69話 美しき異形
「……ディアボロ様、どうやらソレが『統率者』のようです」
だろうな。
ここまでの存在感を放つような相手が『統率者』とは別にいてたまるかよ。
「ロボ、さっき吹っ飛ばされたのは……」
「誰だ、てめぇ……」
「アレク!まだ動かないでください!」
前方で未だに動きを見せない『統率者』に意識を向けたままロボに問いかけると、彼女の物ではない第三者の声が聞こえてきた。
吹き飛ばされた瞬間の様子からかなりの重傷だと思っていたが、話せる程度には回復したようだ。
周囲の状況を俯瞰して見る。
モンスターとの戦闘で襤褸雑巾のようだった魔族たちの傷が消えている事からロボに渡した『恵みの雨』を使用した事を察する。
しかし傷は治っても彼女たちは未だに動けずにいる。
全員が酷く疲弊して身動きが取れない状況のようだ。
「それは俺の獲物だ!横取りするんじゃっ」
「……彼女には眠ってもらいました。申し訳ありません」
背後で騒いでいた声が突如止んだ。
どうやらロボに何らかの手段で大人しくさせられたらしい。
絞め落とされたか?
「ロボ。アレクというのは、お前が話していた第七段階冒険者の『雷帝』アレキサンダーで間違いないか?」
「はい。しかし彼女も他の魔族同様、傷は回復できましたが体力までは…」
「いい、分かっている」
このような状況に何度も陥ると『恵みの雨』の効果が恨めしい。
せっかくなら傷だけではなく体力も全回復してくれればいいものを。
『死んでさえいなければどのような傷も癒せる』という効果は非常に強力ではあるものの、中途半端さが否めない。
なぜ俺が使うものはスキルといい、アイテムといい、どれもこう使い勝手が悪いのか。
何人かの魔族は動けそうだが、恐らく彼女たちは体力を消耗するほどモンスターとの戦闘が続かなかったのだろう。
言い方は悪いが、傷が治り、体力が残っているとはいえそのレベルの戦力にできる事などたかが知れている。
「ロボ、動ける魔族に他の魔族を運ばせてこの場を離れろ」
恐らくこれが最善だ。
せっかく『恵みの雨』で傷を癒したのに、戦闘に巻き込まれて再び重傷を負えば意味が無い。
今の彼女たちにできる事など何も無いのだ。
「わかりました。総員!動ける物は他の者を運んで退避!後方部隊と合流し、体力の回復に努めなさい!」
ロボの声に魔族たちが動き出す。
動ける魔族たちも戦闘ではあまり役に立たなかったかもしれないが、今は他の魔族をこの場から運び出してもらえるだけ俺としては非常にありがたい。
背後からロボが近づいてくる気配がしたのでそれを手で制す。
「ディアボロ様、私は」
「悪いがロボも他の魔族たちに同行して退避してくれ」
「アレは危険な物です」
「だからだ」
食い下がるロボに言い聞かせる。
「『アレが実は見掛け倒しでした』なんてことは第七段階冒険者たる『雷帝』のあの様子からまずありえないだろう。『雷帝』の負傷具合からして一方的にやられたんだろう。見た感じアレは無傷のようだしな」
「そう、ですね」
ロボの声のトーンが落ちる。
「勘違いするな。お前の友人は間違いなく強い。実際に戦っているところを見た訳では無いが、お前と同じ第七段階冒険者という冒険者の頂に立つ者としてその強さに疑う余地は無い」
実際彼女が他の魔族たちとは別格の強さを誇っている事はこの状況からも容易に読み取る事ができる。
俺たちが辿り着いたとき、他のモンスターも溢れかえる中、唯一彼女だけがアレの相手をしながら戦闘を続けていた。
他の魔族たちが一方的に蹂躙されている中で彼女一人だけが。
「『統率者』の存在自体がイレギュラーだ。他にも想定外の事象に警戒する必要がある。であれば彼女たちだけでこの場を離れる事は危険だ。俺の言いたいこと、分かるか?」
「ですが」
「心配しなくとも、アレと俺が共謀する事は無い」
「……どういう意味ですか?」
「見れば分かるだろう。アレはそもそも会話が成立するような相手じゃない。俺ともお前とも違う別種の存在だ。もしかしたらモンスターですらないかもな」
「ですから言葉の意味が」
「話は終わりだ、黙って行け。お前がこの場に残ってもできる事など何も無い。足手纏いだ」
「……分かりました。ですが彼女たちを後方に退避させた後はこの場に戻ってきます。ディアボロ様の戦闘に巻き込まれるような愚は冒しません」
「そのあたりが妥協点になるか。分かった」
ロボの気配が離れていく。
俺が『統率者』との共謀について口にしたとき、彼女は明らかに動揺した。
顔には出さなかったかもしれないが、俺は彼女に背中越しに話しかけていたためそんな物は関係ない。
空気で動揺が伝わってきた。
俺も気が立っているのかもしれない。
別にそんな事まで触れなくても良かっただろうに。
余計な軋轢を作り出す原因を、自分のほうから作り出していては世話無い。
彼女は監視者という仕事上俺を常に疑い続けなければならない。
職務を全うしているだけの彼女にはなんら問題は無い。
問題があるのはそれを理解しながらわざわざ口に出した俺の方だ。
「それでは、御武運を」
そう言ってロボが他の魔族たちと共にこの場から離れていく。
これで場は整った。




