があるんだろ?」
1度訪れた場所なのであれば便利な魔道具『転移結晶』が使えるのだからわざわざこの長く暗い階段を延々と降り続ける必要は無いはずだが。
しかしロボは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
と言っても出会った当初と比べて彼女が感情豊かになったわけではなく、あくまで何となく僅かな表情の動きからそう感じるだけだが。
「彼女曰く『そんな物を使われては誰もが気軽に、頻繁にワタシの元を訪れることができてしまうじゃないか!キミはワタシが何のために魔王様に直訴してまで地下に自分の城を築いているのか分かっているのかね?』だそうです。そうして地下一帯に自分が練り上げた阻害魔法を展開しているため、今回のように自らの足で彼女の元を訪れるしかないのです…」
「……」
うわぁ……。
行きたくねぇ。
魔王城の地下一帯を覆うほどの阻害魔法を展開できたり魔王軍における様々な分野の研究を一手に引き受けているあたりかなり有能な人物なのかもしれないが、正直関わりたくない。
ムラマサやアレキサンダーの話を聞いた時点でかなり嫌な予感がしていた。
本当は『統率者』が残した手掛かりをロボに預け、彼女一人に向かってもらいたかったがアレキサンダーの件もある。
今も俺のアイテムボックスで眠っているそれを自分以外の誰かに預けることなど、できるはずもない。
そこで俺は泣く泣くロボと共に『研究室』の元へ向かうことにしたのだ。
アレキサンダーには悪いが銀色の刃があのような反応を見せることが発覚したのが俺のいるタイミングで良かった。
俺のいない場所であのような反応を起こされていたら誰かが命を落とすことになっていたかもしれない。
「着きました」
長い長い階段を降りた先には巨大な鉄製の門が待ち構えていた。
それにしてもデカい。
高さ10mくらいはあるのではないだろうか。
その扉の横に備え付けてある赤いボタンのような物の前にロボが歩み寄る。
そしてメイド服のポケットから何かを取り出し、自分の耳に詰めた。
「ディアボロ様も耳を塞いでいた方がよろしいかと」
ロボの忠告に従い、両耳を塞ぐ。
あとそのボタン『緊急事態』と書いてあるような気がするのだが、まさかそれを押す訳じゃないよな?
「では」
俺が耳を塞いだのを確認してからロボはそのボタンを何の躊躇いもなく押した。
瞬間、地下にけたたましい音が響き渡る。
耳を塞いでいてこれなのだから何もしなければもっと凄まじい音が聞こえていただろう。
周囲には赤い魔方陣がいくつも浮かび上がり、激しく明滅している。
ロボさん、忠告には感謝するけどそれ本当に押してもいいボタンだったの?
ガコン
しばらくして目の前の巨大な扉が重々しい音をたてながらゆっくりと開き始めた。
その隙間から煙のようなものが出てくる。
中でいったい何を行っていたのかは、あえて考えないようにしよう。
そしてその煙の中から、一人の長身の女性が現れた。
長い銀髪を乱暴に後ろに束ね、よれよれの白衣を纏い、銀縁の眼鏡の向こう側では濃い隈の上に存在する真っ黒な瞳が爛々と輝いていた。
そして何より目を引くのが頭を真横に貫通した巨大なボルト。
どうなってんだそれ。
「んー、久しいねロボ。前にキミがワタシを訪ねにこの場所に来たのは…、342年前だったかな?」
「お久しぶりですフランベルジュ様、本日はあなたに調べていただきたいものがあります」
「それで?彼が噂の英雄君かい?」
先ほどから彼女はロボと会話しているがその視線はずっと俺をとらえている。
話をするときは相手の方を見ましょうって親御さんに教わらなかったのか?
「はい。彼が魔王様によって召喚された『黒曜の英雄』ディアボロ様です」
「なーるほどねー」
ロボからの紹介を受けてフランベルジュはツカツカと俺のもとへとやってくる。
視線は変わらず俺に固定したまま。
めちゃくちゃ怖いなこの女。
いざとなったら全速力で階段を駆け上って逃げよう。
そんなことを考えているうちに彼女は俺の目の前まで迫っていた。
ようやく立ち止まると、俺の全身を舐めるように見てから再び俺と視線を合わせてにっこり微笑んだ。
「キミ、ワタシに飼われる気はないかね?」




