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71話 一難去って

 

 「……」


 『統率者』の魔力反応が消失したのを確認してから俺は、光の粒子が吸い込まれていった地面見つめながら思案する。

 何故『統率者』は死体を残さずに光の粒子となった?

 もはや奴がただのモンスターでない事は明白だ。

 なんなら本当にモンスターなのかすら怪しい。

 地面に転がるモンスターの死骸に目をやる。

 第七危険度こそいないものの、第五危険度のモンスターが数体転がっている。

 他の低危険度のモンスターならともかくこいつらは他種族の指示に従うほど従順ではないし、連携が取れるほど協力的でもない。

 さきほどの連中からは稚拙ではあるものの、連携をとろうという意図が見えた。

 モンスターにも個体差はある。

 本能に従い考えもなしに突っ込んでくるものもいれば、獲物を罠に嵌めたり同族と共に連携をとって狩りをするものもいる。

 だが、今回のようなパターンは初めてだ。

 『統率者』が消えたあたりの地面に向かいしゃがみ込む。

 手で触れてみるが何の変哲も無い地面だ。

 魔力の反応も無い。

 そこでふと、俺がこの世界に召喚される元凶となった2人の女性たちにかけられた言葉を思い出す。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 地下に潜れ。

 彼女らは確かにそう言った。

 あの言葉と『統率者』が地面に消えていった事には何か関係があるのか?

 現状、彼女らの言葉にどこまでの信憑性があるか分からない以上、鵜呑みにすることはできないが頭の片隅には留めておこう。


 「そもそも……」


 ()()はどこから来た?

 俺の目には『統率者』は無機質な人形に見えたが、魔族の中には自動人形(オートマタ)というれっきとした種族が存在する以上あれが分類上生物である可能性は捨て切れない。

 

 いや、自動人形(オートマタ)は生物と呼んでも良いのか?


 この世界に来てからまだ遭遇していないため判断が難しい。

 やはり魔族である以上ただの人形ではなく感情を持ち合わせているのだろうか。

 あたりに飛び散った銀色の刃の中で比較的大きな物を拾い上げる。

 『統率者』の体の一部であるはずのこれはなぜ地面に吸い込まれていかなかったのだろうか。

 指で弾くと澄んだ音が響いた。

 俺に向かって襲い掛かってきたときのような魔力らしき物は感じない。

 試しに自分の魔力を流し込んでみると銀色から真っ黒に変色していった。


 「……」


 自身の魔力がこもった刃を振りぬく。

 

 ブゥンッ


 そんな音と共に黒い斬撃が撃ち出され、木々を切り裂きなぎ倒していった。

 刃に目を向けると元通りの銀色に戻っている。

 この物質はどうやらかなり魔力の伝導率が良いらしい。

 英雄装備であるエンドレスダークを貫いた時点で有象無象の物質とは一戦を画す物だとは思っていたが、これは何か使い道がありそうだ。

 『統率者』の体の一部、もしくは所持していた武器ともなれば奴の正体を探る上でも役に立つかもしれない。

 ひとまずめぼしい素材と『統率者』が残した銀色の刃を全て回収する。

 

 周囲に低危険度のモンスターの死骸しか残っていないことを確認して大きく息を吐いた。

 今回の一件もまた反省すべき点が多かった。

 しかし色々反省するのはあの部屋に戻ってからだ。

 考え事と周囲への警戒を両立させるのはこれでなかなか骨が折れる。

 今俺がいるのはモンスターの巣窟『境界の森』だ。

 魔王城で俺に割り当てられたあの部屋でなら気を抜けるという訳では無いが、この場所よりかは考え事をするのには向いているだろう。

 

 にしても居心地が悪い。


 「いつまでそうやっているつもりだ?話があるなら手短に済ませてくれ。それとも俺の監視役でも引き継いだのか?」


 背後の木の陰に向かって声をかける。

 俺が素材の回収を終えて思案に暮れ始めたあたりから気配は感じていた。

 そのうち向こうから接触があると思ってこちらからはアクションを起こさなかったのだが、相手はいつまでたっても姿を見せない。

 いい加減絡みつくような視線が鬱陶しくなってきた。


 俺の視線の先で空間が歪み、一人の妙齢の女が現れた。

 東洋風の装いに長い黒髪を一つに束ねた長身の女。

 まぁこの世界の女性が全体的に長身であることを考えれば言うほどでもないかもしれないが。

 左目に眼帯、腰には左右二本ずつ大太刀?を差している。


 「これは失礼した。今噂の『黒曜の英雄』ディアボロ殿の腕を見せていただける良い機会だと思い、嬉々として参ったのじゃが、どうやら間に合わなかったようでのう」

 

 カッカッカ


 と、特徴的な笑い声を上げながらその女は俺に歩み寄ってきた。

 歩くたびに腰に差した刀がガチャガチャ音を立てる。

 先ほどまでは聞こえなかった音だ。


 「それは俺を黙って監視し続けていた理由にはならんだろうが」

 「監視していたつもりはなかったんじゃがのう……。すまんな」


 俺の指摘に女はばつが悪そうにポリポリ頬を搔く。

 

 「それで、そちらは俺のことを知っているようだが俺はそちらのことを知らない。悪いと思うならせめて自己紹介ぐらいはしてくれても良いのでは?」

 

 初対面の相手にはまずは自己紹介からだろう。

 相手は自分のことを知っているのに自分は相手のことを何も知らないというのは非常に気持ち悪い。

 

 「おお!」


 女は俺の言葉を聞いて始めて気がついたといった様子で居住まいを正し、赤い唇をペロリと舐めてから高圧的な笑みを浮かべて言った。


 「わしはロボと昔パーティーを組んでいた者じゃ。皆はわしのことを『流れ者』、またはムラマサと呼ぶ。よろしくな英雄殿?」

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