67話 不安要素
「『統率者』の見た目に関する情報は聞けたか?」
目的地に向かって走りながらも俺は併走するロボに問いかける。
「信じがたいことなのですが、『統率者』の見た目はモンスターなどではなくどちらかというと人族に近かったという情報が挙がってきています」
「……モンスター、なんだよな?」
「私もその点が気になりましたが、実際自分の目で見てみないことには何とも言えません」
人型ではなく人族に近い見た目。
そんなもの俺は知らないぞ。
やっぱり嫌な予感当たってるじゃねえか。
「とにかく急いだ方がよさそうだな。現場の状況は?」
「途中までは問題なく討伐を進めていたそうですが、その『統率者』と思われるモンスターが現れてから他のモンスターが急に活性化したそうです。それまでの戦闘による疲れもあり、劣勢を強いられているとのことです」
『統率者』と思われるモンスターが現れてから周囲のモンスターたちが活性化したと言う事はそれが奴の能力か?
モンスターが魔族や人族のようにスキルや魔道具を使用している姿は確認されていない。
であれば周囲のモンスターの強化は奴本来の『体質』もしくは『性質』なのか?
俺は今の話を聞くまでは『統率者』その強大な力を以ってして他のモンスターを従えているだけだと思っていた。
それだけであれば、本来『高危険度のモンスターを他のモンスターが従えることなどありえない』という大前提が覆されてはしまうものの、まだ許容範囲であった。
第七危険度のモンスターがタイラントバジリスクのように突然変異した種であれば、危険度測定不能のモンスターとして存在している可能性も考えていた。
それだけであれば苦戦は免れないだろうが、まだ対処のしようがある。
しかし周囲のモンスターを強化する能力を持っているとなれば、話はまるで変わってくる。
能力の有効範囲は?どこまで強化できる?『統率者』自身の戦闘能力は?
そして…。
『統率者』は何体いる?
あまり考えたくない事だが、常に最悪の状況を想定するのが俺のやり方だ。
状況を軽く見て想定外のしっぺ返しを喰らうのだけは避けたい。
「『統率者』がいる区画にもロボみたいに指揮を任された魔族がいるのか?」
「はい、私と同じ第七段階冒険者『雷帝』アレキサンダー。彼女がその区画を任されています」
「…ロボと同じ第七段階冒険者がいながら劣勢なのか?」
「彼女は周囲の力を借りる事を嫌います。その彼女が救援を要請した事からも相当状況が良くないのでしょう。念話結晶越しにも彼女の焦りが伝わってきました」
進路を塞いでいた巨大な像のような見た目のモンスターの頭を掴み、膝蹴りで吹き飛ばす。
『代償の指輪』があるとはいえ、できるだけ使わなくて済む魔力は使いたくない。
これから向かう先で正体不明のモンスターと戦う事になるのならなおさらだ。
ロボも先ほどから進路上に現れるモンスターを難なく刈り取っている。
森の中を進むごとに俺たちの進路上に現れるモンスターが増えているような気がする。
これも『統率者』とやらの仕業なのだろうか。
こちらの動きが既に相手に把握されているとしたら厄介だ。
理想は不意打ちで一気に片付ける事だったのだが。
隣を走るロボの顔には、よく観察しないと分かり難いが焦りの色が浮かんでいた。
「……その『雷帝』のアレキサンダーとは親交があるのか?」
俺の問いに一瞬ロボの表情が、焦りから驚きに変わる。
「彼女は、かつて一緒にパーティを組んでいた仲間です」
彼女の走る速度ががさらに早まった気がした。
「だから私は知っています。彼女がそんな簡単に救援を要請する人物ではないことを。いくらスタンピードによって数が多いとはいえ、普通のモンスター相手にそこまで苦戦を強いられるほど弱くは無いという事を」
「随分信頼しているみたいだな……」
「はい。パーティは解散しましたが彼女が私にとってかけがえの無い、自分の背中を預けられる大切な仲間である事には変わりありませんから」
僅かに頬を緩める彼女を見て、俺はアイテムボックスから『恵みの雨』を取り出した。
少し悩んだが俺はそれを彼女に向かって放る。
「これは……?」
「『恵みの雨』、回復アイテムだ。何度か俺が使っているのを見て知っているだろうが、対象が生きてさえいればそれなりの効果がある。向こうに着いたらそれをすぐ使え」
「なぜそれを私に?」
分からないか?
「今までの経験からして、俺が使えば『人族なんかに借りを作ってしまった……』などと思われかねない。基本的に何と思われようが構わないが、いちいちそんなことで絡まれるのも面倒だ。だが使わないわけにはいかないだろう?」
「……感謝します」
彼女が何に感謝してるのか分からないがこれでいい。
このスタンピードにおいて魔族側の戦力が削られるのは可能な限り避けたい。
正体不明の強力なモンスターが出現しているのならなおさらだ。
今回の件が上手く片付いたら『恵みの雨』を何個かロボに渡しておくのもいいかもしれない。
別にそれで手間が省ける事はあっても困る事はないしな。
「っ!見えてきました!」
そう言ってもう一段階スピードを上げたロボを俺は追い越して、現場に向かった。




