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臆病・口下手・不器用と三拍子揃った俺だがこの奇妙な異世界には負けたくない  作者: Deadfool


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70話 砂利の味


 「先に一つ聞いておきたいことがあるんだが……」


 俺は『統率者』に話しかける。

 無論、油断など微塵もしていない。

 返事は期待していないが探りを入れる。

 これはただの確認作業だ。


 「お前は人族でも魔族でもないモンスター、ということでいいのか?」


 俺の問いかけに相手は返事はおろか反応すらしない。

 ただ俺のことをガラスのような無機質な瞳で見つめるだけだ。

 今の俺は傍から見れば精巧に作られた人形に話しかける危ない人間に映るだろう。

 

 突然、足元から銀色の刃が突き出してきた。

 とっさに首を捻って避けたが、僅かに掠めたのか生暖かい液体が肌の上を滑り落ちる。

 

 『統率者』が右足を僅かに持ち上げる。

 その足の裏から先ほど俺の首を掠めた銀色の刃と同じ物が地面に伸びていた。

 なるほど。

 どうやら相手は間抜けな俺が気づかない間に自分の武器を地面から潜り込ませていたらしい。

 相手の動きには細心の注意を払っていたつもりだったが、何の予兆も無く身動き一つしないまま攻撃されるのは予想外だった。

 

 何(・)が(・)予(・)想(・)外(・)だ(・)、(・)馬(・)鹿(・)か(・)俺(・)は(・)。


 『統率者』が持ち上げた足で地面を踏み抜く。

 とっさに飛び退いた俺は地面から飛び出した刃が何十、何百と枝分かれして伸びてくるのを見た。

 あのまま棒立ちしていれば今頃俺は串刺し状態になっていただろう。

 そんな自分のありえたかもしれない姿を想像してゾッとする。


 しかし『統率者』の攻撃はそこで終わらない。

 枝分かれして針山のようになった物体は、尚も獲物を狙う蛇のように俺を追ってくる。

 

 「遮れ【アイアンシェル】ッ!!」


 ズドンッ

 

 とっさにエンドレスダークを防御形態に変形させ、真正面から受け止めるが想像以上に重い一撃に吹っ飛ばされた。

 骨が軋み、息が詰まる。


 「ッが!?」


 空中で体勢を立て直そうとしていたところ別の衝撃が背中に走り、気がついた時には俺は地面を舐めていた。

 脳が揺れ、吐き気がする。

 体がまるで自分の物ではないかのように重い。

 

 俺は今、何をされた?


 朦朧とする意識の中で現状を把握しようとするが、体に走る激痛と吐き気で上手く考えがまとまらない。

 地面に倒れこんだ自分の体の下から赤黒い水溜りが広がっていくのが見えた。

 その直後に背中から刺すような痛みを感じる。

 

 血?あの刃の群れは【アイアンシェル】で防いだはず…。


 親切にもその答えは、未だに棒立ちしている『統率者』が教えてくれた。


 『統率者』は今度は左足を持ち上げていた。

 そこには先ほど右足から伸びていた物と同(・)じ(・)物(・)が地面に伸びている。


 刃の群れは一つじゃなかったのか……。

 

 少し考えれば分かる事だろう。

 しかし未知の敵と戦う中で俺は冷静さを失っていたらしい。

 

 俺は今、完全に『統率者』に飲まれている。


 思わず引きつった笑みが浮かぶ。

 この世界に来てから俺は、苦戦と呼べるような戦闘をしてこなかった。

 無論それはこの身に与えられた六英雄の加護のおかげではあるが、俺はその力を過信することなく、常に油断せず、警戒を怠る事はなかった。


 そ(・)う(・)思(・)い(・)込(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)。


 であれば今のこの無様な姿は何だ?

 何故六英雄の加護というこの世界における絶対的なアドバンテージを与えられておきながら俺は地べたに這いつくばっている。

 相手が未知のモンスターだからか?

 この世界に来てから日が浅いからか?

 まだ人型の相手に殺意を向けることに躊躇しているからか?

 

 歯を食いしばる。

 地面に叩きつけられた際に口内に入ったのであろう砂利を、不快な音と感触と共に噛み砕く。


 死ねばそんな言い訳もできねぇだろうが。


 「喰らい尽くせ【狂龍(ガンドラ)】」


 ガクガクと震える体に鞭をうち、エンドレスダークを【狂龍(ガンドラ)】形態に変化させる。

 地面に広がった自分の血液を漆黒の鎧が吸い上げていく。

 なるほど、最初から出血多量の状態であればわざわざ牙を立ててくることは無いのか。

 ポーションを使う前にこの形態に移ったのは正解だったようだ。


 再び襲い掛かる白銀の刃の群れを正面から受け止めた。

 凄まじい衝撃と共に体中に激痛が走る。

 鮮血が飛び散り、俺を刺し貫いた白銀の刃を赤く染める。

 

 だがこれでいい。


 食い込む刃の束を掴んで固定し、一気に引っ張った。

 俺と『統率者』の間の地面が盛り上がり、本体と刃の繋がっていた部分が露になる。

 空中に引っ張り上げた『統率者』をそのまま地面に叩きつける。

 何度も、何度も何度も、何度も何度も何度も。

 周囲に砕けた刃が飛び散るが手は緩めない。

 ガクン、と体勢が僅かに崩れる。

 足元を見るとモグラ型のモンスターエビルモールが俺の右足を掴み地中に引きずり込もうとしている。

 背後から咆哮と奇声が聞こえる。

 振り向くと毛むくじゃらの巨躯に牛の頭を生やしたモンスターマドマッドが斧を振り上げながら、それから巨大な怪鳥型のモンスターエルバーンがこちらに突っ込んでくるのが見えた。

 三体とも第五危険度のモンスターだ。

 なるほど、危険度の割には随分と元気がいい。

 これが事前に聞かされていた『統率者』による強化か。

 

 「阿呆が。背後からの奇襲で声をあげるやつがどこにいる」


 俺はまず掴まれていた右足を振り上げ、エビルモールを地上に引きずり出してからその頭を踏み潰す。

 次に掴んだままの『統率者』を振り回し、背後の二体に叩き付けた。

 エビルモールは絶命、マドマッドとエルバーンはまだ残っていた白銀の刃で体を切断された。

 そのまま叩き付けた『統率者』と目が合う。

 整った顔はあちこちが罅割れ、もはや見る影も無い。

 体の至る所が砕けながらも流血が無いあたり、その見た目もあいまってやはりモンスターと言うより『人形』だ。

 

 ガパ


 『統率者』の口が大きく裂け、口内に魔力が集中するのが確認できた。

 

 「……本当に助かるよ」


 人型であってもここまで露骨に人間離れした姿を見せてもらえれば俺の方もやりやすい。

 エンドレスダークから自身の血液を再抽出し、巨大な三日月型の赤黒い刃を形成した。

 それを『統率者』が口内に集中させた魔力を撃ちだす前に蹴り込む。


 『統率者』は瞬時に白銀の障壁を生成し身を守ろうとしたようだが、俺の放った黒い三日月はその障壁もあっさり突破し『統率者』の身を真っ二つに両断した。

 真っ二つに両断さるのと同時に奴の頭上にあった光輪が砕け散り、その体はボロボロと崩れ落ちて光の粒子となって地(・)面(・)に(・)吸(・)い(・)込(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)っ(・)た(・)。

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