58話 思考の沼
「本当に、全部の場所を確認したのか!?」
「……はい」
「採掘道具が全滅って、じゃあどうやって鉱石を掘るんだ……」
絶望する彼女達の様子から状況が悪くなった事は察したが、情報が少ないため正確な状況が読めない。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、隣にやって来たサーシャが苦々しげに口を開いた。
「彼女たちは、村に伝わる過去の伝承からタイラントバジリスクが何でも食べる事を知っていましたの。ですからもし村にあのモンスターが来て硬貨や食料、建造物を食べられたとしても鉱石の採掘ですぐに村を復興できるように採掘道具を森のいたるところに分散させて隠してから討伐に向かったそうですわ」
「それも全滅していた、と?」
「そのようですわ。あなたにはまだお話していなかったかもしれませんが、このカムイの村の鉱山で採掘される鉱石はヘルへヴンでも指折りの品質を誇っていますの。なので鉱山さえ無事であればいくらでも再起が図れるはずでしたが…」
鉱山があっても採掘する道具が無ければどうしようもない。
にしてもあいつら本当に何でも食うのな。
悪食なのは知っていたが、さすがに硬貨までたべるとは…。
そもそも連中、食べ物を判別できているのかすら怪しい。
いや、狩りをする習性がある以上、判別はできているのか?
……とりあえず今はカムイの村の今後について考えなければ。
「もう素手で掘るしか……」
「できもしないことを言うな!あんな硬い場所を素手で掘れるわけが無いだろうが!」
「じゃあどうするんだ!?もうじき冬が来るんだぞ!」
「そんな事よりも食料と薪が必要だ…。このままでは飢え死にするか凍え死ぬしかない」
「まずはこの吹き曝し状態の家をどうにかするべきじゃないのか?」
「そのために使う金が今のままじゃ稼げないって言ってるんだろうが!!」
教会内は混沌を極めていた。
ただでさえタイラントバジリスクとの死闘で仲間を失い、精神的にも肉体的にも疲弊しているところに追い討ちをかけられたのだ、無理も無い。
まして四季の中で最も厳しい季節である冬が近づいているのであれば尚更だ。
俺はこの世界に来てから季節を気にする余裕も無かったが、この世界における冬は食べ物が不足する上にその寒さは対策ができていなければ常にダメージを受け続けるほど厳しいものになる。
何と間が悪い。
ここまで気丈に振舞っていたラージャも唇を噛み締めて必死に己の不安を抑え付けようとしているようだが、今のままでは絶望的なこの現状に対する打開策が浮かぶとは思えない。
「サーシャ様、町や他の村に支援を求めることはできないのでしょうか?」
俺よりもよっぽど賢くこの世界の情報に詳しいであろうサーシャに尋ねてみたが、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「カムイの村は鉱山の場所、鉱石の採掘方法や加工方法などを秘匿するために外部との交流は必要最小限に留めていますわ……。そのため、支援を頼めるあてがありません」
「要するに八方塞がりという訳か」
「致し方ないことでしょう」
先ほどまで静観していたロボが話しに入ってきた。
「周囲との関係を絶つ代わりに、カムイの村は鉱業で莫大な利益を得てきました。それが悪い事だとは言いませんが、そのしわ寄せが今回巡って来たというだけのことです」
「ロボ様、さすがにその言い方は」
「私はただ事実を申し上げただけです。サーシャ様ならお分かりでしょう、利益を求めるのならばそれ相応のリスクを背負う事になります。その結果がこのような形で現れたに過ぎません」
「……」
ロボの言葉にサーシャが反論しないのは、その考え自体は彼女も理解しているからだろう。
何のリスクも背負わずに成功を収める事など不可能だ。
そんな方法があるのならばぜひとも教えてもらいたい。
今まで特に気にも留めていなかったのだが、『境界の森』という危険地帯ありながらこの村はかなり裕福な生活を送っていたようだ。
俺がこの村に到着したときはすでにタイラントバジリスクに蹂躙された後だったため、よけいに気がつかなかったのかもしれない。
そもそも他の村を訪れた事がないので比較できないのだが。
それにしてもロボ、やっぱり機嫌悪くないか?
彼女がここまで他の魔族に対して冷たい態度をとるところなど、町のレストランにいたドワーフの給仕の時以外見ていない。
あの時は『魔王に対する不敬行為を行ったから』という明確な理由があったので彼女の態度にも納得がいったが、今回は別に魔王に対する不敬行為もなければ俺たちに対して何かされたわけでもないと思うのだが。
ドワーフ族が嫌いだとか?
いや、彼女がそのような差別的な考え方の持ち主だとは考え難い。
分かるわけがない。
そうだ。
他人が考えている事など予想はできても本当の意味で理解する事など不可能だ。
俺の予想だってあくまで普段の彼女の上っ面を見て勝手にしたものだ。
俺には本当の彼女がどのような人物なのか、知る術が無い。
どこまで行っても俺は、この世界で命を懸けた腹の探りあいを続けるしかないのだ。
『裏切られた』なんて情けない事を言うのは死んでも御免だ。
信じなければ裏切られる心配も無い。
誰も信じられないことは苦しいが、誰も信じないからこそ得られる安寧もある。
少し思考がずれてしまった。
今はとにかく俺にできる最善の選択をする事だけを考えなくては。




