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臆病・口下手・不器用と三拍子揃った俺だがこの奇妙な異世界には負けたくない  作者: Deadfool


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65話 スタンピード


 「ヒーラーをさっさとこっちに回せ!」

 「このままじゃ押し切られるぞ!!」

 「高危険度のモンスターは高段階の冒険者に任せろ!低段階は雑魚を狩れ!」

 「負傷者はすぐに後方へ!」

 「余裕かましてんじゃねぇ!こんな時に出し惜しみするような間抜けは後ろからその首叩き落すぞ!!!」


 あたりを怒号と武器、血と肉片、悲鳴が飛び交う地獄絵図。

 その中には何人か見知った顔もいるが、全員が全員高危険度のモンスターの相手にかかりきりでこちらに気づく余裕などありはしない。

 

 何だ、これは。


 既に激しい戦闘が繰り広げられているであろうことは、容易に想像することができた。

 だが、現実とは常に予想の斜め上を行く物だ。

 俺が転移部屋の扉を潜る際に頭の中で思い描いていた情景と目の前に広がる情景は似てはいるものの、本質はまるで違う。

 この場所では命が簡単に消えていく。

 周囲を転がるモンスターや魔族の死屍累々が、俺に嫌でも現実を突きつけてくる。

 当然逃げ場などない。


 「ディアボロ様!」


 ロボの声が聞こえた。

 けたたましい雄叫びをあげ、体中から触手を伸ばした肉塊が蠢きながらこちらに向かってくる。

 こんなモンスター、俺は知らない。

 知らないものは、怖い。


 「だからお前はここで死んでくれ……、喰らい尽くせ【狂龍(ガンドラ)】」


 身に纏った漆黒の鎧『エンドレスダーク』を『狂龍(ガンドラ)』状態に変形させる。

 以前、タイラントバジリスク戦でこの【狂龍(ガンドラ)】を使用した時、自分の思考があまり良くない方向に向かっていた事に気がついた。

 

 『自分以外がどうなろうとも構わない、邪魔な者は皆殺しにしなければ心の平穏は永遠に訪れる事はない』

 

 あの時の状況が俺にそのような思考をさせたのか、この形態の効果によるものなのかは定かではない。

 俺の体にエンドレスダークが牙(・)を(・)剥(・)く(・)。

 体中から零れ落ちた真っ赤な鮮血が足元に小さな水溜りを作った。

 そこに映る自分の顔は、いつもどおり隈が濃く浮かび上がった仏頂面だが、俺にはいつにも増して醜く見えた。


  「―――――――――ッ!!!!」


 迫り来る肉塊に【帝王の雄叫び(エンペラーハウル)】を叩きつけた。

 奴の体全体が痙攣し、動きが鈍るのを確認したのと同時に俺も駆け出して一瞬でその距離を詰める。

 そして肉塊と俺の体が衝突する。

 あまりの衝撃に地面には亀裂が入るが俺の体は無事だ。

 肉塊の大きさは約10m、自分よりも遥かに重い相手との正面衝突。

 単純に考えれば俺など簡単に跳ね飛ばされるのは明らかだが、この身は幸か不幸か六英雄の加護により少しばかり頑丈にできている。

 至近距離から放たれる悪臭に吐きそうになったがそれだけだ。

 

 キャアアアアアアアッ!!!


 肉塊は甲高い鳴き声をあげながら体中から生えた触手で俺を襲う。

 

 ガッ!?


 その全てを体から突き出した血の槍で串刺しにし、縫い止める。

 必死に逃れようとする肉塊に対してエンドレスダークの胸元を展開し、零距離で黒炎砲を放った。

 肉が焼ける匂いがただただ不快だったが、すぐに骨も残らず蒸発した。


 見た限りこいつもかなり高危険度のモンスターのようだが、今回の目的は素材の採取ではないしそんな事をしている心と時間の余裕も残念ながら無い。

 余計な事を考えて足元をすくわれていては目も当てられない。

 

 後ろに飛び退く。

 

 オルルルォ!!

 

 先ほどまで俺が立っていた位置に巨大な大蛇が突っ込んできた。

 銀色の鱗に覆われ額に水晶、無機質な金色の瞳。

 

 第六危険度モンスター、ミラージュサーペント


 その巨体からは想像もつかないほどの俊敏性に幻術の類も扱えるほどの知能の高さを誇るモンスター。

 自分の記憶の中の知識と答え合わせをしながら戦う。

 

 傷を負っても体力と魔力が続く限り、脱皮を繰り返す事ですぐに回復する。

 金色の瞳には麻痺効果がある。

 尻尾の先端が割れ、そこから水晶の槍を飛ばしてくる。


 全て確認を終えてから額の水晶を叩き割り、首を落とす。

 こいつの弱点は魔力の根源であり、第二の脳とも言われるこの水晶だ。

 これを破壊すれば魔力の制御が狂い、混乱状態に陥る。

 さらにご自慢の脱皮による高速再生能力も幻術も使えなくなる。


 しかしこいつの水晶はかなり頑丈なのでこの弱点を突くには前提として水晶を破壊する事が可能な高火力を出せる事が必須条件だ。

 

 未だ痙攣している頭を失ったミラージュサーペントを一瞥してから周囲の状況を確認する。

 どうやらこの周辺で第六危険度以上のモンスターは俺が倒した肉塊とミラージュサーペントくらいのようだ。

 俺はアイテムボックスから『恵みの雨(ポーションレイン)』を取り出し、頭上に放り投げる。

 恵みの雨が戦いで傷ついた冒険者たちを癒していく。

 とはいえ失った体力までは回復できないのでできれば元負傷者の彼女たちには後方で体力の回復に努めてもらいたいのだが、まさか俺がそのような事を言うわけにも行くまい。


 「ディアボロ様」

 

 数体の牛型のモンスターの頭をトマトの様に破裂させていたロボがこちらに駆け寄ってきた。

 彼女に頼んでみるか。


 「ロボ、負傷者の傷は俺のアイテムで回復できたが、失った体力はそうもいかない。先ほどまで負傷していた連中を後方に回す事は可能か?」

 「現状、それは難しいかと。今彼女たちを後退させれば、一気に押し切られます」


 さすがにそこまでの余裕は無いか。


 会話の最中に他のモンスターを狩りながら考える。

 既に消耗している彼女たちを休ませなければどのみちこの前線は瓦解する。

 しかし、今彼女らを後退させる訳にも行かない。

 今もモンスターたちの群れが次から次へと雪崩れ込んで来ている。

 であればここで俺がとるべき行動は一つだ。


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