79話 情報提供
「ふむ……」
まず金属片を手に取ったのはムラマサだった。
他の二人は好奇心よりも警戒心が勝ったようで出遅れた様子だ。
先ほどから指で弾いたり照明で透かして見たり、挙句の果てには折り曲げようとしているこいつの警戒心が薄過ぎるような気もするが。
「当然じゃがただの金属片、ではないのう。ただの金属片であればわしに曲げられんわけが無いじゃろうし。アダマンタイト、ヒヒイロカネ、ブルーメタルにミスリル、オリハルコン、ダマスカス鋼。希少な鉱物と言えばこのあたりになるじゃろうが特徴が一致する物は……」
彼女の口から俺でも耳にしたことがあるような有名な鉱物の名前が次々出てくる。
「貸せ」
今度はアレキサンダーが金属片を奪い取り真剣な表情で観察し始めた。
ムラマサが目の前で色々と試していたのを見てか、幾分警戒心が薄れたようだ。
そんな彼女を尻目にロボが話しかけてくる。
「ディアボロ様、この金属片のような物だけが消えずに残っていたというのは?」
「『統率者』はその金属片、と言うより銀色の刃の群れを武器にしていた。武器にしていたと言っても、俺には体と直接繋がっているように見えていたから体の一部なのかとも考えたが……」
「ならばなぜ他の部分は消えたのにこの銀色の刃は残っているのか?ということですね?」
「そもそも『統率者』が何者なのか、何故死骸も残さずに消えたのか、何故他のモンスターを統率する能力が備わっているのか。謎が多過ぎて俺の頭では結局確証のない憶測しか浮かんで来ない」
ごめんね、頭悪くて。
でもここで変な憶測を口にして彼女らを混乱させ事だけは何とか避けなくては。
ただでさえ危うい自分の立場をこれ以上悪くしたくない。
「これを操って武器にしてたってことはよ、魔力伝導率の良さでも見てみればこいつの正体を探る上でのヒントくらいにはなんじゃねーの?それによってはまずただの金属片だって可能性は消せるわけだし」
「それなら英雄殿がすでに試しておったぞ。のう?」
「は?お前なんでそれを黙ってたんだよ」
アレキサンダーが俺を睨み付ける。
そういえば『統率者』との戦闘には間に合わなかったが、それ以降の俺の動きはムラマサに観察されていたんだったな。
余計な事を。
「別に隠すつもりは無かった。それについては今から説明するつもりだ」
「どうだかな」
本当のことを話しているだけなのだが、どうもアレキサンダーは俺の答えが気に食わないらしい。
まぁそもそも彼女は俺の存在自体が気に食わないようだし、当然の反応と言えばそうなのだが。
「お、そうじゃったのか?すまんのう、わしまた余計な事を言ってしまったか?」
「さっきも言っただろう、隠すつもりが無いのだから問題ない。話すのが先になるか後になるか、ただそれだけだ」
ただもう少し静かにしてくれるととても助かる。
本当にこいつはいつも話をかき回してくれるな。
保護者?であるロボにしっかり彼女の手綱を握っておけと、非難の眼差しを向けそうになったがすんでの所で留まる。
そんなことをしてアレキサンダーに変に勘繰られては本末転倒だ。
冷静になれ。
三人に悟られないように小さく息を吐き、心を落ち着ける。
「俺も『統率者』がその死骸を消し、残された銀色の刃がどんな物なのか気になったから試しに自分の魔力を込めた。するとそれは銀色から黒に変色した」
「変色した?」
「恐らく俺の魔力と共鳴したんだろう。そのことからかなり魔力の伝導率が良い物質である事だけは分かった」
本当に分かったのはそれだけだが。
「俺の英雄装備であるエンドレスダークを貫いた時点でただの物質ではない事は薄々感じていたが、より確信が持てた」
「はっ!ただ単にお前の英雄装備とやらがたいした物じゃ無かったってだけの話じゃねーのか?」
「それはありえません。あなたも六英雄が持つ英雄装備の恐ろしさは身に沁みて理解して」
「黙れよ」
アレキサンダーが持っていたジョッキを握りつぶし、中身がテーブル上に飛び散った。
「俺は負けてねぇ。あの時はスタンピードの帰りで消耗していただけだ。何が英雄だ。狡い真似しやがって」
彼女が他の六英雄と交戦経験があるのは初耳だ。
まぁ彼女の口ぶりからして負けたのだろうが。
彼女には悪いが、殺し合いがルールの定められたスポーツではない以上狡いも何もない。
騎士道精神などといった高潔な精神を持った者が相手であれば話は変わるかもしれないが、極論相手を殺すことができればどんな方法も使うだろう。
実際俺ならそうする。
正々堂々などと宣える程、俺の心に余裕はない。
「瀕死の状態で命からがら逃げ延びておいてよく言う。まさかお主、その腹いせに同じ六英雄である英雄殿に八つ当たりしておるのではあるまいな?」
「あ?」
ケラケラ笑うムラマサにアレキサンダーが殺気を込めた視線を向ける
焚き付けるなよ。
別に俺は八つ当たりだろうが何だろうが気にしないから。
「ムラマサ、さすがにそれは言い過ぎです。確かにアレクのディアボロ様に対する態度は目に余りますが、彼女にも冒険者の頂点たる第七段階冒険者としての矜持があります。そのような恥知らずな真似をするわけがないでしょう」
「その矜持とやらがあるのなら負け惜しみを吐いたりもしないと思うんじゃがのう…」
ムラマサの意見には俺も同意したいところだが、そういうことは口に出すなよ。
ちなみにアレキサンダーは目を泳がせていた。
図星でもせめて隠す努力はしろよ、ロボのフォローが台無しだろうが。
――ゾク
背筋に嫌なものを感じた。
それと同時に向かいに座っていたアレキサンダーの手に握られていた金色の刃が生き物のようにうねりながら彼女の顔面に襲い掛かった。




